ブラッド領北部の状況
王都にある真っ白で豪華な城の一室で、クラウンはトランプタワーを組み立てる。
「あら、あんたに顔があるなんて久しぶりね」
その最中にアトランタ国第一王女のアトランタ・レビィが現れる。
「良い顔だろ」
「ガキ過ぎる。あんたの体形じゃ似合わないわよ」
レビィが鼻で笑うと、クラウンは自分の顔を揉む。
見る見ると顔立ちが大人っぽくなる。
「これでどう?」
「最高のイケメン! 誰の顔!」
レビィは前のめりになってマジマジと目を輝かせる。
「ゼロ君の顔だよ」
「ゼロ? 誰?」
「吸血鬼の始祖とスライムの始祖と友たちになった子」
「始祖?」
レビィの顔つきが変わる。
「報告書を見て」
レビィはクラウンが用意した報告書を見る。
「……なるほど、超人薬の作成に関わった人物で、あらゆるモンスターを仲間にする、モンスターテイマー」
「始祖すらも配下に置くんだから凄い奴だよ。そのくせ攻め込む気配は無し。超厄介」
クラウンはトランプタワーを崩すと、再度作り直す。
「あなたの直感で良いんだけど、始祖に勝てそう?」
「ダメ。僕も君も殺される。というか本気出されたらこの世界が終わる」
「えぇええええ! じゃあせっかくイーストと戦争しようと思ったのにできないの!」
「イーストちゃんはゼロ君と仲良しだからね。喧嘩しないほうが良いよ」
「ああぁああ! 戦争したいのに! どうしてこうなっちゃったの!」
「僕たちが弱いから!」
クラウンが笑うと、レビィは床にゴロゴロと転がる。
「でも、戦争したいなら付き合うよ。始祖に殺されるってのも悪くはない」
「んー。勝つか負けるかの戦争ならしたいけど、一方的にぶっ殺されるのは嫌」
「じゃあ、しばらくは諦めよう」
十階建てのトランプタワーが完成する。
「ああ……始祖が居るなら、エリカたちを止めないと」
レビィはテーブルに力なく突っ伏す。
「もう遅いよ。エリカとあいつらは欲が深い。君の命令でも聞かない。最も、エリカたちを皆殺しにするなら解決するけど」
トランプタワーを指で押す。
「私は戦闘狂だけど殺人狂じゃないの。それにエリカたちを皆殺しにしても詰まらない。あいつら嫌いだし」
「さすが。僕と同じく戦闘狂で、変人なだけあるね」
バラバラとトランプの雨が降る。
「でも言葉で止めるってのも面倒! 許可したことを撤回するのって基本無理!」
「まあね。それに、僕たちが止めても、どうせ他の奴が動き出す」
クラウンは作成した秘密文書の一枚を眺める。
「待てよ? 吸血鬼とスライムの始祖! 万年都に居るって発表すれば魔軍と共同で万年都に攻め込めるじゃない! あれ! そっちのほうがワクワクする!」
突然レビィは満面の笑みを浮かべる。
「いい考えだけど、それは待って欲しい」
「何で? 始祖が居るんだから堂々と万年都に世界大戦申し込めるんだよ? 楽しいわよ?」
「あそこにはゼロが居る」
クラウンが手をかざすと、床に散らばるトランプが一人でに手に収まる。
「僕らしくないけど、応援したいんだよね」
鏡を取り出すと己の顔を映す。
「じゃあエリカたちは放って置いて、ゼロに協力するの?」
「まさか! それは詰まらない」
ペロリと唇を舐める。
「彼が僕と同じく狂気に染まった時、どんな顔をするのか見てみたい」
「それ、素直になれない恋人の思考じゃない?」
「僕はゼロが大好きだからね」
クラウンとレビィは向き合ってクツクツと笑い合った。
一方ゼロはイーストの城の会議室に居た。
「まずは良い知らせだ。エリカたちはここを立ち去った」
参加者はゼロ、イースト、コメット、ボンド、バード、そして赤子とスラ子だ。
「次に悪い知らせだ。我が領地、ブラッド領の北部が俺に反旗を翻した。今はエリカ領となっている。理由は、エリカがそこを収める貴族となったからだ」
「あの、突然の展開で頭がついて行かないのですが」
ゼロは頭を抱えながら手を上げる。
「経緯はこうだ。冒険者たちが反乱分子になったことを覚えているな。そしてエリカたちが釈放され、騒動は北部まで飛び火した。結果、北部は内乱状態だった。そこにクラウンが要らんことに離反を認めた」
「つまり、イーストさんを嫌った人たちが北部に集まった。クラウンさんが彼らの離反を認めた。その結果新たな領地ができた。何となく過程は分かりましたけど、なぜエリカが? あいつは領民に嫌われているでしょう?」
「おそらく、クラウンに担ぎ上げられたかと」
「クラウンさんが領主になってくれって? それでも領民は認めないと思いますよ?」
「現状その理由が分からない。ただ、予想だがクラウンやレビィと手を組む貴族が絡んでいる」
「貴族が?」
「かなり複雑で、情報が足りない。だから俺の予想だと頭に置いてくれ。レビィたちは俺と戦争をしたい。だが戦争となると理由が必要だ。傲慢なレビィでも、#100万貴族__ミリオンロード__#の俺に喧嘩を売るのは難しい。だから理由を作った。俺には#100万貴族__ミリオンロード__#の資格は無いと」
「反乱を抑えられない人は貴族の資格が無いと?」
「そういうことだ。そして俺は、そんなこと無いと嫌がる。それを口実に火ぶたを切るつもりだった」
「クラウンさんが離反を認めた理由は、イーストさんに力が無いと示すためだった? そしてごねたら、それを理由に戦争をする? よく分からないですけど、さらに分からないのが、なぜ貴族が?」
「あいつらは森の秘薬が欲しい。そうなると俺が邪魔だ。結果的に、レビィたちと利害が合致した」
「話し合えば良いだけだと思うけど? ……前に狙われていると聞きましたから、何も言いませんけど。なら、どうしてエリカを? 貴族の人を認めたほうが良いような?」
「俺の説明が悪いから、納得してもらえるか分からないが……俺もそこが引っかかるところだが……あえて言うなら、エリカの特権だ」
「エリカの特権? 勇者の特権の事ですか?」
「エリカたちは俺よりも立場は上だ。そうなると文句が言えない」
「うーん。まだ分からないな。そんなことしなくても、話し合えば良いだけですよね? 薬ですよ? 分け合えば良いだけだと思うけど?」
「お前の言いたいことは分かるが、政治的な問題だ。そしてお前の嫌いな欲望と悪意の渦巻く世界だ」
「……分かりました。全然納得できないし、納得もしたくないですけど」
「不機嫌になるな。ただの予想だ。考えすぎるな」
「不機嫌になってません! 最後に、領民はどうしてエリカを認めているんですか? 絶対に嫌がると思うんですけど?」
「全く分からん」
ゼロは苦虫を嚙み潰したように思う。
イーストさんたちと一緒に腕を組んで唸る。
感想は、とてつもなく嫌なことが起きている。
特に、エリカが領主になったことが不気味だ。
「……いや、仲良くなるチャンスかも?」
発想を変えると、エリカたちは領主に選ばれるくらいの逸材になった。ならばもう、虐めとかそんな粗末なことはしない、立派な人格者になっているはずだ。
挨拶したほうが良いかもしれない。
「これらはあくまでも予想だ。今は事実にどう対応するか。それだけだ」
イーストさんが手を叩くと、目が覚める。
「俺は王都へ向かい、直訴してくる。それで相手がどんな対応をするか確認する」
「もしも、イーストさんの言い分を認めなかったら?」
「そうなったら口八丁手八丁でごねるしかない。残念だが、主導権は向こうにある」
「形勢はイーストさんが不利か」
慣れないことに頭を使ったせいか、貧乏ゆすりをしてしまう。
「僕に何かできることはありますか?」
「気持ちだけ受け取る。これは政治の問題だから、複雑すぎて俺ですらどうなるか分からない。だから、大人しく待っていてくれ。くれぐれも! エリカたちに会おうとか考えるなよ。奴らは現時点では敵なのだ」
「……分かりました」
深々とため息を吐くと、イーストさんは笑う。
「俺はもう#100万貴族__ミリオンロード__#に興味は無い。もしも戦争になりそうだったら、すぐにここを明け渡す。そしてお前の万年都でコメットと一緒に暮らす。だから、まずは万年都のことを考えてくれ。よろしいかな、我が君」
「止めてください!」
プン! と怒ると、イーストさんたちに笑われた!
「では、俺とコメットはすぐに王都へ行く。留守はよろしくな」
イーストさんとコメットさんはにっこり笑うと、部屋から出て行った。
「ま、俺たちはマイペースに、俺たちでできることをやろうぜ」
パシンとバードさんに背中を叩かれる。
「できることですか」
「そうそう! お前がやりたいことだ」
それを思い出すと笑顔が出る!
「モンスターと人間! 皆で一緒に運動会をしましょう!」
「祭りだ! さあ! 楽しむぞ!」




