二十六曲目『自然VSロックバンド』
「お、おい! てめぇら、何をするつもりなんだ!?」
俺たちが迫ってくるクリムゾンサーブルの方を見ていると、アスワドは正気を疑っているように慌てて声をかけてきた。
俺はクリムゾンサーブルを睨んだまま、アスワドに答える。
「何をって、あのクリムゾンサーブルをぶっ飛ばしにだよ」
「バカか!? あれは自然災害だ、てめぇらがどうこう出来る代物じゃねぇだろ!?」
アスワドが言ってることは正しい。
自然災害相手にただの人間が勝てるはずがない。バカなことをしようとしているのは分かってる。
だけど__。
「この国は……この街は、俺たちにとって大事な場所だ。世話になった人もいるし、俺たちの音楽を好きになってくれた人もいる。だから、俺たちはその大事な場所を壊そうとしているクリムゾンサーブルが許せないんだよ」
俺たちが戦う理由は、それだけで充分だ。
それを聞いたアスワドは、信じられないと愕然としていた。
「本気で、言ってんのか? あんなのにどうやって……」
「ねぇ、アスワド」
ふと、やよいがアスワドに声をかける。
「あんたさ、音楽って知ってる?」
「……は? んだよ、おんがくって」
「やっぱり、知らないんだ」
突然のやよいの問いかけに、吐き捨てるように答えたアスワド。それに対してやよいは、呆れるようにやれやれと首を横に振った。
そんなやよいの態度に、アスワドは噛みつく。
「そのおんがくってのがなんだよ!? 今の話と関係が……」
「あるよ」
話の途中でやよいが語尾を強くしてはっきりと答えると、アスワドはたじろいた。
そして、やよいはアスワドに自信ありげに、自慢するように笑みを浮かべる。
「__あんたに見せてあげる。音楽の可能性って奴をね」
「おんがくの、可能性……?」
「そうだよ。あたしたちが音楽の力で、あの砂嵐をぶっ飛ばす!」
やよいは徐々に近づいてきているクリムゾンサーブルに向かって拳を突き出しながら、はっきりと言い放った。
意味が分かっていないだろうけど、やよいが言ってることが本気だと分かったのかアスワドは舌打ちする。
「訳分かんねぇ……そのおんがくってので、あの砂嵐をどうにか出来るとは思えねぇよ。付き合ってらんねぇ、俺は逃げさせて貰うぜ。死ぬなら勝手にしやがれ」
そう言ってアスワドは、俺たちに背を向けて去っていった。
ま、そうだよな。音楽のことを知らないアスワドが俺たちの言葉を信じられるはずがない。
でも、俺たちは違う。
「そろそろ__って、うお!?」
俺たちがクリムゾンサーブルに向かおうとした時、どこからか走ってきたキュウちゃんが俺の頭に飛び込んできた。
「きゅ! きゅきゅ!」
「キュウちゃん、今までどこにいたんだ?」
「きゅ?」
俺の言葉にキュウちゃんはコテンと首を傾げる。いや、それよりも今から向かうところはかなり危険だ。
「キュウちゃん、お前はアレヴィさんのところに……」
「きゅきゅ!」
するとキュウちゃんは首をブンブンと横に振り、俺の頭にしがみついてきた。これは……一緒に行こうとしてるのか?
その姿を見たやよいは、クスクスと笑みをこぼした。
「キュウちゃんもRealizeのメンバーだもん。一緒に行きたいんだよね?」
「きゅ!」
「は? いつの間に決まったんだ?」
「今! キュウちゃんは、Realizeのマスコットキャラクターだよ!」
胸を張って言うやよいに、俺はため息を漏らす。マスコットキャラクターって、Realizeはロックバンドだぞ? そんな可愛いキャラクターは似合わないだろ。
「うん、いいんじゃないかな?」
「ハッハッハ! 女性受けはかなりいいだろ! オレも賛成!」
「……ますこっと?」
と、思っていたけど意外にも真紅郎やウォレスの反応がよかった。サクヤはマスコットキャラクターの意味が分からなくて首を傾げてるけど……。
多数決で負けたな、これは。
「仕方がないな。キュウちゃん、危なくなったら逃げろよ?」
「きゅ!」
言っていることを理解しているのか、キュウちゃんは前足を上げて返事をしてきた。
それより、早く行かないとな。
俺たちは街から出てクリムゾンサーブルに向かって歩き出した。
空は真っ赤に染まり、血のように赤い壁のような砂嵐がこっちに向かってきているのが目視で確認出来る距離まで近づいてきている。
恐怖はある。不安もある。
それ以上に、俺たちは負けないっていう確信があった。
「__ふぅぅ」
ゆっくり深呼吸し、改めてクリムゾンサーブルに目を向ける。
砂の一粒一粒が熱を帯びた赤い砂嵐は、飲み込んだものを全て蒸発させている。巻き込まれたモンスターは骨すら残っていなかった。
吹き付けてくる風と熱が肌をじりじりと焼く。この距離でも結構な熱さだ。
だけど、俺たちの音楽に対する熱意は、それ以上に熱いんだよ__ッ!
覚悟を決めて俺たちは魔装を展開して、構える。
「__さぁ、楽しい音楽の時間だ」
乾いた唇をペロッと一舐めしてから、恐怖を押し殺してニヤリと笑みを浮かべる。
そして、剣を地面に突き刺してマイクを口元に近づけた。
「__ハロー、クリムゾンサーブル! 飢えた死神だがなんだか知らねぇけど、俺たちの大事な場所を壊させねぇぜ! そんなに飢えてるなら、たらふく俺たちの音楽を喰らわせてやるぜ!」
鼓舞するようにウォレスがドラムを叩き、ビートを刻んでいく。
盛り上がっていく気持ちが恐怖を、不安を、緊張を吹き飛ばしていった。
「__人間をナメるなよ、自然災害。今から俺たちのロックで、ぶっ飛ばしてやる」
近づいてきているクリムゾンサーブルに人差し指を向け、言い放つ。
さぁ、ライブを始めよう。観客は血のように赤い巨大砂嵐__クリムゾンサーブル。
国一つを滅ぼすことが出来る、飢えた死神。巻き込むもの全て蒸発させる災厄。
対して俺たちはたったの五人。違う、五人と一匹。
戦力差は圧倒的にこっちの負け。本当なら自然相手に人間が勝てるはずがない。ただ身を隠し、災害が通り過ぎるのを待つしかない無力な人間だ。
でも、俺たちはただの人間じゃない。
元はメジャーデビューを目指していたロックバンド。それなのにこの異世界に召還されて、現代ではあり得ない剣や魔法を使って戦うことになった一般人。
そして、この音楽のない異世界に音楽の素晴らしさを伝えてながら、元の世界に戻るために旅をする__漂流ロックバンドだ!
「__<宿した魂と背中に生えた翼>」
曲名を言い、俺は大きく息を吸ってからマイクにボーカルエフェクトをかけ、静かにマイクに声をぶつけた。




