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戦争、防衛戦

 上級冒険者と上級騎士の混合軍が千人、オオカミの森へ武器を構えて突入する。

「オオカミの森か……本当に大丈夫か?」

 中年の兵隊は固い体で武器を構える。


「心配するなって! 報告書を見た限りだと、オオカミが居るだけの森だってよ! 獣相手なら十分対策できている!」

 青年は強力な炎を生み出すアイテムを見せる。


「しかし、心配だぜ。ここは以前、立ち入り禁止地区だった場所だ」

「立ち入り禁止地区にも、それぞれの理由がある」

 眼鏡をかけたインテリ風の青年が笑う。


「立ち入り禁止地区はモンスターが強すぎると設定される。だがもう一つは、貴重な素材が無く、そのくせモンスターが強い場合に設定される。実入りがない場所に入るなってことだ」

「まあ、冒険者の暗黙の了解だからな」


「だけど今度は理由が違う。立ち入り禁止地区から万年樹の森は外された。オオカミの森は今よりも前に立ち入り禁止地区から除外された! これの言っている意味が分かるだろ?」

「難易度は低くなった。もしくは見返りが跳ね上がった」

 怯える中年男性以外の兵隊が笑う。


「心配ない! こうして千人も攻め込んでいる! 危険度が高くても見返りがある!」

「西部戦線の切り込み隊長、クラウンのお墨付きだ。命を懸ける価値はある」

 兵隊の士気は高い。


「しかし……森の中はモンスターの庭だ。警戒したほうが良い」

「心配性だな」

 中年の兵隊を青年は笑う。


「油断大敵だ。そうやって何人の冒険者が死んだか、分かるだろ」

「悪かった。確かに、少しばかり浮かれていた」

 全員の表情が引き締まる。

 丁度その時、オオカミの遠吠えが響き渡る。


「来るぞ!」

 歴戦の兵隊だけあって、すぐに陣形を整える。


「あれか?」

 兵隊たちは数百メートル先のオオカミの大群を見つける。


「何だあの体の大きさは!」

「おいおい! オークやゴブリンを主食にしてんのか!」

 兵隊たちは体を強張らせる。

 同時にオオカミたちが走り寄る。


「#火炎放射__ファイヤー__#!」

 兵隊たちは猛烈な炎をオオカミたちに浴びせる。

 オオカミたちは悲鳴を上げて飛びのく。


「頑丈だ! 普通なら丸焼けなのに!」

 兵隊たちは舌打ちする。


「こいつら、逃げない?」

 インテリ風の青年が顔を曇らせる。

 オオカミたちは炎が届かない位置で吠えたてる。


「こいつら、炎が届く距離を理解している!」

「おいおい! 俺たちよりも頭が良いぞ!」

 兵隊たちは一歩も動けない。


 モンスターは炎を怖がる。それが常識だ。ところがここのオオカミは違う。


 未知の存在と遭遇したため、全身が逃げろと震える。


「森に火を放つか?」

「ここじゃダメだ! 他の奴らが火災に巻き込まれる」

 兵隊たちがよそ見をした隙に、木の上から何十匹ものオオカミが飛び掛かる!


「こ! こいつぎゃが!」

 青年は押し倒された後、喉元を食いちぎられて即死する。


「やめろぉおおおお!」

 インテリ風の青年は腕を噛みつかれて振り回される。そして力負けして転がると、喉元を食い破られる。


「引け引け!」

 鎧で身を固めた騎士たちがオオカミたちと戦う。

 腕や足を鉄の塊で守っているため、噛みつかれても安心だ。また胸や頭も防御しているので鋭い爪もはじき返す。


「素早い!」

 しかし獣の素早さには敵わない。剣を振っても空ぶるばかり。魔法を撃っても味方に当たる。


「逃げろ!」

 中年の兵隊は声を上げて退却する。

 騎士たちも敗北を認めて逃げ去る。


「逃げたか」

 オオカミたちは縄張りから出て行ったことを確認すると、追撃を止めて引き返した。




「し、死者が500人!」

 司令官となる貴族たちは、イーストの城の会議室で頭を抱える。


「負傷者は400人。動ける者は100人足らずです」

「悪夢だ!」

 重苦しい雰囲気が会議室に漂う。


「クラウン様! レビィ様! 出動をお願いします!」

 貴族たちはテーブルの隅っこで、トランプゲームをする二人に声をかける。


「うるさいわね! 今考えているところなの!」

 レビィはじっとクラウンの持つカードを睨む。


「これ!」

「残念。ジョーカー」


「あああ!」

「で、これがハートのエースでしょ」


「ぎゃあ! 負けた!」

 ババ抜きに負けたレビィは机に突っ伏す。


「レビィ様? クラウン様?」

 貴族たちのこめかみがぴくぴく動く。


「聞こえているわ。で、出動はしない! はい、終わり!」

「そんな!」

 貴族たちはいっせいに机を叩く。

 レビィは貴族を無視してトランプを悔し気に握りしめる。

 クラウンは平然と貴族たちを笑う。


「一応、勇者であるエリカたちが殺されたから、僕たちは動ける。だけど、問題が発生してね」

「問題?」


「エリカたちがブラッド領の住民を虐殺した疑いがある」

 クラウンが報告書を放ると、貴族たちの前に綺麗に並ぶ。


「ぎゃ、虐殺……」

 貴族たちの顔色が青くなる。


「エリカたちを勇者から除名するか調査中。もしも本当なら、エリカたちは勇者じゃなくなる。そうなると、私たちは動けないの」

 レビィは冷たく貴族たちに微笑む。


「そして、まさかの展開だけど、調べる途中で、あなたたちが虐殺したと判明したら、あなたたちを粛清しないといけないの。分かるでしょ? 住民は私のパパの物。それを許可なく虐殺するなんて国家反逆罪」

「そんな馬鹿な! 話が違うぞ!」


「そうねえ……なんでこうなっちゃったのかしら? クラウン知ってる?」

「さぁ?」

 クラウンとレビィは馬鹿にするように惚ける。


「ま! そんなことないでしょ! あなたたちがそんな酷いことするわけない! レビィ知ってるもん!」

「すべては万年都に潜む反乱分子の仕業。僕たちはそう思っているよ」

 レビィとクラウンは立ち上がり、貴族たちを見下す。


「頑張って戦いなさい。何百何千死のうと、最終的には勝てばいいのよ」

「もちろん、僕たちも気が向いたら戦うから。それまで頑張って殺し合ってね」

 レビィとクラウンは悠々と会議室から退室する。

 男の貴族たちはレビィの美しく妖艶な尻と太ももに見とれる。

 控えの女の使用人はクラウンの逞しい背中のラインに見とれる。


「あの狂人どもめ!」

 二人が去ると我に返った貴族の一人がテーブルをひっくり返す。


「こうなったら全軍突撃しましょう!」

「ダメだ! これ以上死者が出ると脱走兵が現れる!」

 会議は混迷する。そこで一人が言う。


「森を焼き払いましょう」

「森を焼き払う! 素材まで燃えるぞ!」


「これは挑発が目的です。だからオオカミの森だけ焼きます。火をつけて、すぐに後退しましょう」

「クラウンの予想だと、万年都の化け物たちは平地では戦えない。罠も対応できない。いい考えかもしれないな」


「エリカ領の国境にある砦は完成しました。ここは放棄して、誘い込みましょう。如何です?」

「奴らが得意な森の中で戦うよりも勝ち目はあるか」

 貴族たちの表情が冷酷に歪んでいく。




 それを強力な聴覚で盗み聞ぎしていたレビィとクラウンは、イーストの自室で笑う。

「ついにモンスターたちが切れるわね」

「そしてたくさんの死体が積みあがる」

 クラウンはトランプを一枚壁に投げる。

 トランプはナイフのように壁に突き刺さる。


「もしも、ゼロって子が動いたらどうなるかしら?」

 レビィもトランプを投げる。カードの半分が壁にめり込む。


「吸血鬼とスライムの始祖が動けば、僕たちも含めて一瞬で死ぬね」

「でもゼロって子はやらないんでしょ?」


「切っ掛けが必要なのさ。殺すしかないって状況がね」

 クラウンはトランプを纏めて壁に投げる。


「そうすれば、さすがにゼロ君も切れる。涙を流してね」

 トランプたちは壁にスペードのマークを作っていた。


「難儀な子ね」

 レビィが最後の一枚を投げると、壁はスペードのマークの形に切り抜かれた。


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