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史上最強にして最高の

「がは!」

 勝負が始まった途端、視界に火花が散る!


「おいおい! まさか俺の姿が見えなかったか!」

 ミサカズが僕の目前で見下す。


「くそ!」

「おっせ!」

 立ち上がって反撃するが、腹に拳がめり込むと、体中が痺れる。


「弱すぎなんだけどマジで! お前何! そんな弱いのに俺に逆らったの!」

 ミサカズが前蹴りを放つ。つま先が顎に当たると、口の中が血で溢れる。


「ざまぁあああああああ! おいおいどんな気持ちだ! 粋がって復讐しようとして返り討ちにされてどんな気持ちだ!」

「ぐほ!」

 腹につま先がめり込む。立って居られず、体が崩れる。

 そして何度も、死なない程度に手加減して腹を蹴る。


「強い者に逆らうな。義務教育よ? 幼稚園児だって知ってることよ? それが分からねえだなんてお前は幼稚園から虐められ直したら?」

「ぐお!」


「そもそもさ、俺はお前を親切心で虐めてたのよ。お前があまりにも屑で頭が悪かったから、先生の代わりに義務教育を拳で教えてたの」

「ぐえ!」


「普通だったら感謝だろ? 虐めてくれてありがとうございますだろ?」

「ぐあ!」


「そんで遺書の一つでも書いて、自殺すりゃ良かったじゃん。そうすりゃお前はネットのアイドルよ。掲示板の奴らが可哀そうって言ってくれたのよ? テレビの皆がお悔やみ言ってくれたのよ? 俺だってお前が死んで大笑い! どっちも幸せじゃねえか?」

「ぎえ!」


「引きこもって、いじめっ子のサクセスストーリーでも妄想してりゃ良かったじゃん。そうやって永遠にマスかいてりゃ良かったじゃん。俺は俺で勝手に幸せになるから」

「ぐ!」


「それなのに何で調子乗った? やっぱり馬鹿? マジ可哀そう。もうあれ、皆がお前に死んでくれって言ってる。聞こえない?」

「……」


「あれ? もう死んだ? じゃあ死ぬ前にお礼は? 殺してくれてありがとうございますって言ってごらん?」

 ミサカズが髪を掴む。髪がブチブチ言って、引き起こされる。


「良いか? よく覚えておけ。俺が上でお前が下だ!」

「死ね!」

 服の下からスラ子の触手が伸びて、ミサカズの首筋を切り裂く!


「はぁー! 痛い! で? それがどうした?」

 一瞬にして傷を治す。


「お前らじゃ俺に勝てねえんだよ」

 剣で服を切り裂かれる。


「熱い!」

 服の中に潜む赤子さんが太陽に焼かれる!


「赤子さん!」

 蹲り、影を作って、赤子さんを守る。


「ゼロ、守る!」

 そしてスラ子が! ミサカズの前に立ちふさがる。


「はー! 馬鹿ってどこまで行っても馬鹿だな」

 ミサカズの一閃が、スラ子を切り裂いた。


「スラ子!」

 駆け寄ってスラ子を抱きかかえる。


 スラ子の体が、スライム状になっていく。人の形をしていられないほど弱っている。


「勝負ありだな」

 ミサカズが剣を振り上げる。


 その後ろのグランドさんと目が合う。


 一緒に戦え。力を合わせろ。そう言っている。


 だけどどうやって? そもそも日差しの下だと赤子さんが全力で戦えない。

 さっきだって、赤子さんとスラ子がアシストしてくれたけど、僕本人が強くなっていないから意味が無かった。


「二人は吸血鬼とスライム? 二人は昔……」

 グランドさんが言っている意味を理解する。


「最後に覚えておけ。正義が勝つんじゃない。悪が勝つんじゃない。俺が勝つ。俺だけが勝つ。勝ち続ける。それがこの世界の定めだ!」

 ミサカズが剣を振り下ろす前に、赤子さんとスラ子に囁く。


「赤子さん、スラ子。僕の血と体を食べてください」

「ゼロ? 何を言っている?」

「一緒に、勝つ」

 二人の闘志は衰えない。だからこそ、二人を信じる。


「僕は勇者だ。超人薬も飲んだ。だから少しは力を持っています。僕を食べれば、二人とも少しは元気になるはずです」

「ゼロ……それはできない」

「ゼロ、一緒」

 二人の気持ちが嬉しい。だからこそ、心の底からお願いする。


「僕は弱い。でも二人と戦いたい。二人に食べられれば、一緒に戦えます」

「ゼロ」

「ゼロ」


「僕は二人を信じています。だから、僕の血、細胞を使ってください」

 二人は沈黙する。その間にミサカズの手に力が籠る。


「僕たちは、いつも一緒です。僕に力を分けてください。僕も二人に、力を与えますから」

 二人に笑いかける。


「死ね!」

 ミサカズが剣を振り下ろす。


「三人で必ず、お前を殺す」

 その時すでに、赤子さんは僕の血を飲み干すために、血管に入り込んでいた。スラ子は僕の細胞を食べるために体内に潜り込んでいた。


 剣が脳天をたたき割った。




「終わり終わり」

 ミサカズはゼロの頭を叩き割ると、満足そうに深呼吸する。


「スッとした! 気分がいい!」

 グランドに剣の切っ先を向ける。


「くそ爺! 終わりだ! 真の勇者って奴の称号と力を寄越せ」

 グランドはミサカズを見ず、ゼロを見続ける。


「まだ終わっていないぞ」

「は?」

 ミサカズは振り返る。


 ゼロが立って居た。


「……え? 死んだよな? 何で立ってる?」

 呟くと同時にアッパーカットが顎に叩き込まれる! ミサカズの舌が宙を舞う。


「ぐぇええええ! ら! らりがおぎだ!」

 ミサカズは転げ回ってゼロから距離を取る。


「あれは、吸血鬼」

 イーストの瞳孔が開く。


 ゼロの髪と瞳は、吸血鬼と同じく真っ赤になっていた。


「ぎゅ、吸血鬼化! この野郎! よくもそんな卑怯なことを!」

 ミサカズは能力で即座に回復すると、目にも止まらぬ速さで襲い掛かる。


 それよりもゼロは早く、ミサカズの腕を掴む。


「くそったれ! 放せ!」

 ミサカズは何度もゼロを殴る。しかしゼロはビクともしない。


「うぎゃあああ! うでぇえええええ!」

 ミサカズは剣を放り出して転げ回る。


 ゼロが掴んだ部分が、デロデロのスライムと化していた。


「スライム化! スライムの能力だ」

 ジャックが驚きの声を上げる。


「どうやら、ゼロは赤子とスラ子と融合したようね」

 レビィは呟く。


「融合? そんなことがあり得るのか?」

 イーストは呆然と立ち尽くす。


「ゼロは赤子とスラ子に食べるように言った。そして一緒に戦うと言った。赤子とスラ子はゼロの言う通り、血と細胞を食べた。でもゼロは死なせたくない。それが融合という結論になった」

 レビィは腕組みをして、身震いする。


「勇者と吸血鬼の始祖とスライムの始祖が融合した? ならあれは何だ?」

「何か? こんな時に私たちが言う言葉なんて決まってるでしょ」

 コロシアムの人々は背筋に走る冷たさと、圧倒的な力、何より、心を奪われる魅力的な姿に震える。


「魔王。あれは、魔王ゼロ!」


「ミサカズゥウウウウウウ! 殺してやるぞぉおおおお!」

 ゼロの雄たけびが大気を震わせる。


「ちくしょう……ちくしょう……」

 ミサカズはスライム化した部分を切り落とす。いくら呪文を唱えても治らないため、がん細胞のように切除するしかなかった。

 もしも全身がスライム化したら……。


「何でこうなるんだよぉおおおおおお!」

 能力で体を治すと、再度剣を作り出し、史上最強にして最高の魔王へ切りかかった。


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