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あの日の真相

「起きろ」

 ビシャビシャと酒が頭に降り注ぐ。目に入って痛い。


「……ミサカズ」

「呼び捨てにできる立場じゃねえだろ?」

 顔面を蹴飛ばされると歯が数本折れる。


「何だ! 折れたのか!」

 歯を吐き出すと、楽しそうに踏みにじる。


「……生きてたんだね」

 殺されないように敬語を使う。


 まるで、学校に戻ったみたいだ。


「ここが違うのよ。この世界の馬鹿どもとはな」

 ミサカズは人差し指で自分の脳を自慢げに指さす。




 ミサカズは胡坐をかくと、死の真相を自慢げに、酒を飲みながら話す。

「あの日、酒が切れてイライラしてた。んで、誰かの家に飛び込んで、酒を飲んだ。すると気分が落ち着き、悲鳴が聞こえた」

 ミサカズは勇者としての力は本物だ。


 仲間がイーストさんたちに粛清されていく声を聞いていたんだ。


「ちょっと確認したらすぐに分かった。イーストたちが俺たちを殺しに来てる! 俺は考えた。ここでこいつらを皆殺しにするのは簡単だ。だけど、それで何になる? 追手が増えるだけの話だ」

「だから死を偽装した?」


 ミサカズは昔々のように、僕を見下す。


「俺の能力を知ってるか?」

 鼻歌を歌いそうだ。


「分からない」

「お前は馬鹿だからな」

 腹の底から笑みを絞り出す。


「俺の能力は#力の捕食者__マンイーター__#。食うことで相手の能力を物にする能力だ」

「なら、不老不死も時を止める能力も?」


 血混じりの声を出すと、ミサカズは膝を手で叩く。


「サカキバラって覚えてるか? あの眼鏡かけた女だ」

「ちょっとだけ」


「あの女が不老不死の能力を持っていた。知ったのは偶然だ。遊び半分で絞殺したら生き返った」

「……仲間を殺したのか?」


「口が悪いって言ってんだろ?」

 足を踏まれると激痛が鈍い音とともに体中を駆け巡る。


「ダンジョンにあの女と潜った。馬鹿どもも一緒だ。そこでモンスターたちを殺してたんだが、すぐに飽きた。だからサカキバラを輪姦して遊んだ。そしたら、ちょいと手に力が入ってよ。うっかりだうっかり。ああ、ブスだったけど締まりは良かったぜ」

 この男は他人事みたいに淡々と己の汚点を恥ずかしげもなく語る。

 ミサカズらしい!

 

「しかし、ダンジョンから帰ろうと思った時、馬鹿が罠を作動させやがった! 結果! 俺まで巻き添えになって、遭難しちまった!」

 顔面に石が飛んでくる! ガツンと額に当たると血が目に入る。


「すぐに飯が無くなってよ。どうするか皆で話し合った。まあ、答えは決まってる。食っても食っても減らない肉があるからな」

「……サカキバラさん……」

 この男は、何のためらいもなくサカキバラさんを切り刻んだ。その時のサカキバラさんの恐怖は、想像を絶しただろう。


「サカキバラは出口を見つけた時に皆で食った。喋ったら面倒だからな。ところで不思議なんだが、不老不死なのにうんこが喋らなかった! どうよ!」

「……は?」

 何で笑っているんだ?


「俺を馬鹿にしてんのか?」

 また石が飛んでくる。左目が開かない?


「サカキバラを食ってしばらくした後、酒飲みながら女を犯した。そしたら! 卑怯にも男が背中にナイフを突き立てた! 一回死んだ! くそったれ!」

 凄く勇気のある男性だ。きっと、恋人だろう。


「だけど、俺は生き返った! 神は俺を選んだ! そしてその時気づいた。サカキバラの能力を食ったと。そういや、その男と女は殺しておいたぜ。人殺しはいけないことだ」

 まるで人間は自分だけと言いたいみたいだ。


「だが俺は慎重な男だ。ほら、ボーって覚えてるか? 名前忘れたけど、あの池沼だよ! あいつも実はサカキバラを食った。食わせたんだけどな。荷物持ちに連れてきたから、無理やり口を開けて押し込んでやった。ゲーゲー吐いたぜ!」

 手を叩いて笑う。


「で、だ。俺はボーの心臓を刺してみた。もしかすると、人間を食ったら誰でも能力を奪えるって法則があるかもしれないだろ? そしてボーは死んだ! 俺は自分の能力を確信し、#力の捕食者__マンイーター__#と名付けた!」

 何て酷いことを。


「それからはレアな能力を持っている奴を探して食うようになった。冒険者ギルドってあるだろ? あそこには冒険者がどんな能力を持っているか書いてある。それで探して、呼び出して、後ろからガツンと殴って、食う。その繰り返しだ」

 耳が腐る自慢話だ。




「話を戻すが、イーストたちが殺し回っているのを知った時、不老不死を利用して、一回死んだほうが良いと思った。死ねばあいつらは俺を追わない」

「良く実行できたね。凄いよ」

 褒めるとミサカズは嬉しそうに顔面を殴る。何をやっても殴って来るな。


「酒って、飲みすぎると記憶が無くなるんだ! だからそれを利用した。その日はとにかく飲みまくった。気づいたら棺桶の中! そうなれば後は簡単だ。隙を見て抜け出すだけで良い」


 なるほど、ミサカズが死を偽装できたのは、イーストさんと僕の怠慢も手伝った。


 イーストさんは怒りと超人薬を開発したことで注意力散漫になっていた。


 僕はミサカズたちを見たくないという心理が働いた。


 だから棺桶にミサカズが居るか確かめなかった。




 話を整理すると、ミサカズはあの夜、イーストさんたちが殺しに来たことを知った。


 ミサカズは強い者とは戦わない主義だから、死を偽装することを目論んだ。


 しかし、不老不死とはいえ死ぬのは怖い。だから多量の飲酒で恐怖を紛らわせた。


 それが功を奏した。多量の飲酒でフラフラとなったため、抵抗もできないまま死んだ。それがイーストさんたちを油断させた。


 そして、しばらくした後に蘇生し、棺桶から抜け出した。


 遺体があるか確かめてさえいれば! こんなことにはならなかった!




「それにしても、お前が生きてるとは思わなかった。それどころか貴族になって、いい女を侍らすなんて」

 ミサカズは満面の笑みで股間を膨らませる。


「なぜ僕に会いに来たの?」

「なぜかって? 決まってるだろ? 俺たちは友達だ」


 ああ……こいつは……本当に……最悪の敵だ……。


「また俺の仲間に入れてやる。俺がナンバーワンでお前がナンバーツー。今日お前の隣に居た二人の女。あれは俺の物だ。王妃はやるよ。あんな婆いらねえ」

「僕に、具体的に何をしてほしいの?」


「お前はやっぱり馬鹿だな」

 イライラとため息を吐く。


「万年都の領主は俺だ。お前は補佐。それをあいつらに伝えろ。化け物どもの世話もお前がやれ。ただし、俺がお前よりも偉いってことはちゃんと教育しろよ」

「……そうしたら、僕を助けてくれる?」

 ミサカズは屑の笑いを浮かべる。


「当たり前だ。友達だろ。前みたいに助けるさ」

「ふざけるな!」

 ペッとミサカズに唾を飛ばす!


「……お前? 何やったか分かってるのか?」

 ミサカズの目元がピクピク動く。


「万年都は僕の町だ! 皆の町だ! 皆で苦労して作った町なんだ!」

 歯を食いしばって立ち上がる!


「僕は万年都の責任者だ! そのために人を殺してしまった! だから! お前には渡さない!」

「調子に乗っちゃたか。やっぱり馬鹿は定期的に殴らないとダメだな」

 ミサカズがナイフを抜く。


「でももういいや! 今の俺ならあんな奴ら敵じゃねえ! お前はもう要らないよ!」

 目に見えない速度でナイフが脇腹に突き刺さる!


「死ねよ!」

 ギリギリとナイフが食い込む! ミサカズの目が僕を見る!

「ミサカズ!」

 息を止めて、歯を食いしばって、気合を入れる!

 僕に憎しみを向けたその一瞬を逃さない!


「僕を舐めるな!」

 足から隠しナイフを抜いて、ミサカズの頸動脈を切り裂く!


「……あ?」

 噴水のように血が噴き出る。


「て、てめえ……」

 ミサカズが力なく、ナイフから手を離し、僕から離れる。


「ざまあみろ!」

 ミサカズは白目を向いて、倒れた。


「勝った……ついに……あの馬鹿に勝てた」

 気が抜けると足から力が抜ける。


「急いで、皆の元に行かないと、ミサカズが蘇る」

 不老不死は厄介だが、蘇生前なら対策できる。


「へへ……でも……僕って強くなったな」

 体に力が入らないから、這いずって動く。


 それなのに、嬉しくて堪らない。


 あれだけ怖かったミサカズに勝てた。


「ようやくかてた」


 いじめられる自分が嫌いだった。


 ゆうきがない自分が嫌いだった。


「ようやくぼくはじぶんがすきになれる!」


 やった! やった!


 あかこさんとすらこの力をかりなくても、ひとりでかてた。


 だいきんぼしだ。


「みんなにじまんできる! ぼくは、つよい!」


 ようやく、むねが、はれるよ!


「しねないじぶんがきらいだったけど……しななくてよかった」


 まえに、くびを、つろうとしたことが、あった。


 やらなくて、よかった。


「みんな、よろこんで、くれるかな?」


 ねむい。でももうちょっとがんばりたい。


「みんな、ぼ、く、がんば、たよ」


 ちょっとだけ、ねむろう。


「みんな、ありが、とう」


 おきたら おれい いおう


「みんな だい すき だよ」


 みんな あえて よかた


「あかこ さん すらこ」




 僕と友達に成ってくれて、本当に、ありがとう。







「ゼロ!」

「ゼロゼロ!」


「スラ子! 早くゼロを治せ!」

「もう治した!」


「よし! ゼロ! 起きろ! 起きろ!」

「ゼロ! 大丈夫! スラ子、来た!」













「「ゼロ?」」


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