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漂流ロックバンドの異世界ライブ!〜このくだらない戦争に音楽を〜  作者: 桜餅爆ぜる
第四章『ロックバンド、水の国で魔族と出遭う』
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十話『怒りと嘘』

「__キミたちは何をしたのか、分かっているのかぁぁぁぁぁッ!?」


 エイブラ邸に帰ってきた俺たちを待ち受けていたのは、顔を真っ赤にしたエイブラさんの怒号だった。

 屋敷を震わせんばかりの怒鳴り声に、俺たちは身を竦ませる。六十越えの声量とは思えないほどだ。

 エイブラさんは息を荒くさせながら、俺たちをギロリと睨んでくる。


「屋敷を勝手に抜け出し、禁止していたらいぶを強引に敢行するとは……命を狙われている自覚があるのか! どうして私の言うことを聞かないのだ!?」


 ぐうの音も出ない。

 せっかくエイブラさんは守ろうとしてくれているのに、俺たちはそれを裏切った。

 何も言えずに黙り込んでいる俺たちを見かねて、ライトさんが話に入ってくる。


「父上。タケルたちも反省しているようですし、命に別状はなかった訳ですから。今回は許してはいかがでしょう?」

「甘い! ジュニアよ、お前は甘過ぎる! 間に合ったからよかったものを……」

「とりあえず、落ち着いて下さい父上」


 ライトさんに言われ、エイブラさんがゆっくりと深呼吸する。

 冷静になったエイブラさんは、鋭い眼差しを向けながら口を開いた。


「……今回のことで分かっただろう? キミたちの命を狙う輩は、すぐそこまで来ているのだ。私が色々と縛り付けているのは、別にキミたちが嫌いだからではない。キミたちを守ろうとしているからだ。私は、キミたちのことを__」

「__それ、果たして本当なんですか?」


 ふと、エイブラさんの話を遮って真紅郎が割って入る。

 まるでバカにするように鼻で笑いながら言う真紅郎に、俺たちはギョッとした。なんで火に油を注ぐようなことを?

 すると、エイブラさんは額に青筋を立てながら真紅郎の方に顔を向けた。


「どういう意味だ? 答えろ、真紅郎」

「そのままの意味ですよ。本当に、ボクたちのことを思って言ってますか?」

「……何が言いたい? はっきり言ってみろ」

「だから、そのままの意味ですって」


 落ち着いてきた怒りが再度込み上げているのか、エイブラさんは険しい顔で真紅郎を問いただす。

 だけど真紅郎は気にする様子もなく、むしろ喧嘩を売るように吐き捨てた。


「お、おい、真紅郎……」

「__何?」


 様子のおかしい真紅郎を窘めようとすると、ジロッと睨まれて思わず口を噤んでしまう。

 やよいやウォレスもこんな真紅郎を見たことがないのか、目を丸くして何も言えずにいた。

 すると、エイブラさんはツカツカと真紅郎の前に立ち、今にも掴みかかりそうな雰囲気で真紅郎と顔を見合わせる。


「真紅郎、キミがそそのかしたのか?」

「そうだ、と言ったらどうします?」

「何故、そんなことをした?」

「さて、なんででしょう。それを答える義理はないですね」


 責めるように矢継ぎ早に問いかけるエイブラさんに、負けじと真紅郎が返す。

 そして、とうとうエイブラさんが真紅郎の襟首を掴んだ。だけど真紅郎は気にすることなく、むしろ襟首を掴まれたままエイブラさんを睨んでいた。


「……離してくれませんか?」

「どうして私の言うことを聞かない? 私は、キミたちのことを思って……」

「__それが信じられないからですよ」


 そう言って真紅郎は、エイブラさんの手を軽く払った。信じられないって、どういうことだ……?

 真紅郎は襟を正しながら、見たこともないような鋭い眼差しを向ける。

 

「__ライト・エイブラ一世。あなたはボクたちに嘘を吐いている(・・・・・・・)


 はっきりとエイブラさんが嘘を吐いていると言い放った真紅郎に、エイブラさんは唖然としていた。


「何を……」

「臭うんですよ。嘘の臭いが、あなたからね。あなたは何かしらの嘘を吐いている。ボクたちを閉じこめるのも、ライブを禁止するのも……何か思惑があってのことなんでしょう?」


 真紅郎は嘘を見抜くことが出来ることは、俺たち全員が知っている。

 有名な政治家の息子で、幼い頃から嘘だらけの人たちに囲まれたからこそ培われてきた、真紅郎の得意技だ。

 その精度はかなりのもので、それで助けられたことが何回もある。

 そんな真紅郎が言うってことは、本当にエイブラさんは嘘を吐いている可能性が高い。

 嘘を吐いていると言われたエイブラさんは、真紅郎から目を逸らして口を開いた。 


「……何を証拠に」

「今、ボクから目を逸らしましたね? それって図星だったからではないんですか?」

「……例えキミたちに嘘を吐いているとしても、それはキミたちのことを思って__」

「__その言葉が、大嫌いなんだよボクは」


 真紅郎は眉間にシワを寄せながら、怒りや軽蔑を含んだ口調で毒づく。


「ボクたちのことを思って? それは違う。そう言う人は決まって、自分のこと(・・・・・)しか思ってないんだ。自分の利益しか考えず、相手を利用することしか頭にない。だからボクは__ッ!」


 拳を血が出そうなほど強く握りしめ、堪えるように歯を食いしばって真紅郎は言う。

 真紅郎から感じるのは、燃え盛る火のように熱い怒り__そして、悲しみだった。

 真紅郎はキッとエイブラさんを睨みつける。


「ライト・エイブラ一世。ボクは、あなたが嫌いだ。昔のことが……思い出したくもない過去が、あなたを見ていると蘇ってくる。あなたは__ボクの父親に似ているんだよ。大嫌いな、あいつに」


 どうやらエイブラさんは、真紅郎にとって癪に障る存在みたいだ。

 それだけ言うと真紅郎はそっぽを向き、何も言わなくなった。よほど腹に据えかねているんだろう。

 こんなに感情的になっている真紅郎は、初めて見た。

 真紅郎の話を聞いたエイブラさんは、重く深いため息を吐く。


「……話は分かった。私のことを信用出来ないというのなら、それでも構わん。嫌いだと言うならば、存分に嫌うといい。それでも、私の考えは変わらない。ここに世話になっている以上、言うことは聞いて貰う」


 そして、エイブラさんはライトさんに疲れた表情で顔を向けた。


「ジュニアよ、監視を強めろ。部屋の前で使用人を立たせ、絶対に屋敷から抜け出せないようにするのだ」

「……分かりました」

「私はもう休む。久しぶりに怒り、疲れたからな」


 それだけ告げると、エイブラさんは自室に戻っていった。

 取り残された俺たちに、ライトさんはやれやれと頭を振る。


「キミたちももう休むといい。戦いの後だ、疲れているだろう」

「……はい。本当に、すいませんでした」

「謝ることはない。だが、今回はとりあえず言うことを聞いて欲しい。息苦しさを感じるだろうが……今だけは、な」


 ライトさんの言葉に、真紅郎以外の全員が頷く。

 真紅郎はふてくされたように、そっぽを向いたままだった。

 色々あったけど、とにかく今回に関しては俺たちが悪い。事実、勝手に屋敷から抜け出してゲリラライブを敢行した結果、命を狙われたんだから。

 もちろん、真紅郎が言ったように嘘を吐いているエイブラさんに思うところがない訳じゃないけど……。


「今日は休もう。後のことは、明日考えることにしないか?」

「そうだね。あたしも、もう眠いし」

「あぁ。ま、オレは久しぶりにライブが出来て満足(サティスファクション)だ!」

「……お腹空いた」


 俺の言葉にやよいはあくび混じりに答え、ウォレスは暗い雰囲気を吹き飛ばすように笑い、サクヤはいつも通り空腹を訴える。

 そして、俺はずっとふてくされている真紅郎の肩をポンッと叩いた。


「真紅郎も、今日は休もう。な?」

「……ごめん」


 額に手を当てながら謝る真紅郎に、俺は笑みを浮かべる。


「気にすんなよ。仲間だろ、俺たち」

「……本当に、ごめん」


 謝り続ける真紅郎を連れて、俺たちは部屋に戻った。


 


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