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食料調達

「赤子さんは今までどうしていたんですか?」

 通路の壁を背もたれにして座る。


「ずっと寝ていたが、下等生物が喧しくなって起きた」

 赤子さんは目の前に座ってじっと見つめて来る。多分、スラ子が誕生したときに起きたんだ。


「そいつの頭を撫でるのはなぜだ?」

 スラ子の頭を撫でていると首をかしげられる。そしてクリクリとスラ子ではなく僕の頭を撫でる。


「楽しいな!」

 そのままグリグリと撫で続ける。


「えっと、とりあえず外に出ましょう! 服とか買いたいし!」

 不必要な道具を売り払えば羽織る物くらい買えるはず。それを赤子さんに着てもらう。

 そうしないと目のやり場に困る!


「服? これか?」

 赤子さんは上着を脱ぐ。


「脱いじゃダメです!」

「なぜだ?」


「僕が恥ずかしいんです!」

「そうか。お前が言うのなら仕方がない」

 赤子さんは不服そうに上着を着る。


「その、赤子さんって人間とか知ってます?」

 ふと疑問に思ったので聞いてみる。


「下等生物の事だ」

 赤子さんは当然という表情で答える。


「僕も人間なんです。赤子さんが言う下等生物なんです」

「何だと?」

 赤子さんが顔を近づけてクンクンと臭いを嗅ぐ。


「言われると確かに人間に近いな」

 驚いた表情の赤子さんに突然申し訳なさを感じる。


「その、僕は赤子さんと同等の存在じゃありません。ただの下等生物です」

「それは違う。お前は私の言葉が分かる。下等生物ではない」

 赤子さんはバッサリと否定する。


「しかし、ゼロは人間として生活していたのか」

 感傷したように呟く。


「分かった! お前が人間と同じ生活をしていたのならそれに合わせるべきだ!」

 赤子さんは服を脱ぐ! そして影から真っ黒なドレスを取り出し、羽織る。


「これならお前も満足するだろう?」

「ええ、綺麗です」

 美しさに見とれる。


「綺麗? 褒めているのだな?」

「そうです!」

「そうか! 綺麗か!」

 赤子さんはやんわりと微笑む。


「何かあればその都度教えろ。合わせてやる」

「良いんですか?」

「私はお前に嫌な思いをしてもらいたくないからな」

 頬を撫でられると体が熱くなる。


「ゼロ?」

 突然スラ子がうねうねと暴れる!


「ゼロ? ゼロ? ゼロ?」

「どうしたのスラ子?」

 頭を撫でるとすぐに落ち着く。


「ゼロ」

 顔を作ってすり寄る。ネコみたいだ。


「ふーむ」

 赤子さんが顔を険しくさせる。


「そう言えば、人間は馬や犬と生活していた。それと同じか」

 ため息を吐くと腕と腕を絡める。


「そいつに構うのも良いが、私を忘れるなよ?」

「わ、分かってます」

 笑みが出ると赤子さんも笑う。


 その時、お腹が鳴った。


「お腹空いた」

 お腹を手で押さえる。小食で一日一食でも過ごせるくらいだけど、さすがにお腹が空いて喉も乾いた。


「腹が減ったか」

 赤子さんはスッと立ち上がる。


「確か、肉を食うんだな?」

「そうです」


「付いてこい。肉を食わせてやろう」

 赤子さんが歩き出したので慌てて後に続く。




「赤子さん? どこに行くんですか?」

 上り階段を見つけると不安になる。


「地上だ。肉は迷宮にないからな」

 考えれば当たり前のことだっただけに、足が竦む。


「どうした?」

「さっき、迷宮にクラスメイトが着ていたのを思い出して」


「クラスメイト?」

「敵です」

 はっきりと言う。あいつらに見つかったら殺される。


「敵か。ならば私に任せておけ」

「危ないですよ!」


「そう怯えるな」

 赤子さんは余裕な態度で頭を撫でる。


「敵」

 半面スラ子は警戒心を増す。




「もう居ないみたい」

 出口まで近づくとため息が出る。


「肉が居るな」

 赤子さんは夕焼けに染まる迷宮の外へ出る。


「何だあいつ?」

 迷宮の外で何かを調べていた冒険者たちが赤子さんを見る。


「私の口に合わん奴らだが、ゼロなら食べられるだろう」

 冒険者たちが音もなくバラバラになる。


「ゼロ。飯が取れたぞ」

 赤子さんが転がる冒険者の頭を掴んでみせると、胃の中の物を吐き出した。




「これで全員……」

 死んでしまった人たちのお墓を作り、遺品をそれぞれのお墓の上に乗せ終わったところでため息を吐く。

 日は沈んだけど、赤子さんが作った光の玉のおかげで手元は明るい。


「すまなかった」

 先ほどから赤子さんの元気がない。


「人間は共食いをしない。思い出すべきだった」

 考えがずれているけど、謝っているから気にしない。


「もう良いんです。これから気を付ければいいですから」

 赤子さんとは別に、気落ちしているスラ子の頭を撫でる。

 スラ子は死体を食べようとした。それを叱ったら、すっかり元気を無くしてしまった。


「スラ子、人間は食べないで」

「人間は食べない」


「そう。いい子だ」

 スラ子を抱きしめると涙が出る。


 赤子さんもスラ子も人間とは違う。だから殺しても責められない。


 それでも僕は二人に殺してほしくない。

 そして一緒に居たい。

 寂しいのは嫌だ。


「あの……僕はこんな風に我儘です。それでも一緒に居てくれますか?」

 手を差し出す。振り払われたら、仕方がない。


「もちろんだ」

 赤子さんは快く手を握り返す。


「スラ子も良い? 僕と一緒に居て大丈夫?」

「大丈夫」

 スラ子は恐る恐るという感じに手を握る。


「ありがとう」

 深呼吸して体を見る。お墓を作ったため、体が血や泥で汚れている。


「この惨状を見れば、冒険者が調査で押し寄せる でも雨風しのげる場所を探すのも一苦労だし」

 少し悩む。だが結論はダンジョンを離れたほうが危険だ。ダンジョンの奥へ逃げ込めば、冒険者も簡単には来れないはず。


「赤子さん、水を出せますか?」

「出せるぞ」

 ドドッと滝のように水が手のひらから溢れる。


「ありがとうございます」

「ふむ? 喜んだのなら良い」

 赤子さんは不思議そうな顔をする。それが少し可笑しくて笑みが出る。


「これ、いただきます」

 遺品から携帯食料を抜き取る。本来はダメだけど、許して欲しい。


「ご飯は取れました。戻りましょう」

 ダンジョンへ戻るとスラ子と赤子さんも付いてくる。


「ゼロ、私はお前のことを知らない。教えてくれ」

 並んで歩く赤子さんが呟く。


「分かりました! スラ子もね」

 スラ子に微笑みかける。


「スラ子も」

 二パッと太陽のような笑顔を見せてくれた。


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