表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/72

真の勇者

 ミサカズを撃退して一週間、ゼロは万年都の会議室でジャックの報告を聞いていた。

「残念だが、ミサカズは未だに見つからない。アトランタ国中で指名手配されているのだが……」

「そうですか」


「さらに、冒険者や騎士、果ては勇者まで行方不明者が続出している。皆、強力な能力を持った奴らだ」

「ミサカズが食っている!」

 ギュッと両隣に居る赤子とスラ子を抱きしめる。


「奴はいったいなんだ?」

 ジャックは同席するイーストに顔を向ける。


「ただの勇者のはずだ」

 イーストはため息を吐いて首を振る。


「ただの勇者ならどうして他の勇者まで襲う?」

 ジャックは煙草に火をつける。


「いくら何でもあいつは異常だ! 今までも屑な勇者は居た。だがあいつほどじゃない。俺たちを毛虫のように嫌っても、仲間は大切にした。ところがあいつは何だ? 仲間も作らず、ひたすら能力を得るために人を殺している。分かっているだけでもう数百人だぞ!」

 苦々しく吐き捨てる。


「時止めの能力に対抗することができない私たちでは、どうすることもできない」

 イーストは青い顔でゼロと赤子、スラ子を見る。


 赤子は日差し除けに、室内なのに厚着で帽子を被っている。

 スラ子は眠っていないので目に隈ができて、辛そうだ。


 明らかに二人は以前と違う。


「あいつは、僕に怒っているだけです」

 ゼロはそんな二人をギュッと抱きしめ続ける。


「あいつは僕が自分よりも劣っていると思っている。そうでなくちゃいけないと思っている。それが思わぬ反撃を受けた。あいつはショックだった。だから許せない。そのために人を食う。ただ単に、僕を殺すために」

「……なぜあいつは、そこまでお前を恨む?」


「恨んで居る訳ではありません。ただ単に、それが当然だと思っているだけ。それに逆らったからぶち殺す。僕とミサカズはそういう関係なんです」

 一同は言葉を無くす。


「引き続き、捜索を続ける。ゼロは絶対に、二人から離れるな。そして絶対に三人だけで出歩くな。今のお前たちでは、ミサカズを倒せない」

「分かってます」

 悔しさを噛みしめたところで、報告会は終わった。




 そして次に、強くなるために、屋根付きの訓練場へ立つ。

「お待たせしました」

「待ってたわ」

 特訓の指導者はレビィだ。ゼロの要請で特別に牢獄から出してもらった。


「いつも通り、握手よ」

 レビィは笑うと、握手を求める。

 ゼロは握手すると、渾身の力を込めて握る!


「まだまだ弱いわ。その力じゃミサカズに食われるのが落ちよ」

 レビィがため息を吐くと、ゼロは悔しさに顔を歪める。


「超人薬を飲めば、ミサカズに対抗できると思ったけど、甘くないか」

 ゼロはポケットの超人薬を取り出して、一口飲む。


「体質的な物かしら? 凄く効き目が悪いわ」

 レビィは困ったようにため息を吐く。


「泣き言ばかり言えません。あいつは絶対に僕たちをぶち殺しに来る。それに対抗しなくちゃ」

「闇討ちされるかもしれないわ」


「それは絶対にあり得ません。あいつは僕を嬲りたいと思っている。力の差を示したいと思っている。だから堂々と姿を現す」

「……よく知っているわね」


「あいつとは、付き合いが長いです」

 グッと剣を握りしめる。


「初めて会ったのは小学校一年生の時。その時から、僕をからかったりして遊んでた。最も、今考えると、人と接する方法が分からなかったからだと思います。ある意味、あいつなりの友情の示し方だったと思います。決定的に変わったのは、小学校三年生の時。僕は一度だけ、ミサカズにテストの点で勝ちました。その時から、あいつは明確的に僕を嫌うようになった。それからあいつは力を示すために殴るようになった」

「最悪の関係ね」


「ええ。だからこそ、僕はその関係に終止符を打たないといけないんです」

 グッと剣を構える。


「お待たせしました。始めましょう」

「言っておくけど、手加減はするけど殺す気で行くわ」


「分かっています。赤子さん、スラ子。頑張りましょう」

「分かっている」

「頑張る!」


 そして特訓が始まる。しかしゼロたちとレビィの力の差は明白だった。


「動きが遅い!」

 足払いで簡単に転ぶ。


「まずは足を動かしなさい! そうしないと殺せないわ!」

「はい!」


 再度立ち上がって突撃する。


 しかし、何度も何度も返り討ちに合う。


「参ったわね。赤子とスラ子を纏っているのに、超人薬を飲んだのに、前よりも弱いわ」

 レビィは立ち上がれないゼロを見下ろし、ため息を吐く。


「おまけに、赤子は日の光を浴びれなくなった。スラ子は体力が大幅に落ちてしまった。噛みつくか何かして、吸血鬼化かスライム化してしまえば勝機はあるけど、それも難しい状態」

「だ、大丈夫です」

 ゼロは剣を杖に、立ち上がる。


「強くなります! だからもう一度!」

「その闘争心は、大好きよ」




 それからさらに一週間経つ。ゼロは毎日特訓をする。進歩はあるが、ミサカズに勝てるほどではない。

 そして、ミサカズは見つからない。


 そんなモヤモヤするある日、王都から使者が来る。


「王都へ?」

 使者から内容を伺うと、首を傾げる。


「真の勇者様がお目覚めになりました! そしてゼロ様をお呼びです! 至急、王都へ!」

 正直、ミサカズの事が心配で行きたくなかった。しかしイーストまで訪れ、一緒に来いと言ったので従った。


「真の勇者って何ですか?」

 イーストの馬車に同席して王都へ向かう。きな子に乗るのは、赤子が太陽に焼かれるようになったため不可能だ。


「はるか昔、魔王を打ち倒したと呼ばれる勇者だ」

「魔王を打ち倒した。凄い人ですね」


「さらに、赤子とスラ子が暴走した際に、それを収めた人でもある」

「赤子さんとスラ子は真の勇者に会ったことがあるんですか!」


「そんな奴知らない」

「覚えてない」

 ゼロの服の中でうねうねする。


「まあ、おとぎ話だ。ただこの国の救世主として名高く、神として祭られている。眠っている姿を一度だけ目にしたが、凄まじい迫力だった」

「眠っている姿?」


「千年以上前に力を使い果たし、眠りについたと言われている」

「ふーん」


「とにかく、王よりも偉い人だ。そんな人から声をかけられるなど、とてつもない名誉だぞ」

「ピンと来ないな? 何で僕に? 正直ミサカズのことがあるから行きたくないんだけど」


「我慢しろ。それにミサカズとはいえ、真の勇者の前では無力だ」

「そうですか」

 釈然としないまま王都へ行く。

 そしてコロシアムへ通される。




「よう、屑!」

 そこでミサカズと対面する!


「ミサカズ!」

 構えてもミサカズはニヤニヤするだけ。また周りの兵士も顔を逸らすだけ。


「今ここで殺してやっても良いが、特別に生かしてやる。殺すのは決闘場だ」

「決闘場?」


「ゼロ! 真の勇者がお見えになったぞ!」

 イーストは真の勇者が現れると、すぐさま跪く。周りも一斉に跪く。レビィすらも跪く。

 跪いていないのは、困惑するゼロと、不敵な態度のミサカズだけだった。




「グランドさん!」

 ゼロはついに、真の勇者、グランドと現実世界で対面した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ