グランドの助言
夢の中で星空を見上げる。
「前よりも、スッキリした顔だ」
隣にグランドさんが立って居た。
「お久しぶりです。会えて嬉しいです」
偶然とはいえ、心強い人とまた会えた! 喜んで握手をする!
「悩み事か?」
グランドさんは照れたように地面に座る。
「実は……」
グランドさんの正面で正座して、悩みを打ち明ける。
「視野が狭くなっているな」
グランドさんは両手で視野が狭まっている動作をする。
「視野が狭いですか?」
グランドさんの動きを真似てみる。
「何事も、作り直すのは非常に難しい」
グランドさんは積み木をどこからともなく取り出す。
「何もない状態で積み木を組み立てるのは簡単だ」
カチャカチャと積み木を組み立てて、綺麗なお城を作る。凄い技術だ。
そして出来上がるとコツンと中心を叩いてガラガラと崩す。
「まずは崩れた積み木を取り出してみろ。ただし、周りの城壁とかは壊すな」
「わ、分かりました」
壊れた部分の積み木を拾う。取り出すときに手や積み木が周りに当たらないように注意すると、思った以上に神経を使う。
「できました」
それでも何とか積み木を拾い集める。額の汗を手の甲で拭う。
「直してみろ。もちろん、周りは崩すな」
「は、はい」
積み木を元の位置に重ねていく。緊張で指が震える。
「大丈夫か」
「ちょ、ちょっと無理です!」
積み木が滑って周りに当たる。全部壊れてしまった。
「お前とイーストがやろうとしているのはそれと同じことだ」
グランドさんは全ての積み木を取り払うと、再度精巧に組み立てなおす。
「壊れたのなら、別の場所に立て直したほうが早い」
グランドさんの言いたいことは分かった。
「つまり、僕は敢えて難しいことをやろうとしていると?」
グランドさんは微笑みながら頷く。
「でも、万年樹の森は特別です。あんな大きな樹が育つ場所なんてありませんよ?」
「視野が狭いとはそのことだ」
グランドさんにポンポンと頭を撫でられる。
「バードやアマンダ、ザックといった市民とともに万年樹の森の北西に行ってみると良い」
「北西ですか? あそこらへんは雑草が生い茂るだけの草原ですよ?」
「それもまた視野が狭いと言う」
優しく諭すような物言いは何て心強いのだろう。
「分かりました! バードさんたちと一緒に行ってみます!」
今は手詰まりだ。ならダメでも何でもやってみるしかない!
「よろしい」
グランドさんは立ち上がると背を向ける。またどこかへ行ってしまうのか。
「どこかで会いましたよね?」
寂しさを込めて尋ねる。
「俺のことなど気にするな。今は自分の事だけ考えろ」
背中を向けたまま返事をする。
ピタリと足を止める。
「……これを渡して置こう」
グランドさんは振り返ると何か投げたのでキャッチする。
ネックレスだった。
「これは何ですか?」
グランドさんの姿は無かった。
目の前にはいつもと変わらない天井が広がる。
「……北西か」
目を覚ますとグランドさんの言葉を忘れないように復唱し、手のひらで輝くネックレスを首にかける。
「……夢だけど、グランドさんは夢じゃない」
ネックレスはグランドさんがどこかに居るお爺ちゃんであることを物語っていた。
「何の騒ぎ?」
きな子の背中に乗って町へ行くと、ざわざわと人だかりが見える。
「ゼロ! 久しぶりだな!」
きな子から下りて町の中に入ろうとすると、バードさんと出会う。
「久しぶりです! この騒ぎは何ですか?」
「……勇者たちが釈放されようとしている」
バードさんは苦虫を嚙み潰したような表情になる。
「エリカたちが!」
昨日の今日だ。さすがに信じられない。
反省したとイーストさんに認められたのだろうか?
「どうも王都から使者が来たらしい。そんで、牢獄はやり過ぎだから釈放しろと」
「ええ!」
「俺自身分からねえ。勇者討伐は王都が許可したことなのに」
難しい顔でお城を睨む。
「……イーストさんに会えますか?」
会って事情を聞きたい。しかしバードさんは首を振る。
「今は止めと居たほうが良い。万年樹の森の件で師匠と揉めてるし、勇者釈放で使者と滅茶苦茶揉めてる。それに反乱分子が再び活動を始めた。今度は勇者の被害にあった村々も巻き込んでデモ行進をやってる。それらの対応で火の車だ」
「い、いきなり騒がしくなりましたね」
バードさんは疲れ切った顔でため息を吐く。
「もしかすると、王都は森の秘薬を奪うために来たのかもしれない」
「森の秘薬を?」
「あくまでも予想だが、この手のひら返しは、勇者の釈放を止めさせる代わりに森の秘薬を寄越せという交換条件かもしれない」
「な、なんでそんなことを?」
「あくまでも予想だ。確実なのは、勇者が釈放されようとしていて、それに反発する人々が反乱分子へ変わって行っているってこと」
バードさんに頭を撫でられる。
「ま! お前には関係ないことだ。この騒動も勝手に収まる」
「でも……反省していないエリカたちが外に出るのは心配です」
「心配したってしょうがねえよ。それより、何か用事があったんじゃないか?」
そうだ! エリカたちやイーストさんの行動は気がかりだけど、今の僕にはやるべきことがある!
「一緒に万年樹の森へ行って欲しいんです」
「万年樹の森に?」
夢で聞いたなどとややこしいことは伝えず、簡潔にやって欲しいことだけを伝える。
「俺だけじゃなくアマンダたちもか」
「何か分かるかもしれないんです」
「良いぜ。お前には恩があるからな。皆に話しを付けて来る」
「ありがとうございます!」
「良いってことよ! 親友だろ!」
バシバシと背中を叩かれる。人懐っこい笑顔には本当に敵わない。
「おお! まさか森の主の背中に乗れるとは!」
「私はそれ以上に万年樹の森へ行けることが驚きだ」
「大きいわね! ……今度は悪いことしないから大丈夫よ!」
森の前でバードさんたちをきな子の背中に乗せる。皆興奮気味で楽しそうだ。
「皆さん! 走りますから捕まってください!」
全員ががっしりと背中に抱き着いたことを確認する。
「きな子、急いで万年樹の森の北西へ」
「分かった」
一気にきな子が加速する!
「イーストさん……頑張ってください」
大変な思いをしているイーストさんにせめてもの応援の言葉を残す。
イーストさんが頑張っているのだから、僕も頑張ろう!




