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漂流ロックバンドの異世界ライブ!〜このくだらない戦争に音楽を〜  作者: 桜餅爆ぜる
第四章『ロックバンド、水の国で魔族と出遭う』
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六曲目『エイブラ邸とライブ禁止令』

「ご苦労! 最高のらいぶだったぞ!」


 ステージを降りた俺たちを出迎えたのは、興奮した面もちのライトさんだった。

 額から流れる汗を腕で拭いながら、俺たちは笑顔で答える。


「ありがとうございます!」

「あたし、こんな綺麗なところでライブするの夢だったんだ! もう、最高!」

「ハッハッハ! オレはまだライブし足りねぇぜ!」

「とりあえず、音楽が受け入れて貰えてよかったね」

「……お腹空いた」

「きゅー! きゅきゅー!」


 お礼を言った俺に続いて、やよいは嬉しそうに目を輝かせていた。

 まだやる気が有り余っていて、ウズウズしているウォレス。音楽が受け入れて貰えて、ホッと一安心している真紅郎。

 いつも通り腹を空かせるサクヤと、頭の上で尻尾をブンブンと振るキュウちゃん。

 各々が違う反応を見せていると、ライトさんは口元に手を当てて笑いを堪えていた。


「ククッ……本当にキミたちは面白いな。私はすっかり、キミたちが披露したおんがくにハマってしまった。また機会を設けて、らいぶをして貰うぞ。さて、そろそろ昼時。今からキミたちがこの国で生活して貰うところに案内しよう。そこで昼食にしようではないか」


 そう言えば俺も、サクヤほどじゃないけど腹が空いている。ライブはかなり体力を使うからな。

 

「生活って……宿屋ですか?」


 生活するところと聞いて気になった俺が問いかけると、ライトさんは白い歯を見せながらニッと笑みを浮かべて答えた。


「案内するのは私の住んでいる__エイブラ邸だ」


 そう言って案内されたところは__まさに、大豪邸だった。

 圧倒される大きな門構え。真ん中に噴水がある、綺麗に整えられた芝生と手入れされた花壇がある広い庭。

 そして、他の家とは一線を画す白を基調とした、清潔感のある西洋風の大きな屋敷。

 エイブラ邸を目の前にした俺たちは、呆然と立ち尽くしていた。


「……すげぇ」

「……あたし、一度でいいからこんな豪邸に住んでみたかったんだぁ」

「ハッハッハ……デカ過ぎないか?」

「……大きい」

「……きゅー」


 想像以上の大豪邸に唖然としている中、一人だけ違う反応を見せる人物がいた。


「ほら、ライトさんを待たせちゃダメだよ。早く入ろうよ」


 それは、真紅郎だった。

 真紅郎は特に驚かず、慣れた様子でエイブラ邸に入っていく。

 真紅郎の父親は、かなり有名な政治家らしい。その息子である真紅郎にとって、これぐらいの豪邸は慣れっこなんだろう。

 俺たちが真紅郎に続いて慌ててエイブラ邸に入ると、外装に負けず劣らずな豪華な内装が広がっていた。

 埃一つない綺麗な玄関。正面には俺たち全員が横並びになって歩いても余裕な、大きい階段。

 絶対に壊したらダメな類の、豪華な調度品。まるでスーパースターになった気分になる、フカフカの真っ赤な絨毯が広がる廊下。

 そして、極めつけは__。


「__ようこそいらっしゃいました、Realizeの皆様」


 老執事と見目麗しいメイドたち使用人が、頭を下げて俺たちを出迎えている光景だった。

 ライトさんは演劇に出てくる登場人物のように大げさな動きで両腕を広げ、俺たちに爽やかな笑みを向ける。


「ようこそ、エイブラ邸へ。今日からキミたちはここで暮らして貰う。遠慮はいらない、ゆっくりと羽を広げてくれて構わないぞ」

「は、はぁ……」


 あまりのスケールのデカさに、思わず気の抜けた返事で返す。場違い感が凄過ぎて、ゆっくりと休める気がしなかった。

 そのまま俺たちはライトさんに食堂まで案内されたけど、ここもまた広くて落ち着いて食事が取れる気がしない。

 ちょっと前までマーゼナル王国の城で過ごしていたけど、そことはまた違った緊張感があるな。

 俺たちが席に座ると、サンドイッチなどの軽食が運ばれてきた。


「さぁ、存分に食べてくれ。私自らで選び抜いた、この国最高のシェフが作った料理だ」

「い、いただきます……」


 恐る恐るサンドイッチに手を伸ばして食べてみると、今まで食べてきたサンドイッチとは違う美味さに目を見開く。

 舌触りのいいフワフワの白いパンに挟まれた瑞々しい野菜、じゅわっと溢れる肉の味、滑らかな触感の卵。

 口に広がる調和の取れた味に、手が止まらなくなる。


「俺、サンドイッチでこんなに感動したことない」

「あたしも。これ、日本だといくらになるかな?」

「うめぇ……うめぇよ……」

「うん、美味しいね」

「……おかわり」

「きゅきゅきゅー!」


 感動に打ちひしがれながらサンドイッチを口に運んでいると、ライトさんは微笑ましそうに優しい笑みを浮かべていた。


「どんどん食べてくれ。ささやかだが、らいぶという最高の文化を見せてくれたキミたちへの感謝の気持ちだ。もちろん、夕食も期待してくれて構わないぞ?」


 夕食、これ以上の料理。サンドイッチを食べているのに、腹の虫が鳴りそうになった。

 サンドイッチだけでこんなに感動するんだから、夕食も期待しない訳がない。

 俺たちがサンドイッチに舌鼓を打っていると、食堂に一人の男性が入ってきた。


「__ふむ、キミたちが噂の者たちか」


 六十代ぐらいだろうか。白髪を綺麗にオールバックにした、老年の男性はキリッとした視線で俺たちを見つめていた。

 男性に気付いたライトさんが、驚いたように立ち上がる。


「__父上、戻っていらしたのですか?」


 父上、と呼ばれた男性はライトさんの方に顔を向けて、ライトさんに似た笑みを浮かべて答えた。


「あぁ、ついさっきな。私はライト・エイブラ一世。そこのジュニアの父親だ」


 ライトさんをジュニアと呼ぶ、父親のライト・エイブラ一世さんは俺たちに自己紹介する。

 俺たちは慌てて立ち上がり、頭を下げた。


「お、俺は……私はタケルと申します! こ、今回はお招き頂き……」

「ハハハ、そんなにかしこまらなくてもいい。この屋敷の主は、今はジュニアだ。私のことは……そうだな、エイブラと気軽に呼んでくれたまえ」


 エイブラさんはカラカラと笑いながら言う。背筋がピシッとした、ダンディーで親しみやすそうな人だ。年を取ったら、こんな風になりたいな。

 すると、エイブラさんは咳払いしてから話題を変える。


「キミたちのことはジュニアから聞いている。この国に来た経緯もな。それと先ほどのらいぶ、見させて貰ったよ。年甲斐もなく興奮したものだ」

「あ、ありがとうござ……」

「__だが同時に、危険(・・)だと判断した」


 俺がお礼を言い終わる前に、エイブラさんがジッと俺たちを見据えながら言い放つ。

 危険って、どういうことだ?

 俺の疑問に応えるように、エイブラさんは静かに説明を始める。


「たしかに、らいぶは最高の文化だ。私だけじゃなく、この国に住む全ての者が魅了され、人気になることだろう。だが、それは同時に他の国にも広がる。そうなれば……キミたちがここにいることが、マーゼナル王国にも知れ渡ってしまうだろう」


 たしかに、有名になればなるほど俺たちの居場所を教えることになる。

 そして、エイブラさんははっきりと言った。


「だから__この国で、らいぶをすることは禁止とする」

「__え!?」


 ライブ禁止? つまり、もうこの国でライブが出来ないのか?

 突然のことに思考が停止している中、エイブラさんはライトさんをチラッと見てから話を続けた。

  

「ジュニアよ、隠居の身の私が口出すことではないのかもしれないが……この国の安全のため、キミたちの身の安全のために言わせて貰う」


 そう言うとエイブラさんは人差し指を立てる。


「まず、キミたちにはユニオンの依頼を受けることを禁じる。少しでも情報が漏洩しないためだ。次に、許可なくこの屋敷から出ないこと。出る場合はジュニアが同行するんだ。必要な物は全てこちらで用意しよう。そして__知っている情報は、誰にも口外してはならない」


 二本、三本と指を立てながらどんどん出される意見をどうにか理解しようと、頭の中で情報をまとめる。

 依頼禁止、外出禁止、箝口令、それと__ライブ禁止令。

 つまり、何もせず、何も言わず、この屋敷に閉じこもってろってことか。

 あんまりに横暴とも言える意見の数々にライトさんを含めて、俺たち全員は黙り込んでしまった。

 すると、エイブラさんは額に手を当てながらため息を吐いた。


「私も、らいぶが見られないのは辛いことだ。だが、マーゼナル王国の追っ手がどこに潜んでいるのか分からない以上、キミたちの居場所がバレないためにも仕方がないこと。キミたちを守るためだ……納得してくれると助かる」


 エイブラさんが言っていることは、正しい。

 俺たちは、この国に保護して貰うために来たんだ。身の安全を考えたら、反対出来ない。

 だけど……ここまで厳重に縛られるのも、ちょっとな。

 返答に迷っていると、真紅郎が手を挙げて口を開いた。


「少しお聞きしたいんですが……本当に(・・・)ボクたちの安全を考えてのことですよね?」


 真紅郎の言い方は、どこか棘のあるものだった。それに、エイブラさんを見つめる目は険しく、いつもの真紅郎らしくない。

 どうしたんだ、と疑問に思っていると真紅郎の問いかけにエイブラさんが答えた。


「もちろんだ。私はキミたちの身の安全を考えて……」

「__そこに、嘘偽りはありませんか?」


 エイブラさんの話を遮って、真紅郎は再度問いかける。

 エイブラさんと真紅郎が見つめ合い、数秒の時間が空いた。まるで永遠とも言えるような視線の応酬に、俺たちは何も口出し出来ない。

 ふと、エイブラさんは真紅郎を見つめたまま口を開く。

 

「何を疑っているのかは知らないが……嘘を吐く必要があるとでも?」

「__いえ、それならいいんです。申し訳ありませんでした」


 真紅郎はそれ以上何も言わず、そのまま目を閉じて黙り込んだ。

 様子のおかしい真紅郎に首を傾げつつ、俺たちはエイブラさんの言うことを聞くことにした。






投稿して4か月目!

これからも頑張って投稿していきます!


面白かったらブクマ、評価、感想よろしくお願いします!!

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