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万年都の運動会

 万年都の運動場で、アリ子が立つ。その前にはゼロと町の子供たちが立って居る。

「位置について!」

 合図があるとアリ子とゼロたちは、足元の縄を握る!


「スタート!」

 綱引きが始まる! アリ子対ゼロと100人の子供!


「引っ張れ! 引っ張れ!」

 ゼロは笑顔で子供たちと一緒に綱を引く。

 しかし綱はビクとも動かない。


「ヨイショ。ヨイショ」

「うわ!」

 あっけなくゼロたちはアリ子に敗北する。アリ子は成長し、人間の女性よりも背が高くなった。結果、力も強くなった。


「負けちゃったー」

 子供たちは無邪気に泣き出す。


「頑張った頑張った!」

 ゼロは子供たちを励ましながらアリ子に抱き着く。


「凄いよアリ子!」

「ウレシイ?」


「嬉しい!」

「ヨカッタ」

 アリ子は人間のような笑みを浮かべた。


 進行役のバードとアマンダはそれを見て微笑む。

「モンスターも人間みたいに笑うのね。初めて知ったわ」

「ゼロが居なかったら、永遠に知らなかっただろうな」

 冷たくて美味しい水を一口飲んで、喉を潤す。


「イースト様が戻ったおかげで、万年都は順調に大きくなっている」

「近隣の村からも人が来るようになったわね。やっぱり領主様が居ると違うわ」

 次にオオカミたちのかけっこが始まる。


「それにしても、北部の人たち、大丈夫かしら?」

 アマンダの表情が曇る。バードも難しい顔をする。


「エリカってまだ子供の勇者だろ? 政治なんてできるのか?」

「それもそうだけど、一番心配なのは、北部の人たちはイースト様と離反するなんて、よく決断できたなって」


「と言うと?」

「風の噂だけど、反乱分子はイースト様に抗議するために立ち上がったの。新しい領地を作るためじゃない」


「勇者たちを釈放するな。それが言いたいだけなのにどうして新領地を作る? ……きな臭い感じがするな」

「警戒したほうが良いかしら?」


「避難訓練ぐらいしかできないな。俺たちは戦争のやり方なんて分からないからな」

「攻められたらヤバいかも」


「ハチ子やきな子、何より赤子さんやスラ子が居るから、簡単には攻めてこれないと思う」

「なら、安心?」


「ゼロが悲しむ。あいつは争いが嫌いだ。もしかすると、クラウンって野郎はそれも計算に入れて、クラスメイトのエリカを領主にしたのかも」

 バードとアマンダは皆を応援するゼロに視線を向ける。


「あの子は良い子。皆と仲良くしたいだけ。それなのにどうして争いに巻き込まれるのかしら?」

「いい子だからかもしれない」

 バードは寂しそうに、元気なゼロを見つめる。


「良い子ってのはどうしても、隙だらけになっちまうからな」




 ゼロが万年都で運動会をしている頃、イーストは王都の審問会で舌打ちしていた。

「つまり、私が領主になるのは当然のことで!」

 豪勢なドレスを着たエリカの演説に吐き気を覚えていた。


「批判するならカンペ見ないで言え!」

 イーストは何度も毒づく。


 エリカは手元にあるカンペを何度も何度も見ながら弁論する。その後ろで貴族風の男たちが笑みを作る。

「イースト様、エリカの後ろに居る奴らの素性が分かりました」

 イーストの背後で、姿を消したコメットが小声で話しかける。


「誰だ?」

「西部戦線を支援する10万(ハンドレドサウザンド)貴族(ロード)です」


「西部戦線となると、やはりレビィたちが一枚かんでいるな」

「しかし、ならばなぜレビィたちはここに参加していないのでしょうか?」

 イーストとコメットは静かにレビィとクラウンの姿を探す。


「おそらく、ゼロに吸血鬼とスライムの始祖が居ることに気づいた。だから様子見に転じた」

「ならばエリカたちを引き揚げさせるのでは?」


「本質は戦闘狂だ。狂った奴の考えることなど理解したくない」

 イーストは弁護の番になったので席を立ち、壇上に上がる。


「没落貴族だ。どんな面でここに来た」

 ひそひそとイーストを中傷する声が響く。


「私の言い分を聞いて欲しい」

 それからイーストは理由を説明する。


「無能が言い訳をしていやがる」

 中傷は激しくなるばかりだ。


「ぶっ殺してやるわ! ゼロと一緒にお前たちを地獄に送ってやる!」

 エリカはイーストが喋る間、ずっと呪詛を呟く。


「エリカの奴、ゼロの事を知っている? クラウンの奴が喋ったのか? 何のために?」

 イーストは中傷を受けながらも耳を研ぎ澄ます。中傷の中に必ず手がかりがあると信じて。


「恥知らず」

「無能が喋るな」

 耳に届くのはニタニタと心を抉る悪口。それでも耳を研ぎ澄ます。


「反乱分子を捕らえた?」

 イーストはエリカとその仲間の貴族が発した言葉を聞き逃さなかった。


「どうやら、北部へ潜入する必要があるな」

 イーストは中傷を受ける中、次にやるべきことを定める。


「ブラッド・イーストから100万貴族(ミリオンロード)の地位をはく奪する!」

 それと同時に採決が決まる。


「上等だ。まだ俺には手がある!」

 イーストは100万貴族(ミリオンロード)の証をテーブルに叩きつけると即座に外へ出る。

 騎士の制止など聞かない。

 そして外へ出ると即座にエリカ領へ駆けだす。


「よろしいのですか?」

「あの審問会は俺から地位をはく奪するためだけに開かれたものだ。地位をはく奪されたら拘束される言われはない」

 コメットとともに走る。


「それよりも、エリカ領は必ず爆弾を抱えているはずだ。それを暴けば、こちらに勝機がある」

「承知しました!」

 イーストとコメットは、クラウンとエリカの弱みを見つけるために、昼夜を問わず走り続けた。


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