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漂流ロックバンドの異世界ライブ!〜このくだらない戦争に音楽を〜  作者: 桜餅爆ぜる
第三章『ロックバンド、砂漠の国を往く』
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二十八曲目『プロポーズ』

「く、くく、はははッ! こいつら、本当にどうにかしやがった……」


 クリムゾンサーブルを吹っ飛ばした光景を唖然と見ていたアスワドが、腹を抱えて笑い出す。

 本当にどうにかするとは思ってなかったんだろう。信じられないとばかりに、ゲラゲラと笑い続けていた。


「おんがく、だったか? なんなんだよ、それ。あんなバカでかい砂嵐を吹っ飛ばすなんて、どんな魔法だ?」


 一頻り笑ったアスワドが、俺たちに音楽について聞いてくる。

 大の字で倒れていた俺は起き上がり、アスワドにニヤッと笑いかけた。


「そりゃ……最高に熱くて、最高に盛り上がる、最高の魔法だよ」

「はんッ、なんだそりゃ。答えになってねぇよ」


 俺の答えに鼻で笑ったアスワドが、手を差し伸べてくる。

 一瞬呆気に取られていたけど、俺はすぐにその手を掴んで立ち上がった。


「ま、最高に熱いってのだけは分かったぜ」

「それだけ分かればいいさ」


 俺とアスワドはガシッと握手して口角を上げて笑い合う。

 音楽がなんなのか、全部を理解しなくてもいい。ただ、音楽が熱いものだと分かれば、それだけで充分だ。


「アスワド、ありがとな」

「あん? んだよ、いきなり気持ち悪いな。俺はただ、仲間を助けてくれた恩を返しにきただけだ。これで貸し借りなしだ」

「あぁ、そうだな。貸し借りなしだ……つまり、俺たちは敵同士に戻った訳だよな?」


 俺の言っている意味が分からないのか、アスワドが首を傾げる。

 そして、にっこりと笑った俺はアスワドの手を両手で掴み、そのまま関節技をかけて地面に倒した。


「ってことは、もう捕まえていいよなぁ!」

「あだだだ!? て、てめぇ、ふざけんな! いい話で終わらせるんじゃねぇのかよ!?」

「知るかバーカ! おい、真紅郎! 縄持ってこい縄! こいつ捕まえてユニオンに引き渡すぞ!」

「やめろ、この野郎! ぶっ飛ばすぞゴラァ!」

「はっはっはっはっは! やれるもんならやってみろ……って、おい! 暴れるんじゃねぇ!」


 暴れるアスワドを必死に抑える。こいつと俺は敵同士。さっきは助けて貰ったけど、それはそれこれはこれだ。

 自分で貸し借りなしって言ったからなぁ!

 暴れ回る俺たちを見て、真紅郎はやれやれと呆れたように深いため息を吐く。


「はぁ……締まらない最後だなぁ」

「ハッハッハ! こいつらバカだ!」

「……タケル、一発殴るからそのまま」


 真紅郎は付き合ってられないとばかりに目を反らし、ウォレスはゲラゲラと笑い、サクヤは指をポキポキと鳴らしながら拳を握りしめる。

 そうこうしている内に、アスワドは俺の拘束から逃れてその場から離れた。


「はぁ、はぁ……ふ、ふざけやがって……てめぇ、ここで一発やるか!?」

「あぁ、いいぜ! お前を捕まえてシェラの居場所を吐かせてやる!」


 俺とアスワドが魔装を構えて今にも戦おうとしていると、俺たちの間にやよいが割り込んできた。


「__二人とも、うるさい!」

「ぐぇ!?」

「ぐぁ!?」


 そして、やよいは俺とアスワドに拳骨を喰らわせてくる。

 結構痛くて、俺たちは地面をのたうち回った。

 そんな俺たちを見て、やよいは呆れ果てたと言わんばかりに深いため息を吐く。


「はぁ……本当に男ってバカばっかり。ね、真紅郎?」

「ねぇ、どうしてボクに同意を求めたの? ボクも男なんだけど。ねぇ?」


 顔をひきつらせて聞いてくる真紅郎を無視して、やよいは地面を転がっているアスワドに目を向けた。


「アスワド、あたしたちの音楽どうだった?」


 やよいの問いかけにアスワドは痛そうに頭をさすりながら立ち上がり、答える。


「……まぁ、いいんじゃねぇのか? 俺は嫌いじゃねぇよ」


 アスワドの答えに、やよいは花が咲いたように明るい笑顔を浮かべた。


「ね? 音楽って楽しいでしょ? 音楽の可能性、見せられたかな?」


 楽しそうに、嬉しそうに、子供がはしゃいでいるような笑顔を見たアスワドは目を見開く。

 その時、何かが撃ち抜かれるような音が聞こえたかと思ったら、突然アスワドが大きく仰け反って天を見上げる。


「……れた」

「は?」


 その状態のまま、アスワドが何かを呟いた。

 アスワドは仰け反っていた体を勢いよく戻し、やよいをキラキラとした目で見つめて、また呟く。


「……惚れた。俺は、あんたに惚れたぜ」

「は、はぁ!?」


 い、いきなり何を言い出すんだこいつは!?

 俺たち全員が唖然としていると、アスワドはやよいの前で傅いて手を差し伸べた。


「名前を改めて教えてくれないか?」

「え、え? あ、あたしは、やよい、だけど……」

「やよい……いい名前だ。俺の心に刻み込んだぜ」

「は、はぁ……?」


 心に刻むようにアスワドはやよいの名前を呟くと、キランと白い歯を見せながらイラッとする爽やかな笑みを浮かべる。


「俺の名はアスワド・ナミル。二十六歳独身。やよい……いや、やよいさん! 違う、やよいたん! 俺はあんたの笑顔とおんがくやってる時の姿に惚れ込んだ! お、俺と結婚してくれ!」

「__はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 色々と段階を吹っ飛ばしてプロポーズしてきたアスワドに、やよいが顔を真っ赤にして驚愕の悲鳴を上げた。

 い、意味が分からない。理解出来ない。だ、だけどとりあえず、やよいを渡す訳にはいかねぇ!?


「ふ、ふざけんな! お前なんかにやよいを渡す訳ねぇだろ!? というか、やよいたんってなんだよ!? 気持ち悪いわ!?」


 やよいをアスワドから隠すように、間に入る。

 だけど、アスワドはそんなこと気にしないとばかりに両手を広げた。


「恋に障害は付き物……俺はそんなことじゃ諦めねぇぜ。ようやく見つけた俺の光__あぁ、世界はこんなに輝いているとはな。知らなかったぜ」

「やかましいわ!? そのまま光と共に消え去れ!?」


 こいつ、キャラ崩壊にもほどがあるだろ!? どうしてこうなった!?


「__兄貴! 兄貴ぃぃぃぃ!」


 すると、遠くからシエンが慌てて走り寄ってきた。


「早くここから逃げるッス! ユニオンマスターがここに向かってるッス!」

「うるせぇぞ、シエン。俺は大事な話をしている最中だ」

「捕まってもいいんッスか!? いいから、早く逃げるッスよぉぉ!」

「あ、てめぇ引っ張るな!? や、やよいたん! やよいたぁぁぁぁぁぁん!?」


 そのまま引きずるようにアスワドを連れてシエンが去っていく。

 去っていく二人を、俺たちは呆然と見送る。


「タケル……あたし、今、プロポーズされたみたいなんだけど……?」

「は、はは……ボク、理解が追いつかないんだけど」

「ハッハッハ! あいつ面白いなぁ! オレ、気に入ったぜ!」

「……殴れなかった」

「きゅ?」


 目を回しながら顔を真っ赤にさせるやよい、混乱している真紅郎、大笑いするウォレス、殴れなくて残念そうにしているサクヤ、首を傾げるキュウちゃん。

 俺は頭を抱えて、ため息を吐いた。


「……もう、意味分かんねぇ」


 クリムゾンサーブルと一緒に、あいつも吹っ飛ばせばよかった。

 そんな後悔をしていると、シエンの言った通りアレヴィさんとユニオンメンバーたちが走ってくるのが見える。


「あ、あんたたち! く、クリムゾンサーブルをどうにかしちまったのかい!? 凄いじゃないか! あんたたちはこの国の英雄だよ!」

「あぁ、はい、そうですねぇ……」

「え? ど、どうしてそんな微妙な反応なんだい?」


 様子がおかしい俺にアレヴィさんが戸惑っている中、俺は乾いた笑い声を上げた。

 さて、どう説明したものか。

 ユニオンメンバーたちが俺たちを称え、褒めて、盛り上がっているけど、俺たちはそんなことよりあのアスワドのインパクトにやられてしまっている。

 その温度差に俺はとりあえず、深い深いため息を吐くのだった。

 




 



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