表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/72

戦争、攻勢

 異変に気付いたのは赤子とスラ子だった。

「炎?」

「オオカミの森」

 二人は一緒に眠るゼロを起こさないように呟く。


「炎を放つだと」

 次に気づいたのはきな子だった。不機嫌に眉を顰める。


「ホノオ?」

 ハチ子も見回っていた蜂人から報告を受けて気づく。


「モエル」

 地中に作った巣の中でアリ子も蟻人から報告を受ける。


「ニゲル」

 徘徊していたクモ子は仲間とともに万年都の奥へ避難する。


「煙だ!」

 万年都の一番高い樹で見張りをしていたバードは警鐘を鳴らす。


「何!」

 ついにゼロが飛び起きた。




「オオカミの森で火災が起きた。万年都からとてつもなく離れているから、こっちは安全だ。しかし燃え広がれば、こちらも焼けてしまう可能性がある」

 万年都の会議室で、バードがゼロ、赤子、スラ子、ジャック、ザック、アマンダに慌ただしく説明する。


「火災! 何で!」

 ゼロは耳を塞ぐ。

 バードはゼロの背中を慰めるように撫でる。赤子とスラ子はピタリとゼロに寄り添う。


「あいつら、火を放ったか。予想通りだ」

 対してジャックは全く動じない。


「予想通り?」

 バードが噛みつく。


「森はモンスターの庭。どんな冒険者でも手こずる。だから火を放って更地にする。合理的な手段だ」

「あんた! それが分かってて何もしなかったの!」

 アマンダも噛みつく。


 ジャックは悪びれない。


「守るにも限度がある。オオカミの森は広い。散らばって油と火薬をばら撒かれたら対処できない。これを防ぐにはあいつらをブラッド領からたたき出すしかない」

「ならさっさとやりなさいよ!」


「私はモンスターと会話できない。できるのは、ゼロだけだ。それとも、君たちが農具を持って立ち向かうか? 向こうは戦争の手練れだぞ?」

 バードたちは言葉を失い、沈黙する。


「ゼ、ゼロ?」

 バードが恐る恐るゼロの顔を覗き込む。


「赤子さん、火災を止めてください」

「分かった」

 赤子がパチンと指を鳴らす。


「次は何をすればいいですか?」

 ゼロは顔を上げない。バードたちは何が起きたのかと困惑する。ジャックだけ平然とした態度だった。


「攻勢に出る必要がある」

「きな子やハチ子、アリ子にクモ子に、殺してくれと頼めばいいんですか!」

 ゼロは大粒の涙を流して体を縮こませる。


「その通りだ」

 ジャックは赤子とスラ子に睨まれても顔色を変えない。


「彼女たちに死ねと命じるんですか! 僕たちの都合で!」

「君は勘違いしている。目を逸らしているのか? 森が焼かれた。彼女たちにも危険が及んでいる」

 ゼロは何も言わない。


 そして針のむしろのような沈黙が停滞する。


「きな子とハチ子、アリ子、クモ子に聞いてみます」

「そうしたほうが良い」

 ゼロは顔を上げない。ジャックは悠然と小麦から作った酒を飲んだ。




「なるほど、それは許せない」

 ゼロの話を聞くと、きな子だけでなくオオカミたちも唸る。


「でも、戦いに行くと怪我するかも? それに罠かも?」

「怪我は承知。罠も関係ない」

 きな子の隣でオオカミたちが吼える。


「今回ばかりは私も許せん。あいつらをかみ殺す」

 きな子は怒りに震える目でゼロに言う。


「……分かりました。合図があるまで待っていてください」

 ゼロは硬い笑みできな子たちと別れる。


「君だけの問題では無いのだよ」

 ジャックはゼロの隣で言う。


「分かってます。でも、だったら、何で僕が号令を出さないといけないんですか!」

 拳を握りしめて、歯を食いしばる。


「君しかモンスターと会話できないからだ」

 ジャックは冷酷な真実を淡々と述べる。


「ところで君は、自分が関わらなければモンスターたちが死んでもいいと思っているのかな? 自分が号令をかけなければ死んでも良いと?」

「お願いです。何も言わないでください」

 ゼロはジャックから顔を逸らした。




「テキ!」

 ハチ子はゼロの話を聞くと羽を鳴らす。周りの蜂人も羽を鳴らして怒りを示す。

「僕の合図があるまで、待ってくれる?」

 ゼロはハチ子の顔を撫でる。


「ゼロ、カナシイ?」

 ハチ子は触覚でゼロの顔を撫でる。


「大丈夫。心配してくれてありがとう」

 ゼロはハチ子の顔に抱き着いて、涙を流す。




「イク!」

 アリ子はゼロの話を聞くとガチガチと歯を鳴らす。周りの蟻人も歯を鳴らす。

「僕の合図があるまで待ってね」

 ギュッとアリ子に抱き着く。


「ママ、ナイテル」

 アリ子はゼロの顔を撫でて涙を拭く。


「ごめんね。僕が弱いばっかりに」

 アリ子の頬にキスをして微笑む。




「タベル」

 クモ子はゼロの話を聞くと毛を逆立たせる。周りの蜘蛛人も毛を逆立たせる。

「ちょっと待っててね」

 ギュッとクモ子を抱きしめる。


「ゼロ、オナカスイタ?」

 クモ子は傍にある肉をゼロに手渡す。


「ありがとう!」

 ゼロは肉をかじって笑った。




 きな子たちに話をすると、ゼロはジャックと向き合う。

「君は最前線に出て、モンスターの指揮を執ってもらう」

「僕は戦争のやり方が分かりません」

 ゼロは暗い目でジャックを見る。


「合図するだけで大丈夫だ。これだけでも相手からすると脅威なのだ」

「そうですか」


「私が定めた位置にモンスターを配置させて、合図を出す。敵が逃げたら、そこで追撃は止めだ」

「追い打ちはしなく良いんですね?」


「万年都から離れすぎるとモンスターはご飯を食べられなくなる。補給隊を編成する必要があるが、今の段階では無理だ」

「それが攻勢に出られない理由ですね」


「そうだ。モンスターは強力な戦闘力を持つが、その分ご飯も食べる。虫人やオオカミたちを合わせると、一匹につき一日百食分は必要だろう。それを賄うのは現時点では無理だ。だから万年都から行って帰れる距離に止める」

「分かりました。ある程度追い返したら、きな子たちに追撃を止めるように指示します」


「素晴らしい! 戦いは昼のうちに終わるだろう。終わったらまた話し合おう」

「分かりました」

 ゼロはきな子の背中に乗って、再度ハチ子、アリ子、クモ子と打ち合わせをする。




 一日後、ゼロたちは攻勢の準備を整える。

「ゼロ?」

 スラ子がゼロの震える左手を握る。

「ゼロ」

 赤子がゼロの震える右手を握る。


「ありがとうございます」

 ゼロは青い顔で微笑むと、立ち上がる。そして何度も深呼吸する。


「攻撃開始!」

 ついに反撃の合図が告げられた!


 最初に突っ込んだのはきな子だ。防壁やら落とし穴などの罠を突進だけで粉砕する。


「化け物だ!」

 兵隊たちは突然の脅威に混乱する。その隙に蜘蛛人とオオカミがなだれ込む。


「逃げろ逃げろ!」

 蜘蛛人は人間と同じく手がある。建物の中に隠れてもドアを開けて入ることができる。さらに壁も登れるため窓から入ることができる。パニックになった兵隊たちに逃げ場はない。


「早く走らせろ!」

 待機していた馬車が兵隊たちを乗せて走り出す。残念ながら重い荷物を背負う馬では、オオカミと蜘蛛人の足の速さに勝てない。一瞬で食い殺される。


 さらに追い打ちをかけるように地中から蟻人が現れる。地中からの奇襲に馬は足を止める。その隙に殺される。

 馬車が動かないと分かった兵隊たちは走って逃げだす。しかし蟻人が作った落とし穴にはまり、動けなくなる。これはジャックの指示である。


 残ったのは鎧を装備した騎士だけだ。彼らを破るのは鋭い毒針を持つ蜂人。飛行能力と腕力を駆使されるとなす術もなく捕まる。そして強烈な毒針を腹に受ける。毒針は鎧を貫通して、騎士たちに致命傷を与えた。


「攻撃止め!」

 ゼロの声でオオカミと虫人は死体を食べるのを止める。


「素晴らしい!」

 高台で様子を見ていたジャックは興奮に震える。


「もしかすると君は、神に選ばれた真の勇者か!」

 ジャックは一人でゼロに惜しみない拍手を送る。


「皆でお墓を作ろう」

 ゼロは悲し気な笑みで、死体を見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ