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漂流ロックバンドの異世界ライブ!〜このくだらない戦争に音楽を〜  作者: 桜餅爆ぜる
第四章『ロックバンド、水の国で魔族と出遭う』
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十一曲目『八つ当たり』

 俺たちが約束を破ってライブをして、荒くれ者や王国が差し向けたであろう仮面の男と戦って、二日後。

 あれから監視の目は強くなり、俺たちの部屋の前では使用人たちが二十四時間体制で立っていて、トイレに行こうとするだけでもかなり警戒されるようになっていた。

 自業自得とはいえ、かなり息苦しい状況が続いている。


「はぁぁ……あぁ、ライブしてぇぜぇ」


 ベッドに力なく寝そべったウォレスが、ため息混じりに呟く。

 ライブどころか、練習もダメ。部屋に出るのもダメだから、稽古も出来ない。やることがなくて暇だ。

 ウォレスだけじゃなくて俺もやよいも、サクヤも暇そうにだらだらとしている。何かやることがあればなぁ。

 そんなことを考えていると、真紅郎がおもむろに口を開いた。


「__ねぇ、また抜け出してライブしない?」


 真紅郎の提案に、俺たちは目を丸くする。あれだけのことがあって、まだ言うのか?

 すると、ウォレスが気まずそうに頭を掻きながら答えた。


「あのよぉ、真紅郎。そいつはさすがにダメじゃねぇか?」

「どうして? ライブ、したいんじゃないの?」

「いや、まぁ……そりゃあ、したいけどよぉ」

「なら、やろうよ」


 真紅郎に迫られて困っているウォレスが、俺をチラッと見て助けを求めていた。

 仕方ない、助け船を出してやるか。


「真紅郎、それはダメだ」

「どうして? タケルもライブしたいんじゃないの?」

「したいさ、当然だろ? でも、今はダメだ。俺たちはライトさんや、エイブラさんに保護されている身だぞ? それなのに、何度も裏切る真似をしたらさすがに追い出される。そうなったら、俺たちはこれからどうしたらいいんだ?」

「……どうにかなるよ。ライブしながら、また旅をしたらいい」

「王国から逃げながらか? 現実的じゃないだろ。冷静になれ、真紅郎。お前らしくないぞ?」


 普段の真紅郎なら、こんな考えなしの提案をしない。それほどまでに、今の真紅郎は冷静じゃない。

 俺の指摘に真紅郎はふてくされたようにそっぽを向き、何も言わなくなった。

 それだけエイブラさんの言うことを聞きたくないんだろうな。真紅郎曰く、エイブラさんは俺たちに嘘を吐いているらしいし。

 その嘘がなんであれ、真紅郎は許せないんだろう。父親に似ている、とも言ってたからそれもあるかもしれないけど。

 さて、どうしたものか。困っていると、ドアをノックする音が響いた。

 部屋に入ってきたのは、ライトさんだった。


「失礼。今、ちょっといいか?」

「どうしました?」

「提案したいことがあってな。今から一緒に、ユニオンまで来てくれないか? 話はそこでしよう」


 提案? なんだろう……。

 とは言え今の俺たちにやることなんてないし、久しぶりの屋敷の外なんだ。気分転換も兼ねて行ってみるか。


「分かりました。みんなもいいよな?」

「賛成! あたし、外に出たい!」

「ハッハッハ! オレもだ! こう部屋の中に閉じこもっていると、筋肉が鈍っちまう!」

「……ぼくも、出たい」

「きゅー! きゅー!」


 やよい、ウォレス、サクヤ、多分キュウちゃんも賛同する。

 最後に、真紅郎だけど……黙り込んだままだった。


「真紅郎はどうする?」

「……行くよ」


 少し間を空けてから、吐き捨てるように真紅郎が答える。外に出て、少しでも真紅郎の機嫌が直ればいいんだけどな。

 とにかく、俺たちはライトさんと一緒に久し振りに屋敷の外に出てユニオンに向かった。

 俺たちだとバレないように、とライトさんが手渡したローブを纏い、フードを目深に被って街を歩く。

 すると、やよいがキョロキョロと街を見渡しながらため息混じりに呟いた。


「はぁ……せっかくこんな綺麗な街なのに、好きなように見て回れないのは辛いよぉ」


 やよいの言葉を聞いたライトさんは嬉しそうに、そして困ったように笑みを浮かべる。


「はは、そう褒められると自分のことのように嬉しいな。本当ならキミたちにもっとこの国のことを教えて上げたいのだが……申し訳ない」

「あ、別にライトさんが謝ることじゃ……」

「だが、分かって欲しい。これはキミたちのことを思って……っと、違うな。キミたちを守るためなんだ。信じて欲しい」


 話の途中で真紅郎に気を使ったライトさんは、言葉を変えて俺たちに真剣な表情を向けた。

 俺には、ライトさんが嘘を吐いているように見えない。本当に俺たちを守るために頑張ってくれているって思う。

 真紅郎はどうなんだろう。そう思って真紅郎に目を向けると、ライトさんから目を逸らして俯いていた。


「……ライトさんは、嘘を吐いていないよ」


 ボソッと、俺の考えていることを察した真紅郎が呟く。

 ライトさんは、という部分を強調していることから、エイブラさんは嘘を吐いているけどと言いたげなのがすぐに分かった。

 ライトさんもそれが分かったのか、苦笑いを浮かべている。

 そんなことを話しながらユニオンに向かっていると、突然怒声が響き渡った。


「おい、てめぇ! そこにいるのは指名手配されている奴らだろ!? ようやく見つけたぞ!!」


 俺たちに向かって叫んでいたのは、頭や顎に包帯を巻いた荒くれ者……俺たちの命を狙っていた荒くれ者集団のリーダーだった。

 その後ろには同じように包帯を巻いた、ボロボロの荒くれ者たち。また性懲りもなく現れたみたいだな。


「……キミたち、ここは他の住人もいる。話なら後でユニオンで聞くから、ここは」

「うるせぇ! てめぇは黙ってろ! 用があるのはそこの犯罪者たちだ!」


 どうにか宥めようとしたライトさんを無視して、リーダーは俺たちに向かって剣を向けてくる。

 これは何を言っても無駄みたいだな。仕方がない……と、俺が魔装を展開しようとした時、真紅郎が一歩前に出た。


「ボクがやる」


 そのままツカツカと、荒くれ者集団に向かって歩いていく真紅郎。俺やライトさんが止めようとしたけど強引に振り払うように集団の前に立った真紅郎に、リーダーはニヤリと口角を上げていた。


「大人しく捕まってくれるのか、お嬢ちゃん?」

「……ボクは、男だ」

「ガッハッハ! お前みたいな奴が男? 笑わせるな! そんなヒョロイ体で__」

「__黙れ」


 真紅郎は即座に魔装を展開してベースを構えると、ネックの先端にある銃口をリーダーの顎に向けて弦を指で弾く。

 それが引き金となり、銃口から魔力弾が射出された。魔力弾はリーダーの顎を跳ね上げ、そのまま空へと向かっていく。

 突然の出来事に呆然としている荒くれ者集団に、被っていたフードを外しながら真紅郎は言い放った。


「今、ボクは機嫌が悪いんだ……ただで帰れると思うな」


 ギロリと鋭い視線を送る真紅郎は、ゆっくりとベースを構える。そして、三本の指を使って弦を速弾きした。

 マシンガンのように、魔力弾の雨を荒くれ者たちに浴びせる真紅郎。

 放たれる魔力弾に荒くれ者たちは踊るように吹き飛ばされていく。逃げようとする者にはコントロールノブを操作して、縦横無尽に飛び回る魔力弾で狙撃した。

 地獄絵図のような一方的な蹂躙は五分ほど続き、残されたのはピクピクと痙攣しながら倒れ伏す荒くれ者たちの山と__銃口から流れる煙を息で吹き消している真紅郎だけだった。


「ふん……二度と来ないでね」


 最後に鼻で笑いながら踵を返し、魔装をアクセサリー形態に戻す真紅郎。完全に八つ当たりだよなぁ……。

 フードを被り直して一人ユニオンに向かって歩く真紅郎の背中を眺めながら、俺は深々とため息を吐いた。

 



 


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