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ゼロVSクラウン

 クラウンさんと同時に動く! その瞬間右頬に衝撃が走る!

「目で追えてないね」

 クラウンさんが耳元で囁く! 背筋がゾワリとして、反射的に腕を振る!

「遅い遅い」

 クラウンさんは空中に浮いて笑っていた!


「素早さと攻撃力は感心。顔面を殴ったのに無傷なのもグッド。でもそれは赤子とスラ子が凄いだけ。肝心の君が未熟」

 チッチッチッと人差し指を振る。


「分かってますよ」

 右頬を触る。スラ子が咄嗟に守ってくれたので痛みは無い。しかし衝撃で一瞬目が眩んだ。

 何度も食らうと、失神する恐れがある。


「分かってるなら、どうすればいいか考えたほうが良いよ」

 クラウンさんの周りに数百枚のトランプカードが浮遊する。


「避け切れるかな?」

 クラウンさんが両手を動かすのを合図に、弾丸のように飛んでくる!


「く!」

 両腕で顔面を守る! 体中に着弾の衝撃が走る!


「避けなくちゃ」

 左から声が聞こえる刹那、脇腹に衝撃が走る!


「ぐ!」

 蹴飛ばされた衝撃で壁に叩きつけられる!


「隙だらけだよ」

 動く暇もなくクラウンさんの拳が放たれる! 両腕でガードするがお構いなしに叩いてくる!

 防戦一方! 動けない!


「ん!」

 突然攻撃が止む。

 ガードを解くと、クラウンさんは汗びっしょりで十メートルほど飛びのいていた。

 頬には鋭い切り傷が刻まれている。


「大丈夫か?」

 服の中で赤子さんが言う。足元を見ると、影から赤い刃が伸びていた。先端には血が付いている。


「平気です」

 どうやら、赤子さんが業を煮やして攻撃したようだ。追撃しなかったのは、僕が倒すというお願いを覚えていてくれたからだろう。


「ゼロ君、情けないぞ」

 クラウンさんは汗を拭うと微笑む。


「君は自分の力で僕を倒すんだろ? 赤子やスラ子に心配させちゃダメよ」

「分かってますよ!」

 しかし、拳を構えてみたがどうする? クラウンさんは百戦錬磨だ。僕の目では動きを捉えられない。攻撃もおそらくだが、予備動作を見抜かれて当たらない。


 赤子さんとスラ子の性能を持て余す自分に腹が立つ!


「じゃ、一つだけアドバイス」

 クラウンさんは構えを解いて深呼吸する。


「君は一人で戦おうと意地を張っている。でも君一人では勝てない。それは承知だろう? なら、赤子とスラ子の言葉に耳を傾けてごらん」

「言葉に?」

 僕も構えを解いて考える。


「君たちは今、三人で一人の勇者。ならそれを活かさないと」

 クラウンさんが再度構えたので、こちらも構えなおす。


「スラ子、防御頼む。赤子さん、僕はクラウンさんの動きが見えません。どちらへ動くか教えてください」

「分かった。必ず奴の心臓を貫かせる」

「スラ子、ゼロ、守る!」


「ありがとう!」

 クラウンさんに走る!


「右手で殴って来る。顔面で受けて殴り返せ」

 走り出した瞬間、赤子さんから指示が飛ぶ!

 赤子さんの言う通り防御せず突っ込む! 防御はスラ子に任せた! 僕は攻撃だけ考える!


「ふ!」

 左頬に衝撃が走り、クラリと脳が揺れる! だけど怯まない! 一歩踏み込む!


「そこだ!」

 赤子さんの声を頼りに拳を振る!


「がは!」

 拳はクラウンさんの胸に命中した。


 バキバキと嫌な感触が拳を包む。


「が! おえ!」

 クラウンさんは胸を押さえながらたたらを踏む。


「い、いい、さついだったよ」

 そして屋上から落ちた。


 急いで飛び降りる。


「クラウンさん……」

 クラウンさんは虫の息で、大の字に倒れていた。




「い、や、まけ、ちゃった」

 血の泡を出しながら笑う。


「で、も……ま、だ、いきて、るよ?」

 じっと僕を見つめる。


「赤子さん、スラ子。いつも通り、ポケットと影に隠れてください」

「良いのか?」

「ゼロ、危ない」


「最後は、僕だけの力で終わらせます」

 傍に落ちていた剣を拾う。


 そしてクラウンさんの頭に回ると、切っ先を喉に向ける。


「僕は万年都を守る。だからこそ、あなたを殺します。あなたは許されないことをしたから」

「そ、だね……ゆるし、たら……また……ころ、しに……いくから……」

 クラウンさんは全てを受け入れた目で見つめて来る。


 凍り付いたように、体が動かなくなる。


 突き刺すだけ、それだけの行為なのに、とてつもなく怖い。


 クラウンさんの目が怖い。血が怖い。悲鳴が怖い。


 人を殺すのが怖い。罪を犯すのが怖い。


 でも、やらないといけない。


「ない、てる?」

 クラウンさんは薄く見開いた目で言う。

 気づいたら、僕の頬に沢山の涙の筋ができていた。


 クラウンさんは大きくせき込むと、優しく笑いかける。


「こんな、ぼくのために、ないてくれて、ありがとう」

 浅く早い呼吸音が耳にこびり付く。


「そうだ、ぼくは、きみに、ないてほし、かった。ぼくの、ために」

 クラウンさんも涙を流す。


「ありがとう」

 とてもはっきりした声が、胸を締め付ける。


「……クラウンさん」

 僕はクラウンさんを一目見ただけで好きになった理由を思い出す。


 この人はあの時、僕に楽しんでほしいと、心の底から望んで、手品を見せてくれた。


「初めて会った時に見せてくれた手品。とっても、素敵でした。ありがとうございます」

「……ぼくも、きみにみてもらえて、ほんとうに、うれしかった」


 クラウンさんが目を瞑った瞬間、剣を喉へ突き刺す。


 ガスリと骨を削る感触がした。


「クラウンさんは死にました! 降伏してください!」

 腹の底から叫ぶ。




 戦争は終わった。


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