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漂流ロックバンドの異世界ライブ!〜このくだらない戦争に音楽を〜  作者: 桜餅爆ぜる
第三章『ロックバンド、砂漠の国を往く』
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二十九曲目『旅の始まりは、突然に』

 クリムゾンサーブルの脅威から解放された街は、お祭り騒ぎだった。

 歓喜し、大いに盛り上がっている住人たちを眺めながら、俺たちは広場の噴水前に設置されたテーブルの前で座っている。

 俺たちはクリムゾンサーブルを吹き飛ばした英雄として、住人たちから熱い歓迎を受けていた。


「はは、凄いな」


 思わず笑みがこぼれるぐらい、住人たちは喜んでいる。

 それもそうだろう。もしもクリムゾンサーブルがこの街を襲っていたら、ほぼ壊滅していたんだから。

 それを救った俺たちが英雄扱いされるのは仕方がないけど、さすがに気恥ずかしいな。


「あんたたちは俺たちの英雄だ!」

「俺たちにおんがくっていう最高の文化を教えてくれたばかりか、街を救ってくれるなんてな!」

「キャー! かっこいい! こっち向いてぇぇぇ!」

「おぉ! そこの金髪の兄ちゃん! いい筋肉してんじゃねぇか! こっち来て飲もうぜ!」


 住人たちは俺たちに嬉しそうに声をかけ、酒や食事を振る舞ってくれる。

 真紅郎は女性に囲まれ、ウォレスは屈強な男たちと酒を飲み交わし、サクヤは出された料理に食らいついている。

 俺も酒を飲みながら住人たちと話していると、どこかぼんやりとしているやよいを見つけた。


「どうしたんだ?」

「あ、タケル……」


 声をかけると、やよいは困ったようにため息を吐いた。


「ほら、アスワドの件。あたし、その、プロポーズ……されたでしょ?」


 さっきのアスワドのことで悩んでいる様子だった。

 ま、まさか……。


「も、もしかして受けるのか?」

「は、はぁ!? そんな訳ないでしょ!? バカなの!?」


 顔を真っ赤にして叫ぶやよい。ちょっと安心した。

 これでもしもアスワドのプロポーズを受けるなんて言い出したら……うん、その時はアスワドを__。


「あの、タケル? なんか、怖いんだけど」

「……え? あぁ、悪い悪い」


 アスワドをどうしてやろうか考えていると、俺の雰囲気が怖かったのかやよいが心配そうに声をかけてきた。

 とりあえず、今度アスワドに会ったらレイ・スラッシュをぶち込んでやろう。


「ま、気にしなくていいだろ」

「そう言うけど、気にしちゃうよ。だって初めてだったし、どうしていいのか分かんない」

「受けるつもりがないなら、はっきりと断ってやればいい」

「あのさ、タケル……」


 そう言うとやよいは、頬を赤く染めながら静かに口を開いた。


「も、もしもだよ? もし、あたしがその、誰かと付き合ったりしたら……どう思う?」


 もじもじとしながら、やよいが問いかけてくる。

 やよいが誰かと付き合う、か。


「……俺は、嫌だな」


 想像してみて、思わず声に出てしまった。

 俺の答えに、やよいは俺をジッと見つめてくる。


「そ、それはどうして……?」

「え? だってそうなったら、一緒にバンド出来なくなるかもしれないだろ?」

「……え?」


 誰かと付き合ったら、多分そっちが優先になるかもしれない。そうなると、バンド活動に支障が出てくるだろうからな。

 やよいだって女の子だ、誰かに恋をすることだってある。それで誰かと付き合うのは仕方がないことだとは思うけど……うん、出来ればまだそうなって欲しくないな。

 そう思って答えると、やよいは目を丸くしていた。


「ん? どうした?」

「……つまり、バンド活動に支障が出るかもしれないから、嫌だってこと?」

「あぁ」

「……ふぅん。ふぅぅぅぅぅん。そうですか」


 なんか、やよいがふてくされたように頬を膨らませていた。

 何か俺、おかしなこと言ったか?


「あの、やよい? どうしたんだ?」

「……べっつにぃぃぃ」


 ブスッとしているやよいは、俺から顔を背けてゴクゴクとジュースを飲み干した。

 うーむ、よく分かんないなぁ。どうしてそんなにふてくされているんだ?

 俺たちがそんな会話をしていると、人混みから一人の男がこっちに近づいてきた。


「よぉ、英雄様! 何を話してるんだ?」


 それは、骨董品屋のガンドさんだった。

 ガンドさんはからかうように笑いながら、俺たちに声をかけてくる。


「ガンドさん! って、英雄様はやめて下さい」

「がっはっは! すまんすまん。だが、英雄なのは本当だろう? この街を、この国を救ってくれたんだ。間違いなく英雄だろ」


 英雄になりたくてクリムゾンサーブルを吹っ飛ばした訳じゃないんだけどなぁ。

 困ったように頬を掻いていると、ガンドさんは真剣な表情になる。


「ワシの娘、シェラは見つからんかったか」

「あ……す、すいません。まだ……」

「あぁ、いい。別に責めてる訳じゃないんだ。そう簡単に見つかるとは思ってないからなぁ」


 ガンドさんはそう言ってくれるけど、俺たちは黒豹団を追いつめていたのにまだ成果を出せていない。

 申し訳なく思っていると、人混みの中に黒いローブを着てフードを被っている小柄な人影を見つけた。

 フードから覗くあの金髪は__ッ!


「あぁぁ! し、シエン!?」

「げッ!? ば、バレたッス!?」


 名前を叫ぶと、シエンは肩を震わせて逃げようとしている。すぐに追いかけようとすると、ガンドさんは訝しげにシエンの方に顔を向けた。


「シエン?」

「……ッ!?」


 シエンはガンドさんを見ると、ピタッと動きを止める。

 見つめ合っていた二人だったけど、俺が動き出そうとするのに気付いたシエンは慌てて人混みの中に消えていった。


「あ、待て!」

「__ちょっと待て」


 追いかけようとすると、ガンドさんに肩を捕まれる。

 どうして、と思っている間にシエンの姿を見失ってしまった。


「どうして止めるんですか! あのシエンって奴、シェラを知っているようでした! あいつを捕まえたら、きっと__ッ!」

「がっはっは! まぁ、とりあえず落ち着け」


 ガンドさんは一頻り笑うと、シエンが走っていった先をどこか優しげな目で見つめていた。


「今はお祭りだ、水を差すことはないだろう」

「で、でも……」

「急がなくてもいい。いずれ戻ってきてくれれば、ワシはそれで充分だ」


 どこか嬉しそうに笑うガンドさんに、俺は首を傾げる。

 そして、ガンドさんは俺の肩をポンッと叩いてきた。


「ワシからの依頼なんだが、ちょっと変更させて欲しい」

「変更、ですか?」

「あぁ。ユニオンメンバーとして依頼してたが、お前たち個人への依頼にさせて欲しいんだ。内容は__ワシのバカ娘を連れて帰ること」

「え? あ、はい。ユニオンを通してじゃなくて、個人的な依頼ってことですか?」


 ガンドさんはコクっと頷く。それは別にいいけど……バカ娘?

 不思議そうに見つめていると、ガンドさんはどこか嬉しそうに口角を上げていた。


「どうやら、元気にやってるみたいだからな。ま、いつかは戻って来るだろう」

「は、はぁ……?」


 よく分かんないけど、とりあえず依頼は変わってない。

 俺たちは黒豹団を捕まえて、シェラをガンドさんのところまで連れて帰るだけだ。

 そして、ガンドさんは大笑いしながらそのまま去っていった。


「……どうなってんだ?」

「はぁ。タケル、分かってないの?」

「え? どういうことだ?」

「……鈍感」


 やれやれと呆れるやよい。意味が分からず首を傾げる俺。

 鈍感って、どういうことなんだよ。

 疑問が晴れずにモヤモヤしている俺に、アレヴィさんが声をかけてくる。


「よぉ、タケル。ちょっといいかい?」


 アレヴィさんは俺を手招きして、こっそり耳打ちしてきた。


「この国の英雄になったことで、ちょっと問題が発生した。どうやらマーゼナル王国があんたたちのことを嗅ぎつけたみたいだ」

「え!? それ、ヤバくないですか?」

「あぁ、そうさね。この国に居続ける訳にはいかないだろう? それでだ……」


 どうしようかと焦っていると、アレヴィさんが一枚の手紙を手渡してくる。

 これは、と手紙を見つめていると、アレヴィさんはニヤリを不敵に笑った。


「前に言ってた、私の知り合いで同じユニオンマスターの奴から返事が来た。あんたたちの事情を聞いて、すぐに来て欲しいってさ」

「本当ですか!?」

「あぁ。詳しい話は後でする。祭りが終わった夜にでもユニオンに来な」


 それだけ伝えると、アレヴィさんは去っていった。

 手紙を見つめていると、やよいたち全員が集まってくる。


「どうしたの、タケル?」

「おいおい、飲まねぇのかよ? せっかくの祭り(フェスティバル)だぜ! 飲まなきゃ損だろ!」

「……お腹いっぱい」

「で、アレヴィさんはなんの用だったの?」

「きゅきゅ?」


 俺は振り返り、手紙を見せつける。


「次の目的地が決まったんだよ」


 どうやら俺たちの旅が、また始まろうとしているみたいだ。

 次の目的地は__。






 


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