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漂流ロックバンドの異世界ライブ!〜このくだらない戦争に音楽を〜  作者: 桜餅爆ぜる
第四章『ロックバンド、水の国で魔族と出遭う』
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三曲目『ライトの実力』

「いつでもかかってくるといい。先手は譲ろう」


 無手の状態で腕を組んだまま、余裕そうにしているライトさん。

 武器も構えないなんて……それだけ、俺のことをナメてるんだろうな。


「__上等」


 その態度にイラッとしながら指にはめていた指輪__アクセサリー状態にしている<魔装>を柄の先にマイクが取り付けられた両刃の剣に形を変えてから、構えた。

 俺の剣を見たライトさんは目を丸くさせ、どことなく驚いているように見える。


「ふぅぅ……」


 だけど気にせずに深く息を吐いて集中し、改めてライトさんを見据えた。

 金髪紅眼の、三十代後半ぐらいの爽やかな整った顔立ち。

 身長は百八十センチぐらいで体つきは細く見えるけど、よく見るとその服の下は鍛え上げられた肉体をしているのが分かる。

 ロイドさんのライバルを自称しているだけあって、その肉体と纏う雰囲気に嘘はないと感覚で理解出来た。

 つまり、かなりの実力の持ち主だ。俺がどう頑張っても勝ち目はないだろう。

 だけど__だからと言って負ける気で挑むつもりはない。やるからには、勝つ。


「__はあぁぁぁ!」


 気合いと共に地面を蹴って走り出す。

 一歩、二歩と一気に近づいていき、無手のまま立っているライトさんに向けて剣を振り被った。

 その時、ライトさんはおもむろに右手を首もとに持って行き、首にかけている十字架のアクセサリーを握りしめる。


「いい踏み込みだ。だが__」


 そして、そのアクセサリーを掴んだ手をライトさんは横に振る。

 アクセサリーは形を変え(・・・・)、百七十センチほどの金色の長槍になっていた。


「__まだ、甘い」


 ライトさんは武器、俺が握っている剣と同じ魔装である金色の槍の穂先を、振り下ろした剣に軽く当ててそのまま受け流す。

 軽々と自然な動きで受け流された俺は、バランスを崩して前のめりになった。


「__はぁ!」

「ぐ……ッ!?」


 ライトさんは剣を受け流した槍をクルリと頭の上で回し、遠心力を使いながら槍の長い柄の部分で俺の腹部を薙ぎ払い。

 避けられなかった直撃し、その衝撃に耐えきれずに吹っ飛ばされた。

 地面を転がり、受け身を取りながらすぐに立ち上がって剣を構える。


「どうした、もう終わりか? 大口叩いた割には、大したことないな」

「まだまだ!」


 皮肉混じりの挑発に俺は歯を食いしばり、また地面を蹴って突撃した。

 薙ぎ払った剣はまた槍の穂先で受け流され、次に斜め上から振り下ろした剣は柄の部分でいなされる。

 そして、隙を見せてしまうとライトさんは槍の柄を俺の腹部に薙ぎ払い、また吹き飛ばされてしまった。


「クソッ……!」


 まともに打ち合おうとしないライトさんに、思わず悪態を吐く。

 攻撃しても受け流され、いなされる。ライトさんからは攻撃、というより邪魔だと言わんばかりに柄で払われるだけ。ただ吹き飛ばすだけで、ダメージはほとんどない。

 完全に遊ばれている。それだけの実力差が、あるってことなのか?


「だったら……ッ!」


 今の状態じゃ軽く弄ばれるだけ。なら、自身を強化して立ち向かう。


「__<アレグロ!>」


 俺は<音属性魔法>、敏捷強化(アレグロ)を唱えて走り出した。

 一瞬でライトさんとの距離を詰め、その勢いのまま剣を振り被る。


「ほう、音属性魔法か? だが、まだ遅いな」


 上、斜め下、斜め上、右から左、と連続で振るった剣を、ライトさんは槍を振り回して全て防いでいた。

 その表情はまだ余裕そうで、これぐらいのスピードなら対処することは簡単なようだ。

 だったら、重い一撃でどうだ?


「__<フォルテ!>」


 アレグロの効果が切れたタイミングで、俺は一撃強化(フォルテ)を行使する。

 防がれるのを承知で振り下ろした剣を、ライトさんは槍で防ごうと__する前に、咄嗟に後ろに下がった。

 何かを察したのか、歴戦の洞察力がそうさせたのか。分からないけど、ライトさんはバックステップで距離を取ろうとしている。

 だったら__そのまま地面に振り下ろしてやる。

 避けられると分かった俺は、剣を止めずに思い切り地面に剣を叩きつけた。

 強化された一撃は爆発したように地面を砕き、砂煙を上げる。


「むっ、避けられると分かって目眩ましに変更か。いい判断だ」


 煙の向こうで、俺を評価するライトさんの声が聞こえた。

 まだ余裕そうだな。敏捷強化しても軽々対応されたし、一撃強化しても避けられてしまう。

 なら、素早さ強化に加えて、攻撃の威力を少しでも増してみようか。


「<アレグロ><ブレス><エネルジコ!>」


 音属性魔法はその特性上、普通に使うだけでは魔法の重ねがけが出来ない(・・・・・・・・・)

 そのために必要なのは、ブレスという魔法。敏捷強化(アレグロ)の次に魔法同士を接続するブレスを使って、筋力強化(エネルジコ)を重ねた。

 素早さと筋力を強化した俺は、砂煙を突っ切ってライトさんに向かって剣を振り下ろす。

 ガキン、と槍の柄と剣がぶつかり合った鈍い音が響き、俺の剣を受け止めたライトさんは少し表情を険しくさせていた。


「さっきよりも力が増している? 魔法の効果か」

「__はあぁぁぁッ!」


 余裕そうに分析しているライトさんに、続けて剣を薙ぎ払う。

 受け流すのが難しいのか、それとも何か考えがあってなのか。ライトさんは受け流すことなく、槍で攻撃を防いでいる。

 だけど俺は防がれても関係なく攻撃を続け、時々蹴りを混ぜた。

 横薙ぎで振った剣の勢いのまま放った後ろ回し蹴りをライトさんは槍をクルリと回してその場で一回転し、槍の穂先を地面に向けながら蹴りを柄で防いだ。


「いい攻撃だ」


 なんか、さっきから戦ってるというより、稽古をつけられている気分だ。どういうつもりなんだ?

 柄を蹴ってその場から離れながら、首を傾げる。戦えば戦うほど、ライトさんから敵意が薄れている気がした。


「どうした? もう終わりなのか?」


 槍の石突きを地面に着きながら、ライトさんはわずかに頬を緩めて手招きしてくる。

 もっと打ち込んでこい、もっと見せてみろ、と言わんばかりに。

 もしかして__と、頭を過ぎった考えに俺は思わず笑みを浮かべた。


「……<アレグロ><ブレス><フォルテ>」


 敏捷強化(アレグロ)、ブレスで接続して一撃強化(フォルテ)を唱える。

 そして、俺は地面に向かって思い切り剣を振り下ろした。


「__はぁぁぁぁぁッ!」


 地面を砕き、砂煙が巻き起こる。すると、煙の向こうでライトさんが呆れたようにため息を吐いているのが聞こえた。


「また目眩ましか。単純だな」


 そう、これは目眩まし。今からやろうとすることを邪魔させないための布石だ。

 砂煙の中、俺は居合いのように左腰に剣を置いて集中する。

 剣身に魔力を集め、一体化させるように魔力を纏わせていく。すると、剣身が光り輝き始めた。

 ゆっくりと砂煙が晴れていき、ライトさんの姿が見える頃には準備が終わる。

 そして、俺は居合いの構えのまま疾走した。


「なッ!? そ、その技は__ッ!」


 俺の姿を見たライトさんが、目を見開いて驚愕の表情を浮かべている。

 今から放つのは、ロイドさんから教えて貰った俺の必殺技。

 魔力を纏わせた一撃を放つ剣技。その名を__。


「__<レイ・スラッシュ!>」


 一歩前に踏み込み、一気に剣を横に薙ぎ払おうとした瞬間、ライトさんは__。


「<我操るは龍神の尾>__<アクア・ウィップ>」


 即座に魔法を詠唱し、水の鞭を放ってきた。

 水の鞭は俺の体を縛り、レイ・スラッシュを放つ前に動きを止められてしまう。


「ぐ、あ……ッ!」


 どうにかして拘束から逃れようとしても、身動きが取れない。

 すると、ライトさんはニヤリと笑みを浮かべていた。


「__もういい、認めよう」

「へ?」


 ライトさんは腕を横に振って、水の鞭を消す。

 拘束から解かれた俺は、呆気に取られてライトさんを見つめた。


「キミは我が永遠のライバル、ロイドの関係者……いや、弟子であると認めよう。その技、レイ・スラッシュが何よりの証拠だ」

「じゃ、じゃあ……」

「あぁ。私、ライト・エイブラ二世が認める__キミたちは、悪人ではない」


 ライトさんは爽やかな笑みを浮かべて、俺に手を差し伸べてくる。


「さっきはすまなかった。キミの仲間を貶すようなことを言ってしまった。キミを焚きつけるためとは言え、失礼なことをした。謝罪しよう」

「あ、いえ……」


 俺は差し伸べられた手を握ると、ライトさんははっきりと言い放った。


「__レンヴィランスへようこそ。私はキミたちを保護し、守ることを誓う。安心してくれ、例え王国からだろうと私が責任を持って守ってみせよう」


 心強い言葉に、思わず笑みが溢れる。

 こうして、俺たちはライトさんに認められたのだった。




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