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破滅の涙

「……くそったれ……ゼロの野郎!」

 ミサカズは蘇生すると、ゆっくりと体を起こす。


「ぶっ殺してやるぜ!」

 そして勢いよく立ち上がると、ゼロを抱く赤子とスラ子を目にする。


「何だあいつら?」

 赤子とスラ子は目覚めないゼロを抱きしめ続ける。


「……今のうちに殺すか」

 ミサカズは足元に落ちていたナイフを拾い上げると、足音を殺して二人に近づく。


「なぜ殺した」

 赤子の冷ややかな声が響く。


 ミサカズは足を止めて、舌打ちする。


「ゼロ、悪いことした?」

 スラ子はゼロの頭を撫で続ける。


「そいつが襲ってきたんだ。正当防衛だ」

 作り笑いで足を進める。


「ゼロは人を襲ったりできない」

 震える指が頬をなぞる。


「お前らが誰かは知らないけどよ、そいつは意外と屑だぜ」

「黙れ」

 突如ミサカズが転ぶ。


「……え!」

 足が根元から切り落とされていた。


「あ、あ、あしあしあしあしあし!」

「もう一度聞く。なぜ殺した」

 赤子は血の涙を流しながら振り向く。


「ひ! ば、ばけもの!」

 ミサカズは足をもがれた虫のように二人から逃げる。


「ゼロ、悪いことした?」

 今度は両腕が溶けて無くなる。


「う、う、うでうでうでうで!」

「ゼロ、悪くないよね?」

 スラ子の肌がスライムと同じく透明になっていく。


「な、なあ! 落ち着け!」

 ミサカズは体を捩じって仰向けになり、二人に叫ぶ。

「ゼロ、悪くないよね?」

 スラ子から伸びる触手がミサカズの顔面を砕く。


「あ、あご! は、なが!」

「なぜ殺した」

「悪くないよね」

 二人は淡々とミサカズを追い詰める。


「な、なんで怒ってんだ?」

 ミサカズは聞く。


「そいつを殴っても、誰も気にしなかったのに? そいつが死にかけても、誰も気づかなかったのに? 何でお前らは怒ってんだ?」

 ミサカズは涙する。


「そいつは、死んでもいい奴なんだぞ? 頭は悪いし、気持ち悪いし、近くに居るだけで吐き気がするんだぞ? 殺されても文句が言えない奴なんだぞ? それなのに、何で怒ってんだ?」

 ミサカズは分からない。


「ゼロは、死んでいい奴だったのか?」

「誰が決めたの?」

 二人の顔が少しずつ、人間から離れていく。形は人間なのに、化け物になっていく。


「く、クラスの奴が決めた! 先生だって気にしなかった! 皆が決めたんだ!」

 ミサカズは泣く。


「なあ! 何で怒ってるんだ?」

 ミサカズは分からない。


「そんな奴死んだって、悲しく無いだろ?」

「私は悲しい」

「スラ子、嫌だ」

 二人は涙を流す。


「ゼロと一緒にいて楽しかった」

「ゼロが喜ぶと嬉しい」


「ゼロが居たおかげで笑顔になれた」

「ゼロが笑うと嬉しい」


「なのに、お前たちは、楽しくなかったのか?」

「何で、ゼロが嫌いなの?」

 二人の体が少しずつ、スライムと吸血鬼へ変わる。


「なんでお前ら、そんな奴が好きなんだ?」

 ミサカズは恐怖で顔を歪める。


「お前ら、馬鹿じゃねえか?」

 ミサカズは分からない。


「皆、そいつが嫌いだったんだぞ?」

 ミサカズの声が、静かに響き渡った。




「皆が嫌いならそれでもいい」

 赤子は腕の中のゼロに口づけを交わす。


「私たちだけがゼロを愛そう」

 その顔は、とても穏やかな覚悟に包まれていた。


「スラ子、ゼロが好き」

 スラ子はゼロの頬っぺたにキスをする。


「それ以外、要らない」

 その顔は、とても優しい覚悟に包まれていた。


「た、たすけて!」

 ミサカズの体は霧散する。


 残ったのは血と細胞だけ。


 それもすぐに乾き果てる。


「ゼロを蘇らせるぞ」

「うん」

 二人はゆっくりと歩く。


「世界の命を使って」

「うん」

 二人は涙を流しながら歩く。




 その日、万年都から大量の吸血鬼とスライムが発生した。


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