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エピローグ

 一人、グランドさんが待つ聖壇に立つ。

 目の前には弱弱しいグランドさんが横たわる。


「良くやった」

 グランドさんが手を伸ばしたので、咄嗟に手を取る。


「とても辛かっただろう」

「大変でした」


「済まなかった」

 ボソボソと力のない声だ。


「質問しよう。真の勇者の力、受け取る覚悟があるか」

「あります」


「お前は頑張った。赤子、スラ子、きな子、仲間たちと平穏に暮らす選択もある」

「魔軍が居ます。この国はまだまだ血が流れる。それを放っては置けない」


「お前は赤子とスラ子と融合できるようになった。その力を使えば、真の勇者の力が無くても戦える」

「それだけだと足りない。真の勇者の力があれば、今度こそ、誰も傷つかないように戦えます」


「良いのか? それはお前が望む平和な時が遠のくのと同じだ」

「この国が平和になる。それで初めて、僕は喜べる」


「ならば聞こう。どうやって魔軍と戦争を終わらせる?」

「話し合います」


「甘いな」

「そうですね。ですが、もう殺し合いはしたくない。それに、向こうも言い分があるはず。それを聞きたい」


「殺し合えば、もっと早く戦争が終わる」

「それはしたくない。まずは話し合います。そのうえで殺し合うならば、残念ですが仕方ありません。また、血で手を汚します」


「最後だ。真の勇者の力を手に入れた場合、もう前の世界に戻ることはできなくなる。後悔はしないな」

「しません。僕はこの世界が好きです。皆が好きです」

 冷たい手をギュッと温める。


「僕はここに来て、ようやく成長できた。幸せな思い出がたくさんできた。だから恩返ししたい。それにまだまだやりたいことは沢山あります」

「どんなことだ?」


「友達を作りたい! 人間だけじゃない。モンスターも一緒。誰も言葉も分かり、誰の言葉も話せる神の声で、皆と仲良くなりたい」

「それを聞いて安心した」

 グランドさんは薄く笑うと、ギュッと手を握り返す。


 手が温かい光に包まれる。

 そして、体に力が漲る。


「お前は良い子だ。その力で仲間を救え。そしてたくさん、友達を作れ。そして、幸せになれ」

「分かりました。お爺ちゃん」

 お爺ちゃんの手の甲にキスをする。




「ついに気づいたか」

「ずっと前だったから忘れてました。でも、その姿を見て思い出した。あなたは僕のお爺ちゃん。小学校六年生の時に旅立ったお爺ちゃんだ。この世界に来ていたんだね」


「数千年以上前にな。それからは大変だった。正直、辛いことだらけだった」

「なら、もう大丈夫。僕が居る。僕に全部任せて」

 お爺ちゃんの頬っぺたを撫でる。お爺ちゃんも僕の頬っぺたを撫でる。


「初めて会った時、懐かしいと思った。どこかで聞いた声だと思った。昔、聞いたお説教だと思った。やっと、思い出した」

「お前が小学校一年生の時だったか。ここの夢の中で言ったことを、膝の上のお前に話した」


「そのおかげで僕は悪いことをしなかった。お爺ちゃんが居る。僕の心配をしてくれた人がいる。それが心の支えだった」

「そうか。だがワシは、後悔していた。ここに来て真の勇者の力を得た時、お前が学校でどれほど辛い思いをしたのか分かった。ワシは、お前なら人を殺していいと思った。あれだけ辛いことを耐える必要など無いと思った。でもお前は耐えた。すべて、ワシの言いつけを守ったから」


「後悔はしていないよ。お爺ちゃんのおかげで今の僕がある。おかげで、赤子さんとスラ子、きな子、ハチ子、アリ子、クモ子、バードさん、イーストさん、クラウンさんにレビィさん。たくさんの人と友達に成れた」

「ならば、ワシを許してくれるか? 助けられなかったワシを許してくれるか?」


「許すも何も、お爺ちゃんは悪くない。ミサカズたちが悪い。それだけの話。だから僕は、お爺ちゃんが大好きだ。今までも、これからも」

「そうか……ありがとう」


「どういたしまして」

「ふふ。そろそろ眠りにつく」


「お休みなさい」

「お休み」


「ああ、でも、最後に一つだけ」

「何だ?」


「赤子さんかスラ子の力を借りれば、もうちょっと生きていられるかも」

「少々生き過ぎた。強くなったお前を見れて、満足だ」


「そう」

「ああ」


「ねえ」

「何だ」


「死なないで」

「泣くな」


「まだお話してないこと、いっぱいあるんだ。だからもう少し、生きて」

「お前はもうワシが居なくても大丈夫」


「嫌だよ」

「我儘を言うな」


「嫌だよ」

「しょうがない奴だ」


 お爺ちゃんが深く、息を吸い込む。


「お前はよく頑張った。魔王よりも恐ろしいミサカズに打ち勝った。お前は強くなった。だから、ワシは安心だ」

「お爺ちゃん」


「さよなら、ゼロ。幸せに暮らせ」

「お爺ちゃん」


「こら、泣くな」

「うん……ごめんね」


「謝るな。ワシはそんな言葉聞きたくない」

「うん。なら、もう少し、頑張って」


 お爺ちゃんに笑いかける。


「お爺ちゃん。僕は強くなった。だから、安心して」


 お爺ちゃんの目から涙が出る。


「ゼロ。お前は自慢の孫だ。お前が生まれて、お前にもう一度会えて、本当に、幸せだ」





 お爺ちゃんの亡骸の前で涙を拭う。


「お爺ちゃん! 僕は頑張る! 皆と一緒に頑張るよ! この神の声で!」


 心に決意を込める。


「モンスターと仲良くなります」


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