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漂流ロックバンドの異世界ライブ!〜このくだらない戦争に音楽を〜  作者: 桜餅爆ぜる
第四章『ロックバンド、水の国で魔族と出遭う』
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七曲目『真紅郎の提案』

 エイブラ邸に住むようになって、二週間。

 その間、俺たちは屋敷の敷地外に出ることを禁じられ、ずっと閉じこもっていた。

 依頼を受けることも禁止、外出も禁止、そして何より__ライブが禁止というのが、一番キツい。

 そんな中、俺たちは思い思いにこの二週間を過ごしていた。


「__はぁぁ!」

「__おらぁぁ!」


 俺とウォレスは体が鈍らないようストレス発散を兼ねて庭で組み手し、用意して貰った木剣をぶつけ合う。

 俺は一本、ウォレスは短い木剣を二本持ち、カンカンとぶつかり合う音が敷地内に響き渡った。


「いい機会だし、新しい曲でも作ってみようかな?」

「……ぼくも、手伝う」


 やよいとサクヤは、新曲の作詞と作曲している。キュウちゃんはその傍で丸まって寝息を立てていた。

 そして、真紅郎は……ずっと屋敷の蔵書を読んで過ごしている。


「あぁ……ライブしてぇなぁ」


 組み手が終わり、休憩している時にウォレスが空を見上げながら呟いた。

 せっかく俺たちの音楽が受け入れて貰えたのに、ライブが出来ないのはもったいないよな。

 だけど、俺たちはエイブラさんにライブを禁止されている。王国に俺たちの居場所がバレないように、身の安全を守るために。

 だけど、さすがにフラストレーションが溜まっていくなぁ。


「ねぇねぇ! タケルたち、暇なら曲作り手伝って!」


 俺たちが休憩していると、やよいが声をかけてきた。

 まぁ、暇だしいいか。庭で俺、ウォレス、やよい、サクヤが集まって曲作りを始める。


「で、どんな感じの曲にするのかイメージは出来てるのか?」


 新曲のことを聞いてみると、やよいは困ったように首を横に振っていた。


「全然。ただ、花をイメージした曲を作りたいかな?」

(フラワー)? だったら、バラなんてどうだ!? 真っ赤な情熱(パッション)全開の曲! 濃厚なフラメンコロックで!」

「えぇ……あたし、出来れば落ち着いたバラード系にしたいんだけど」

「バラード? ロックバラードでもやるのか?」


 ロックバンドと言えば激しいものが大半だけど、もちろんバラードのような落ち着いた曲もある。

 でも、俺たちRealizeではロックバラードの曲はない。新しい試みだな。

 すると、やよいは俺の言葉に身を乗り出してコクコクと頷く。


「そう! ロックバラード! せっかくキーボードが増えたんだから、イントロでピアノの切ない音色から始まるような、落ち着いた曲がやりたいの!」

「……こんな感じ?」


 そう言ってサクヤは魔装である魔導書を展開すると、そこから魔力で出来た紫色のキーボードを作り出す。

 そして、サクヤはキーボードでピアノの音色を奏でた。落ち着いてて、切なさを感じさせるメロディーラインに、やよいは親指を立てる。


「そんな感じ! さすがサクヤ!」


 即興で作曲したサクヤの頭を、やよいがワシワシと撫でる。撫でられているサクヤは、照れ臭そうに視線を逸らしていた。

 ちょっと前まで素人だったのに、もう作曲出来るレベルまで成長したのか。本当、天才的だな。


「これで歌が上手かったら、ツインボーカルとかも面白そうなのになぁ」


 なんでかは分からないけど、ダークエルフ族のサクヤと前に出会った<エルフ族>は歌が下手だった。

 美男美女揃いなのに歌が壊滅的な音痴とか、イメージが崩れたのは記憶に新しい。

 すると、俺の言葉にサクヤはムッと眉をひそめた。


「……ぼくは、音痴じゃない。ちょっと、音程が外れるだけ」

「それを音痴って言うんだよ」


 ふてくされたように頬を膨らませるサクヤに苦笑する。

 さて、ロックバラードで花をイメージした曲か。花のことはさっぱりなんだよなぁ。

 頭を悩ませていると、腕を組んで考え込んでいたウォレスが口を開く。


「てかよぉ、そもそもこの異世界にオレたちの世界に咲いてるような(フラワー)があるのか?」

「うん! ほら、あれ見てみて」


 やよいが指差したのは、庭にある花壇だった。

 そこに咲いている綺麗な花々を、やよいは順番に指さしていく。


「あれはラベンダーでしょ。バラに、ルピナス、パンジー……」

「ちょ、ちょっと待て! やよい、そんなに花に詳しかったのか?」


 どんどん花壇に咲いている花の名前を言っていくやよいを呼び止め、問いかける。

 驚いている俺に、やよいは自慢げに胸を張って答えた。


「ふふん、知らなかった? 花の名前とか花言葉って、曲のテーマに使いやすいから結構勉強したんだ。だから、結構詳しいんだよ」


 初めて聞いた。俺だけじゃなく、俺よりも付き合いが長いウォレスも驚いている様子だった。

 Realizeに俺が加入して、三年。結構長いこと一緒にいるけど、まだまだ知らない一面があったんだな。


「メイドさんに聞いたけど、花の名前もあたしたちの世界と同じだったよ」

「異世界でも同じ花があるなら、花をイメージした曲はありだな」

「ハッハッハ! だったら話が早い! やよい、どんな(フラワー)の曲にするんだ!?」

「それなんだけど……いい感じの花が見つからなくて。今はとりあえず、作曲を先にやろうかな?」

「……だったら、続ける」


 曲名と作詞は置いといて先に作曲から始めることにした俺たちは、サクヤが中心となって曲を作り上げていく。

 やよいはギターを持ち、ウォレスもドラムスティックを握ってドラムセットを模した魔法陣を展開させた。


「イントロはピアノだけ?」

「最初はピアノにして、徐々にドラムを入れるのはどうだ?」

「ハッハッハ! そうなると、リズムは8分の12拍子だな!」

「うん! ゆったりとしてて、それでいて力強くかな?」

「……最初は、弱めでいいと思う」

「てことは、こんな感じだな」


 ウォレスがゆったりとしたリズムでハイハットを静かに叩き、スネア、バスドラムの音を混ぜていく。

 そこにサクヤがピアノの音を入れると、やよいは満足げに頷いていた。


「いいよ、そんな感じ!」

「なぁ、やよい」


 俺はちょっと思うところがあって、やよいに声をかける。

 首を傾げるやよいに、俺は少し言い淀みながら聞いた。


「この曲は、俺が歌うでいいんだよな?」

「はぁ? 他に誰が歌うの?」

「いや、ほら……やよいが歌うとか、さ」


 元々、俺が加入する前はやよいはギターボーカルだったけど、俺が奪い取るような形でボーカルになった。

 バラード系の曲調なら俺よりも、やよいの方が映えるような気がした俺が提案してみると、やよいは呆れたようにため息を吐く。


「何言ってんの? Realizeのボーカルはタケルでしょ! それに、あたしがボーカルになったら、タケルは何するの!?」

「いや、まぁ、そうなんだけどさ……」


 目を釣り上げながら迫ってくるやよいに、俺は頬を掻きながら目を逸らす。

 正直、俺はやよいからボーカルの座を奪ってしまったことを、引け目に思っている。

 やよいは気にしてない様子だけど……どうにも、心の奥底に小さい棘が刺さっているような気分だった。

 どう返したらいいか困っていると、屋敷からエイブラさんが出てきて俺たちのところに大股で近づいて来る。


「__何をしている! らいぶは禁止だと言っただろう!?」


 俺たちのところに来るなり、声を張り上げて怒鳴ってくるエイブラさん。

 ライブじゃなくて曲作りをしているだけなんだけど、そこまで怒ることなのか?


「いや、これはライブをしてる訳じゃなくて……」

「言い訳はいらん! 王国の者に居場所がバレたらどうするんだ!? 敷地内でおんがくをすることは禁止だ!」

「えぇぇ!?」


 ライブ禁止どころか、音楽自体禁止!?

 それはあんまりだ、と反論しようとしたけどエイブラさんが視線だけで黙らせてくる。

 ここで逆らったら、追い出されるかもしれない。それは避けたい。

 俺たちは黙って頷くと、エイブラさんはホッと胸を撫で下ろした。


「すまない、感情的になってしまった。私はキミたちが心配なのだ……分かってくれ」


 冷静になったエイブラさんは俺たちに謝ると、屋敷に戻っていった。

 あまり心配かけないようにしないといけないし、とりあえず今は曲作りを中断するか。

 やよいたちが渋々魔装をアクセサリー形態に戻していると、エイブラさんと入れ替わるように真紅郎がこっちに向かってきた。


「真紅郎? どうしたんだ?」


 無言で俺たちのところに来ると、真紅郎は睨みつけるようにエイブラさんの背中を見つめていた。

 顔は険しく、拳を握りしめている。ここ最近、様子がおかしいな……本当にどうしたんだ?

 心配していると、真紅郎は俺たちに向かって言い放った。


「__ねぇ、ライブしない?」


 いきなり真紅郎は禁止されているライブをやることを提案してくる。

 突拍子もない提案に呆気に取られていると、ウォレスが困ったように口を開いた。


「ヘイ、真紅郎。お前、分かって言ってるんだろうな?」

「もちろんだよ」


 ライブを禁止されているのに、強引にライブをする。それは、エイブラさんの信頼を無碍にする行為だ。

 ウォレスの言葉に真紅郎は悩む様子もなく、はっきりと答える。


「で、でも、エイブラさんが……」

「気にすることないよ」


 心配そうに言うやよいに、強い口調で返す真紅郎。いつもと違い過ぎる、冷静とは思えない。

 そこで、サクヤが立ち上がる。


「……賛成。ぼく、ライブしたい」

「賛成一人。さて、みんなは?」


 サクヤはライブをすることに賛成してしまった。残された俺たちは、顔を見合わせる。

 ライブはしたいけど……ここで禁止されているライブをやったら、本当に追い出されてしまうかもしれない。

 そんな心配を他所に、真紅郎はニヤリと笑みを浮かべた。


「大丈夫だよ。何か言われたら、ボクがどうにかする。だから__ライブ、しようよ」


 真紅郎がここまで自分の意見を押し通そうとするのは、初めてだ。

 まぁ、真紅郎のことだし何か策があるんだろう。

 元々ライブはしたかったし、俺たちは真紅郎の提案に乗ることにした。


 


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