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イースト救出作戦

 エリカ領とブラッド領の国境沿いにある砦で、貴族たちは戦慄する。

「ブラッド領に残っていた兵隊が皆殺しにされた!」

「命からがら逃げ伸びた者の証言ですと、モンスターたちが協力して襲ってきたと」

「馬鹿な! そんなことモンスターテイマーでもできない!」

「オオカミなら未だしも、虫のモンスターは制御が難しい。普通なら共食いをするのに……」

「いったい何者だ!」

 会議室は悲鳴に似た怒鳴り声が響く。


「の、残りの兵は何人だ?」

「10000人です。普通なら十分な人数ですが……」

「あいつらが襲ってきたら……」

 降伏の二文字が頭をよぎる。


「こ、降伏という手段は?」

「無理だ! 私たちは火を放ったんだぞ!」

「それに、反抗する住民も殺してしまった。降伏しても処刑される!」

「お、王妃に直訴して援軍を送ってもらおう!」

「王妃や他の貴族が介入しないように手を回した! どんな言い訳を考える! それにもしも住民の状況を知られたら私たちが危ない!」

 一刻一刻、無駄な時間が過ぎる。


「落ち着いたら」

 そこにクラウンが現れる。


「ほとんどの兵隊はこっちに避難させた。運悪く撤退中を狙われたけど、死者は100人くらいでしょ」

「し、しかし、前回の作戦と合わせると一割が消耗してしまった」


「そんなの覚悟の上でしょ。第一、君たちは無傷。なら計画は上手く行った。違う?」

「た、確かに手はず通り、火をつけてここまで逃げられたが」


「それに、王妃も他の貴族もこちらに援軍を出さない。これはつまり、他からの介入が無くなること。そうなると君たちの悪事もバレない」

 クラウンが仮面を外してにっこり笑う。貴族たちは口ごもる。


「この戦争は持久戦に突入した。モンスターたちは兵隊たちに比べて膨大な食料が必要。それはつまり強固な補給路と補給隊が必要ってこと。彼らはそれを持たない。攻めてきても、ここに着くころにはヘロヘロになってる」

「しかし、相手が補給手段を確保したら?」


「それをさせないために火を放ったんでしょ? 彼らを挑発しておびき寄せる。忘れちゃった?」

 貴族たちは押し黙る。


「ただ、確かに不利。次は僕が戦うよ」

 クラウンはギュッギュと柔軟を始める。


「本当ですか!」

 貴族たちの顔色が途端に良くなる。


「今度は総力戦になるからね」

 クラウンはポケットから大きな布を取り出す。


「種も仕掛けもありません」

 裏表を見せてから、天井に放り投げる。


 布から様々な武器や防具、アイテムが降り注ぐ。


「プレゼント」

 クラウンが微笑むと、貴族たちは急いでアイテムを拾い集める。


「この剣は! 雷神エクシード!」

「このマント! 透明マントよ!」

「凄まじいレアアイテムだ! これだけでいったいいくらするんだ!」

「王の宝物庫でもこれほどの宝は無いだろう……」

 貴族たちはうっとりと宝に見とれる。


 そして一枚の写真を拾うと、凍り付く。


「こ、この絵は!」

 それは、蜂人、蟻人、蜘蛛人、そしてオオカミが牙を向いている写真だった。


「それが君たちの敵。話し合いなんて初めから無理だよ」

 クラウンは鼻歌を歌いながら会議室を出る。


「せっかく作った物をあんな奴らに渡していいの?」

 外で待っていたレビィが聞く。


「良いよ。ジャックの狙いを潰すには戦力強化が必須だからね」

「ジャックは何を狙っているの?」


「秘密。ただ、君と僕が動けば、ジャックの計画をご破算にできるよ」

「なら聞かない」

「そう」

 クラウンは微笑むとゆっくりと歩む。


「ジャックがどうやってこの戦争に勝とうとするかは予想できる。そしてそのためにはゼロ君が率いるモンスター部隊が必要だ」

 クラウンは己の顔に浮かぶゼロの顔を撫でる。


「君は僕が殺せるかな?」




 クラウンが物思いにふけっている頃、万年都ではジャックがイースト救出作戦を発表していた。

「兵隊は砦に集まっている。イーストを救出するチャンスだ! 護衛は手薄だ!」

「だけど、どうやってそこに? 絶対に砦の近くを通るだろ? 見つかってしまう」

 バードが質問する。


「これは赤子とスラ子の手助けがあれば簡単だ」

「その、赤子さんとスラ子に殺させるということですか?」

 ゼロは恐る恐る聞く。


「二人には森の秘薬と超人薬を運んでもらう」

「何のために?」


「状況を整理しよう。私たちはあいつらが立てこもる砦に現状攻め込むことができない。モンスターたちのご飯を運べないからだ。そこで、エリカたちに捕らえられた住民の手を借りる」

「そいつらを脱走させて、砦に攻め込むのか!」

 ザックが手を叩く。


「その通り。モンスターが無理でも人間なら砦まで行ける。超人薬を飲んだ人間なら一瞬で蹴りがつく」

「その、赤子ちゃんとスラ子ちゃんが攻め込めば終わるんじゃ?」

 アマンダが恐る恐る二人を見る。


「それはダメだ。吸血鬼とスライムの始祖が居る。それだけで王妃や他の貴族を敵に回す。そして何より、住民の手で復讐しなければ、終わらない」

「復讐ですか?」

 ゼロがジャックの顔を見る。


「今回の件で、住民たちは蹂躙された。彼らの心は深く傷ついた。自信を失った。だからこそ、自分たちの手で憎い相手に天誅を下したという結果が必要だ! 復讐は己の過去に区切りをつける! 彼らを未来へ歩ませるために! だからイーストも救出する。領主と一緒に憎い敵を殺すことで、この戦いに決着をつける!」


「その、復讐をしなくても、相手を許すことで区切りをつけることができると思います」


 ゼロは熱弁していたジャックを遮る。


「今この場では明後日の方向へ行く発言だが、答えよう」

 ジャックは落ち着いた声色で語り掛ける。


「許すことができない人間も居る」

「ですが……」


「君の意見は否定しない。だから復讐しろとは言わない。しかしそれを他人に強制するのは間違っている。そう思わないか?」

 ゼロは口を閉じて目を瞑る。

 ジャックは皆を見渡す。


「話を戻そう。イーストと住民を救出し、砦を攻める。これは時間との勝負だ」

「俺たちも行くべきか?」


「そんなことは言わない。天井に隠れている君たち! 下りてきなさい」

 天井からイーストの側近である隠密が複数人現れる。


「イーストの隠密だな」

「そうです。リードと申します」


「イーストを救出する。ついて来てくれるな」

「もちろんです。私たちではクラウンたちに勝てない。だから涙を飲んで留まっていました。ですが、この状況なら話は別! ぜひお供を!」


「話は決まりだ。ゼロ、すぐに行動したい」

「分かりました。どうすればいいですか」

 ゼロは無表情でジャックの顔を見る。


「森の秘薬と超人薬をスラ子に持たせてくれ。数はこの紙に書いた。それが終わったら、私たちをエリカの城へ送ってくれ」

「分かりました。赤子さん、スラ子、良いですか?」


「良いぞ」

「良いよ」

 二人はゼロに微笑みかける。


「話は決まった。さあ! 準備開始だ!」


 それから慌ただしくイースト救出作戦の準備が始まる。


 まず森の秘薬と超人薬をスラ子が飲み込む。数百樽あろうと、スラ子にとっては無いも同然だ。


 それが済むといよいよエリカの城へ行く。


「行くぞ」

 赤子は真っ赤な霧で、ゼロ、スラ子、ジャック、そしてリードたち隠密を包む。


「着いたぞ」

 一同が目を開けると、そこはエリカの城の屋上であった!


「瞬間移動! 素晴らしい!」

 ジャックたちが口を半開きにする。赤子は無視してゼロの頭を撫でる。


「置いた」

 スラ子は樽を体内から出すとゼロの傍に行く。


「私たちはイーストと住民を救出しに行く。ゼロたちは万年都に帰って、この通りに動いてくれ」

 ジャックは一枚のメモを渡す。


「……これは……」

「君にしかできないことであり、やってもらわなくてはならないことだ」

 ゼロは苦々しくメモを握りしめる。


「一つ聞かせてください」

「何だ?」

 ゼロとジャックは夕焼けの中、見つめあう。




「こうなる前に、止めることはできたんでしょうか?」

「君が動けば止めることはできただろう」


「僕が? 何をすれば?」

「君はイーストからエリカたちが領主になったことを知った。その時、イーストとともにここへ来れば、ややこしい事態にはならなかっただろう」


「……僕が悪いんですか?」

「イーストが迂闊だった。だから君だけが悪いとは言わない。しかし、エリカたちに危機感を持たなかった君にも責任がある。さらに、もっと言うなら、君が万年都の脅威を貴族たちに伝えておけば、奴らも戦争しようなどとは思わなかった」


「どうやって? 彼女たちが人を殺すところを見せれば良かったんですか?」

「極端だな。怒っているな」


「はい」

「ならば答えを言おう。君はきな子を連れて王都へ行くべきだった。イーストが王都へ呼ばれたときに一緒に行けばよかった」


「見せたらどうなるんですか?」

「戦争をするには悪い相手だと思う。そうやって委縮させる。そうすることで初めて交渉できる。端的に言うと、君は舐められていたのさ」


「馬鹿にされていたということですか」

「そうだ。最もクラウンが居るから、すべて上手く行くとは限らない。だが今よりもずっと状況はマシだった」


「どんな風にマシだったんですか?」

「少なくとも、エリカたちは君と戦うことを嫌がっただろう。万年都を奪おうと思う輩も少なかっただろう」


「……エリカたちが?」

「彼女たちは貴族とクラウンに担がれていただけだ。クラウンは彼女たちに、君がイーストと結託して、彼女たちを陥れたと吹き込んだ。エリカたちは君がどんな力を持っているのか知らなかった。だから君に復讐しようと短絡的に思ってしまった」


「……全部、僕のせいですか?」

「またまた極論だ。そして答えよう。君は悪くない。そもそも悪意を持って行動する奴らが居なければ、何も起こらなかった。君は巻き込まれただけだ」


「なら! どうして! 僕はこんなに辛いんですか!」

 ゼロは夕焼けの中叫ぶ。見回りの兵士が近くに居たら気づかれていただろう。

 そしてジャックは顔色を変えずに答える。


「君は悪意から逃げた。君一人ならそれでも良かった。しかし今は状況が違う。君は万年都の成立者であり、責任者だ。君が逃げれば、他の者を見捨てることになる。それを理解していなかった。最悪の事態を想定して行動する。とても大切なことだ」

 ゼロは俯いて涙を流す。


「君は若いし、性格的に戦いに向いていない。だからこそ、外交や絡めてなど、色々学ぶと良い。そうして、皆を守れ」

「僕は……できる自信がありません」

 ゼロはポツポツと呟く。


「僕は、ミサカズたちにずっと虐められてた。ずっと馬鹿にされてた。ずっと逃げてた。そんな僕がどうして皆を守れるんですか? 僕なんて……」

「それが君の本心か」

 ジャックは子供を叱りつけるように、ゼロを見下ろす。


「君は赤子に血を与えた。スラ子にご飯を用意した。なぜなのか? 初めて二人に会った時のことを思い出せ」

 ジャックは踵を返し、リードたちに言う。


「これから、見張りの兵士を殺す。速やかに済ませた後、イーストたちを救出する」

「承知しました」

 ジャックたちは一斉に屋上から飛び降りる。


 残されたゼロは赤子とスラ子を見る。


「戻りましょう」

「分かった。ゼロ、大丈夫か?」

「苦しい?」

 二人は涙を流すゼロを抱きしめる。


「思い出しただけです。誰が一番大切なのか」

 ゼロは深呼吸する。




「死体を見るのは嫌です。敵でも嫌です。でも、きな子、ハチ子、アリ子、クモ子、バードさん、イーストさんの死体を見るのはもっと嫌です。何より、二人が泣いている姿が嫌です」

 ゼロは二人の涙を拭う。


「万年都は強くなり過ぎてしまった。僕一人の言葉で、きな子たちが人類に牙を向く。そう思ったら怖かったです。だからどんな相手でも仲良く成ろうと思った。自分の言葉に、責任を持ちたくなかった。そうやって逃げていた。だけど、それは間違いだった。僕は、赤子さんとスラ子、きな子、ハチ子、アリ子、クモ子がバードさんたち人間と仲良くする姿を見たかった。そのためには、自分の言葉に責任を持つべきだった。何をしたいのか、考えて動くべきだった。皆のことを考えるべきだった」

 チッと顔を歪ませて舌打ちする。


「エリカたちと仲良くなるなんて無理だって分かってた。でも、赤子さんやスラ子の存在を知られたら、あいつらは怖がる。実は! その姿がすっごく嫌だったんです! 何ていうかミサカズたちみたいに弱い者いじめしているみたいで! しかも僕の力じゃなくて赤子さんとスラ子だのみ! 虎の威を借りる狐! 情けない姿! それが嫌だった。そんな見栄っ張りで、二人にあんな奴らを殺させてしまった。ごめんなさい」

 散々愚痴を言った後、二人に頭を下げる。


「別に良いさ。私はゼロが好きだからな」

「ゼロ、好き」

 スッキリした顔をゼロに微笑む。

 ゼロは力強い目で夕日を睨む。


「行きましょう。ジャックさんの案は時間がかかる。少しでも遅れると、皆が死んでしまう」

「そうか?」

「あいつら、強いよ?」


「クラウンさんが居る。あの人は奇術師。きっとこの策は見破られている」

「ならばすぐに殺しに行こう」

「危険は、無くす!」

 赤子とスラ子が目頭に力を入れる。


「今はジャックさんの案に従いましょう。それにここでクラウンさんを殺してしまうと、怯えた貴族たちが兵隊を連れてここに戻ってきてしまうかもしれません。そうなったらいよいよ収拾がつかなくなります」

 ゼロは首を振る。


「でも、必ずあの人は僕たちの前に立つ。その時は、お願いします」

「任せろ」

「スラ子、強い!」

 二人はグッとガッツポーズする。ゼロは笑う。


「行きましょう」

 ゼロは赤子とスラ子と一緒に、エリカの城から姿を消した。




 それから夕日が沈み、夜になった頃、ジャックたちは地下室に隠れるイーストを発見した。

「イースト様!」

「リード! それにお前たち!」

「みすぼらしい格好だな。領主なのに呆れる」

 ジャックはイーストを見ると憎まれ口を叩く。


「ほら吹きジャック! なぜお前が!」

「お前が情けなくて、仕方ないから助けに来た」

「減らず口は相変わらずだな」

 イーストはジャックの手を掴んで起き上がると、森の秘薬を飲み、状況を聞く。


「軍隊はあの砦に引きこもっているのか」

「あいつらを叩きだすために、ここの領民の力が居る」

 イーストはジャックの案を聞く。


「超人薬か……まさか領民に飲ませる時が来るとは」

「相手は手練れだ。超人薬の力が無ければ勝ち目がない」

「もしも反乱が起きたら厄介だ」

「そうさせないためにお前が居るんだろ? 領主が領民を信じなくてどうする?」

「うるさい奴だ」

 イーストは舌打ちして、皆を見渡す。


「リードはコメットを探してくれ。どこかに囚われているはずだ。残りの者は私とともに領民を救いに行くぞ」

「畏まりました」

「さあ、時間との勝負だ」

 イーストたちはリードと別れ、囚われた領民を探す。


 数時間後、イーストたちは城下の倉庫に押し込められていた領民を発見する。


 続いてリードから地下牢に幽閉されていたコメットを発見したと報告が入る。コメットは暴行されていたが、森の秘薬で回復した。


「あの野郎ども! ぶっ殺してやる!」

 イーストはコメットの様子を見て目を血走らせる。


「皆も殺したいと思っている。抜け駆けは許さん」

 ジャックは領民に森の秘薬を配ることをリードたちに命じる。


「いたい……」

「うう……」

「だれか……この子を助けて」

 領民は痛々しいうめき声を上げていた。しかし森の秘薬を飲むと立ちどころに驚きの声がざわめく。


「な、治った!」

「ああ! 良かった! 良かったよ!」

「信じられない!」

 歓声が少しずつ広まる。


「諸君、存分に喜んでいいのだ。もう見張りは居ない。私たちが殺した」

 ジャックは領民のテンションが高まったところで、良く通る声で語り掛ける。


「ジャック様だ!」

「隣に居るのはイースト様!」

 領民はジャックとイーストに釘付けになる。

 ジャックはそれを確認すると、怒りの籠った声と表情になる。


「諸君! 君たちはなぜこのような目にあったのか分かるか? 彼らがなぜこんなことをしたのか分かるか?」

 領民は息をのんで、ジャックに注目する。


「マリア! 君は分かるか!」

「え!」

 村娘のマリアは、突然名前を呼ばれたことに驚く。なぜ話したことも無いのに名前を知っているのか?


「わ、分かりません」

「君に馬が食べる藁を運ばせるためだ!」

 マリアはジャックが指さす方向を見る。マリアが血豆が出るほど運んだ藁が積まれていた。


「スケール! 君はなぜこんな目にあった!」

「お、俺ですか!」

 村で鍛冶を営んでいたスケールは、目をパチパチさせる。なぜ名前を知っているのか?


「分かりません」

「君にあの下らない紋章を作らせるためだ!」

 スケールはジャックが指さす方向を見る。スケールが嫌々作った紋章が、新品の建物に飾られていた。


「君たちは私が名前を知っていることに驚いただろう! しかし私は驚かない! 何故なら、君たちは私の仲間だ! 同士だ! ならば名前を知っていて当然! ここに居るすべての者の名前を読み上げたって良い!」

 領民たちは驚愕の事実にざわめく。

 ジャックは止まらない。


「だからこそ、君たちがどんな不当な目にあったのかも知っている! 許しがたい行為だ! なぜ鞭を撃つ! なぜ殴る! すべてはこの町を作るためだ!」

 領民の一人が呟く。


「……許せねえ! こんな町を作るために、俺たちは村を追い出されたのか!」

「ここは俺の村だった! それなのに変わっちまった!」

「何で私たちがこんな目に!」

「俺の親父は殺された! あいつらに逆らったから! 畜生!」

 一人が呟けばたちどころに広まる。


「諸君! まずはこの町に私たちの怒りを刻む!」

 ジャックが指を鳴らすと、城や建物が爆発し、木端微塵となる!


「諸君! 怒りは収まったか!」

 粉塵が舞う中、ジャックは拳を振るう。


「もしも収まった者が居たなら、己の体を見ろ! 隣の体を見ろ!」

 領民たちは互いに傷跡を見あう。森の秘薬で完治しているとはいえ、薄っすらと跡がある。


「それでも許せるか!」

 ジャックは問う。


「許せねえ!」

 領民は答える。


「ならば答えを示す! 我が偉大なる領主! イースト様の言葉を!」

 ジャックは叫びながら、イーストの一歩後ろへ下がる。

 イーストは皆を見渡す。


「皆の者。今回は、本当に済まない。私が情けないばかりに、あのような屑を蔓延らせてしまった。だから許してもらうために、君たちと戦う! 戦わせてくれ! もう一度私にチャンスをくれ!」

 隠密たちが目にも止まらぬ速さで超人薬を領民に配る。

 領民は突然現れた超人薬を見つめる。


「それは超人薬! 君たちの傷を治した薬と似た薬! それを飲めば勇者に匹敵する力を持つ!」

「勇者!」

 ざわめきはやがて嵐となる。


「私はあいつらが許せない! だが私だけでは無理だ! だからこそ、君たちの力が欲しい! 超人薬を飲んだ君たちの力が!」

 領民たちは震える手で超人薬を握りしめる。


「今こそ! 反撃の時! 奴らに報いを! 鉄槌を食らわせる!」

 イーストが拳を振り上げると、領民たちは悔し涙を流す。


 ジャックは怒りの笑みを浮かべて、イーストと並ぶ。


「さあ、諸君。聖戦の始まりだ!」

 領民たちの怒りが爆発した。


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