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誰とでも会話できるけど……

 赤子さんと手を繋いで闇夜の森を歩く。

「平気か?」

 赤子さんが作り出した薄暗い明りを頼りに足元を確かめる。

「大丈夫です」

 もっと明かりが欲しいが、明るすぎると冒険者に見つかってしまうかもしれない。だからひっそりと進む。

「大丈夫?」

 スラ子が首を傾げたので笑いかける。

「大丈夫だよ」

「良かった!」

 スラ子は満面の笑みで闇夜をしっかりした足取りで進む。


「元気な奴だ」

「良いことだよ」

 赤子さんに笑いかけると、彼女も微笑んだ。




「ここら辺の雑草を食べよう。木は食べちゃダメ」

「雑草?」

「これ。これだけ食べよう」

 雑草を摘まんでスラ子に渡す。


「分かった!」

 スラ子は液状になって地面に広がる。瞬く間に雑草が消えて土がむき出しになる。


 倒れた木の上に座ってスラ子を見守る。

「ゼロは何か食べなくて良いのか?」

 隣に座る赤子さんが手を握る。


「さっき食べたから大丈夫」

「そうか? 昨日に比べて疲れているように見えるが?」


「寝不足かな? 今日はゆっくり寝るから大丈夫」

「ゼロがそう言うなら大丈夫か? だが無理はするなよ」

 心配されるなど初めてだったので目がじんわり熱くなる。

「ありがとう」

 お礼を言って赤子さんの体を眺める。


「どうした?」

 笑みを絶やさないその姿は闇夜の女王様のようだ。


「ドレス汚れましたね」

 裾や袖は土塗れだ。靴も履いていないので素足も汚れている。

 もったいない。


「そうか? これくらい普通だと思うが?」

「僕の常識だと汚れています。綺麗な姿が勿体ないなって」

「そうか。ならすぐに着替えよう」

 立ち上がると服を消す! そして影から新しいドレスを作り出す。


「どうした? 目が痛いのか?」

「服を脱ぐときは言ってください。顔を逸らします」

「そうか」

 気にせず服を着る。布ずれの音が妙に耳に残る。


「新しい服も欲しいし、もっと良い隠れ家も欲しいし、ご飯も欲しい。色々足りないな」

 ぼんやりと空を見上げる。

 最初は今のままで良いと思った。だけど人間に近くなっていく二人を見ると欲がどんどん出て来る。


「せめてスラ子に着せる服が欲しいな」

 スラ子は普段子供の姿だ。人間らしい仕草をするようになると、裸で居させるのが嫌になってくる。


「問題は色々あるな」

 問題は色々あるのに、何もできない。

 それが悔しい。


「食べた」

 そうこうするうちにスラ子が雑草を平らげる。


「まだ食べたい?」

「大丈夫」

 すっきりした笑顔だ。


「じゃあ、戻ろうか」

「ゼロ、動くな」

 赤子さんが突然声を尖らせる。




「どうしました?」

「殺気だ。狙われている」

 耳を澄ましても何も聞こえないし、目を細めても暗闇が広がるだけ。

 しかしピリピリとした空気を感じる。


「オオカミか。下等生物が」

 赤子さんが一点を凝視する。


「ゼロ。奴らは襲ってくる。その時殺す」

 冷たく緊迫した声色だ。


「……分かりました」

 残念だけど、赤子さんとスラ子を危険に晒したくない。


「スラ子、戻ろう」

「敵」

 スラ子も殺気に気づいたのか、辺りを警戒する。


「逃げましょう」

 さすがに背筋が冷えてきたので声を落とす。


「囲まれている。殺すしかない」

 赤子さんの瞳が赤く燃える!


 ガサガサと草木が動いた!


 ギャンと悲鳴とともに血しぶきが舞う!


 キャンと泣き声とともにオオカミがスラ子に飲み込まれる!


 オオカミの悲鳴が響き渡る!


「引け!」

 遠くから雄たけびが聞こえるとオオカミたちが一斉に姿を消す。




「逃げた」

 赤子さんが転がるオオカミの死体から血を啜る。


「美味しかった」

 スラ子がペロリと唇を舐める。


「声が聞こえた」

 じっと声がした方角を睨む。


「声? そんなもの聞こえたか?」

 口を拭い、同じ方向を見つめる。


「スラ子は聞こえなかった?」

「鳴き声」

 スラ子はウトウトと船を漕ぐ。


「僕にははっきり聞こえたんだけど?」

 どうしても気になったので声を上げる。


「誰か居ますか!」

 大きな声で叫ぶ。


「下等生物が居るだけだ」

 目を細めると瞳孔が爬虫類のように鋭くなる。


「そうですか」

 気になるけど、これ以上声を上げるのは危険なので戻ることにする。


「お前、私の言葉が理解できるのか」

 突然森が動く! 木々の間から見上げるほど大きなオオカミが現れる。


「下等生物が何をしに来たんだ?」

 赤子さんはめんどくさそうな表情で睨む。僕と同じく敵意を感じていない。


「答えろ。私の言葉が理解できるのか」

「できます!」

 急かされたので声が裏返る。


 大きなオオカミの鼻が目前に迫る。生臭さが鼻を突く。


「人間だ。なのに私の言葉を理解できる?」

 オオカミはじろじろと僕や赤子さん、スラ子を見る。


「何の用でここに入った」

 目がぎらつく。


「この子に食べさせる物を探してきました」

「こいつに?」

 オオカミはスラ子と、ついでという具合に赤子さんの臭いを嗅ぐ。

 二人ともイラついた様子だったが、目を瞑ってやり過ごす。


「付いてこい」

 のっしのっしと地面を鳴らす。


「ついて行ってみよう」

「分かった」

「眠い……」




「ここまでがお前たちの縄張りだ。これ以上先は私たちの縄張りだから入るな」

 ガリガリと地面に大きな爪痕を残す。


「ここ以外にも爪で目印を付ける。それ以上は入ってくるな」

「わ、分かりました」

 嫌に簡単に話が決まった。


 そして大きなオオカミはそっぽを向く。


「あの、良いんですか?」

「何が?」

 ピタリと足を止める。


「その、僕たちはあなたの仲間を殺してしまいました」

「知っている」

 のそりと振り返ると暗い瞳と向き合う。


「その……ごめんなさい」

「謝るか。変な奴だ」

 再び大きな口が迫る。


「あの子たちはお前たちを食べようとし、返り討ちに合った。ならば仕方がない」

 ペロリペロリとなぜか舐められる。


「しかし、謝るというのなら、埋めて欲しい」

「分かりました」

 返事をすると、オオカミは闇の中へ走り去った。




 赤子さんたちに手伝って貰い、お墓を作る。

「なぜわざわざ埋める?」

 赤子さんは不思議そうだった。


「あのオオカミにお願いされたから。赤子さんも聞いたでしょ?」

「あの下等生物が? 鳴いていただけだった」

 墓の前で固まる。


「さっきオオカミと喋っていました」

「喋っていた? 一方的に話しかけていただけだろ?」

 認識がかみ合っていない。


「スラ子、赤子さんが何を言っているのか分かる?」

「そいつ、喋る?」

 まどろんでいたスラ子が赤子さんを睨む。


「赤子さんはスラ子が何を言っているか分かりますか?」

「そいつは喋らないだろ?」

 二人と会話して分かった。


「僕はモンスターの言葉が分かる」

 だから赤子さんと先のオオカミは驚いた。


「それは嬉しいけど……」

 それよりもモンスターは同種以外の言葉を理解できない事が判明した。そっちのほうが問題かもしれない。


「さっきのオオカミ、僕が言葉を理解できることに驚いたけど、自分が人間の言葉を理解できることに驚いた様子は無かった。多分、長年の経験で人間の言葉が理解できるようになった」

 これからどうするか?

 はっきり定まっていない今、あのオオカミと仲良くなったほうが良い。


 何かヒントがあるかもしれない。


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