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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第四章『ロックバンド、水の国で魔族と出遭う』

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十六曲目『海の悪魔』

 片付けた二本の触腕は力なく痙攣し、地面に横たわっている。これで残りは二本だ。

 二本の触腕はウネウネと動きながら、俺たちの様子を伺っているのか襲いかかってこない。


「……んだよ、やる気あんのか?」


 一向に襲ってこない触腕に、アスワドはイラつきながら呟く。

 このまま逃げてくれたらいいんだけど……なんとなく、嫌な予感が止まらない。

 むしろ、ここからが本番なんじゃないか。そんな不安は的中し、全ての触腕が湖の中に消えていく。

 そして__勢いよく水しぶきを上げながら湖から白い巨大な物体が現れた。


「こ、こいつは……」


 アスワドが唖然としながら現れた物体__モンスターを見つめる。

 五メートルぐらいはある、見上げるほどに大きな白い胴体。ギョロリと俺たちを睨む丸い目。蠢く十本の足。

 俺たちの世界で言うならその姿は__まさに、イカ。それもかなり巨大なダイオウイカだ。


「な、なんで<クラーケン>がこんなところにいるんだ!?」


 アスワドが顔を引きつらせながら叫ぶ。

 そのモンスターの名は、クラーケン。海の悪魔と呼ばれている、沖の方(・・・)に現れる珍しいモンスターだ。

 アスワドが驚くのも分かる。こんな浅瀬にある入り江の洞窟に現れるようなモンスターじゃないはずだ。

 クラーケンは俺たちを見ると、触腕を振り回して襲いかかってきた。


「__うわぁ!?」

「__チィッ!?」


 俺とアスワドはすぐにその場から離れ、触腕を躱す。

 本体が現れたことにより、触腕による攻撃が正確になっていた。

 だけど、これは逆にチャンスかもしれない。


「本体が現れたんなら、そっちを叩けばいいだけだ」


 触腕相手だと、いたちごっこだったんだ。本体が出てきたなら、そっちを叩けば倒せるかもしれない。

 気合いを入れ直し、剣の柄を握りしめた。


「やるぞ、アスワド!」

「俺に命令すんじゃねぇ!」


 悪態を吐きながらアスワドは俺に続いて走り出す。

 暴風のように荒々しい触腕の攻撃が襲いかかってきた。俺とアスワドはどうにか避けながら前に出て、本体に向かっていく。


「アスワド!」

「だから、命令すんなって言ってんだろ! <我が祈りの糧を喰らう龍神よ、我が戦火を司る軍神よ、今こそ手を取り我が往く道を指し示せ>」


 避けながらアスワドに声をかけると、アスワドは走りながら魔法を詠唱する。


「__アイス・シャック……ッ!?」


 そのまま魔法を使おうとした瞬間、触腕は俺たちを近づけさせないようにバンバンと地面を叩きまくってきた。

 衝撃と砂煙に邪魔されて、アスワドは魔法を途中でやめて回避に専念する。


「ちくしょう、あれじゃあ近づけねぇぜ!?」


 クラーケンは触腕は地面を叩き、残りの触腕をブンブンと振り回している。絶対に近づけさせないつもりか。


「どうする……?」


 思考をフル回転させて考える。

 近づくには触腕が邪魔だ。あの触腕をどうにかしつつ、本体に近づいて攻撃するためにはどうしたらいい?


「……アスワド。あの触腕、全部凍らせられるか?」


 俺だと触腕をどうにかすることは難しい。アスワドの氷属性魔法でどうにかするしか方法がないと判断した俺が、アスワドに問いかける。

 すると、アスワドはニヤリと笑みを浮かべていた。


「出来るに決まってんだろ。だが__少し時間が必要だ」

「分かった__なら、その時間は俺たちが稼ぐ」


 触腕全てを凍らせるために時間が必要なら、俺たちが時間稼ぎをすればいい。

 剣を構えながら言うと、アスワドはタンッと軽快なステップで後ろに下がった。


「やよい、ウォレス! 俺たちが囮になって時間を稼ぐぞ! 攻撃は極力避けて、回避に専念だ! <アレグロ!>」

「ハッハッハ! 分かったぜ! <アレグロ!>」

「うん! <アレグロ!>」


 俺、やよい、ウォレスは同時に敏捷強化(アレグロ)を唱え、走り出す。三方向から向かってくる俺たちに触腕は反応し、襲いかかってきた。

 俺たちはジグザグに走りながらクラーケンの狙いを分散させ、攪乱する。

 そこで後ろに下がっていたアスワドが魔力を集中し、詠唱を始めた。


「<我が祈りの糧を喰らう龍神よ、我が戦火を司る軍神よ、背を向けし両者に贄を捧ぐ。其は凍獄の権化なり>__<ブリザード・ファフナー!>」


 アスワドの周囲が冷気に包まれると空気中の水分が凍り付き、巨大な龍の形になっていく。

 氷の龍は白い息を口から吐きながら、クラーケンを睨みつけていた。


「行くぞ、オラァァァァッ!」


 アスワドの怒声と共に、氷の龍がパキパキと音を立てながらクラーケンに向かっていく。

 するとクラーケンは氷の龍に触腕を伸ばし、グルグルと胴体に巻き付けてきた。

 触腕は龍に触れた瞬間に凍っていくけど、それでも逃さないとばかりに巻き付いてそのまま砕こうとしている。

 巨大な氷の龍と巨大なイカのモンスターの攻防は、まるで神話の世界の光景のようだ。

 首や胴体を触腕で絞められている氷の龍は苦しむように口を開き、冷気を吐き出している。


「ぐ、ぬ、お、おぉッ!」


 アスワドは右手をクラーケンに向け、苦悶の表情を浮かべながら氷の龍に魔力を送り込んでいる。

 必死に抵抗しているクラーケンに負けじと、魔力を送り込まれた氷の龍は鋭い牙を触腕に突き立てた。

 牙を突き立てられた触腕が一気に凍り付いていくけど、全てを凍り付かせるにはまだ足りない。


「__<レイ・スラッシュ!>」


 俺は走りながら剣身に魔力を纏わせ、触腕に放つ。俺の攻撃で触腕が斬り落とされ、その傷口を塞ぐように凍り付いていった。

 だけど、クラーケンの抵抗は続いている。このままだとアスワドの魔力が尽きてしまう。


「__あぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そこで、ずっと心ここにあらずだった真紅郎が、叫びながらクラーケンに向かっているのに気付いた。

 真紅郎は魔装を構え、弦を弾いて魔力弾を連続で射出する。でも、その攻撃はいつもの真紅郎らしくなく、狙いが定まっていなかった。

 天井や壁に魔力弾が当たる中、何発かは触腕に直撃している。魔力弾が当たったことで触腕の力が弱まっていた。

 それを嫌がったのかクラーケンは一本の触腕を氷の龍から外し、そのまま真紅郎に向かって勢いよく振り下ろす。

 真紅郎は周りが見えていないのか、避けようとしていなかった。


「危ねぇ!?」


 そんな真紅郎のピンチを、ウォレスがタックルしながら助け出す。

 間一髪触腕を避けることが出来た真紅郎は、ウォレスに抱きしめられながら地面を転がった。


「バカ野郎! 死にてぇのか!?」


 ウォレスにしては珍しい叱責に、真紅郎は青ざめた顔で俯く。やっぱり真紅郎は冷静じゃないみたいだ。


「ウォレス! そのまま真紅郎を連れて避難しろ!」

 

 俺の指示にウォレスは頷き、真紅郎を背負いながらその場を離れていった。

 真紅郎、無茶し過ぎだ。でも、無謀な単騎での突撃のおかげでクラーケンに隙が出来た。


「行くぞぉぉぉぉ!」


 アスワドが最後の力を振り絞るように叫ぶと、触腕を振り切った氷の龍は湖に顔を埋める。

 そして、湖と一緒に触腕の全てとクラーケンの本体の一部が一気に凍り付いた。

 今しかない__ッ!


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」


 俺は叫びながら走り出す。

 剣を左腰に置き、剣身と音属性の紫色の魔力を一体化させた。

 凍り付いてスケートリンクのようになっている湖を滑るようにして走り、凍り付いた全ての触腕に向かって剣を横に薙ぎ払う。


「__<レイ・スラッシュ・三重奏(トリオ)!>」


 レイ・スラッシュの新しいバリエーション。二重奏から三重奏へと進化を遂げた紫色の斬撃を、触腕に放つ。

 最初の一撃で、凍っている触腕にヒビが入る。

 追撃するように二撃目の音の衝撃が触腕を内側から破裂させ、ダメ押しの三撃目の衝撃が全ての触腕を砕いた。

 全ての触腕を砕かれたクラーケンは声なき悲鳴を上げ、湖の中に倒れ込む。

 激しい水柱を立てたクラーケンは、そのまま湖の中に沈んでいき……姿を消した。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 肩で息をしながら警戒していたけど、数分経ってもクラーケンが現れなかった。

 そこでようやく、警戒を解いて力を抜く。


「ど、どうにかなったな」


 かなりギリギリだったけど、俺たちはどうにかクラーケンを撃退することに成功したようだ。




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