勇者騒動終結
エリカ一派は、サカモトやミサカズたちについて行けなくなった男女の寄せ集めである。このため、サカモト、ミサカズに比べれば大人しい一派であった。
「この世界の人たちって馬鹿ばっか。奴隷に甘んじて何にも考えないんだから」
しかし、品行方正という訳ではない。
目に余るのが、勇者という地位を使い、強制的に農作業を止めさせ、数学などの教育を強制することだ。
「大丈夫! 勉強して自分で考えるようになれば幸せになるから! 奴隷なんて受け入れちゃダメ!」
満面の笑みで語るのは良いが、それは社会全体が変化しなければ実現できないことである。
そもそも部外者であるエリカの言葉を歓迎する人は居ない。
それでも仕方ないので学ぶが、足し算引き算ができればそれで生活できる環境で高等教育を持ちだされても理解できない。
「は! こんなのも理解できないの!」
エリカは字も書けない人々を罵った。
「でも大丈夫! 勉強すればいいだけだから! そうすれば幸せになれるから!」
エリカは恐らく善意で人々に接していた。だが感謝されなければ善意に意味など無い。
「何で皆私に感謝しないの! あり得ない! 馬鹿ばっか! 自主勉強もしないのに文句ばっかり!」
エリカは嫌がる人々を嫌悪した。
「はは! 何あの顔! ボールみたい!」
そしてサカモトやミサカズに打ちのめされる人々を笑った。
「助けて……助けて……」
彼女たちはサカモト一派とミサカズ一派の死体の前で震える。
「なぜお前たちを呼んだか分かっているな?」
イーストは村の教会の前で仁王立ちする。
「わ、私は何もしてない! そいつらが勝手にやったの!」
唾をまき散らすその姿は美少女とは思えない。
「なぜ止めなかった?」
「へ?」
エリカはイーストの問いにマヌケな返事をする。
「お前は良く言っていただろ。皆で力を合わせると。ならばどうして仲間を止めなかった? こうなることなど予想できただろ?」
「だからそいつらが勝手にやったの! 話聞いてないの!」
エリカは地団駄を踏む。
「動くな!」
隠密の一人がエリカの腕を取る。エリカは腕を締め上げられるとボロボロと涙を流す。
「お前たちは自分に全く非がないと思っているようだが、私たちは知っている。ミサカズたちの行いを笑ってみていただろ? 本来なら殺されても仕方がないと思うが?」
「ば、馬鹿じゃないの! 何の証拠があるの!」
エリカは泣いているのに叫び続ける。
「証拠? 村の人々に聞いてみるか?」
ギロリと瞳で心臓を射抜くと、エリカは崩れ落ちる。
「城に戻って一人一人の罪を読み上げてやろう。全員、心当たりはある」
ガスンと足で地面を鳴らすと、全員の体が震える。
「あまりこの世界を舐めるなよ? お前たちの行動は逐次監視していた」
全員言葉を失う。
「殺しはしない。だが城の地下牢で、身の振り方を考えるんだな」
イーストが騎士に顎で合図する。騎士たちは三人がかりで勇者たちを捕縛する。
勇者騒動はここで終結した。
「超人薬の効果は素晴らしいですね」
馬車で城へ向かう中、女の隠密、コメットが拳を握りしめると、他の隠密も拳を握りしめる。
「本来、勇者たちを殺すのは時間がかかる。毒を盛ったり、酒に酔わせたり。それがまさか真っ向から捻り殺せるとは」
歴戦の暗殺者たちは体を震わせる。
「ゼロはこの国に革命をもたらす」
イーストは幌の隙間から外を眺める。
「革命ですか?」
隠密たちはイーストへ顔を向ける。
「立ち入り禁止区域は万年樹の森以外にもたくさんある。ゼロならそこから未知の素材を手に入れることができる」
「すると、超人薬よりも素晴らしい力や技術が手に入る?」
隠密たちは息を飲む。
「問題なのが、私たちがゼロに依存してしまうことだ。革命とはその名の通り、ゼロは王になれる力を持っている」
気持ちを落ち着けるため、ワインを開ける。そして隠密たちのコップに注いでいく。
「とりあえず、帰ったらゼロに今回の騒動を報告する。お前たちも顔を出せ。礼儀正しくな」
「よろしいのですか!」
「クラスメイトの死は遅かれ早かれあいつの耳に入る。もしも隠せば、俺たちが隠していたことに不信感を覚える」
「しかし、敵対したとはいえ、旧友が死んだとなれば動揺するのでは?」
「動揺はするが、俺たちを恨むことは無い。何度もあいつと話したから分かる」
イーストがグッとワインを飲み干す。隠密も続けてワインを飲み干す。
「超人薬に関しては、お茶を濁したほうが良いかもしれんが」
「なぜですか?」
「あいつは、争いが嫌いだ。理由に関わらず、争いの道具を作ることに反対する」
「しかし、それでは私たちの未来が!」
「もちろん、最終的には納得してもらう。しかし今はダメだ。肝心な万年樹の森が死んでいる。話は再建が済んでからで十分だ」
深々とため息を吐く。
納得しなかった場合のことを考えているのだろうか?
「イースト様。もしもの話ですが、ゼロがこちらに不都合となる場合は?」
暗殺者たちが目を光らせる!
「まだ結論は出ていない。それに俺はあいつと敵対したくない。あいつはいい子だ」
イーストは空のコップを見つめる。
「ゼロ……私はお前が好きだ。素直で優しい子だ」
寂しげな声が馬車に響く。
「だが私はこの国を守る領主の一人だ。右手で握手をしながらも、左手にナイフを握りしめなくてはならない。それがたとえ、お前でも……」
イーストの頬に涙が流れた。
「こんな私を……許してくれ」
一方、ゼロはボンドの報告に頭を抱えていた。
「このままでは再生できない」
ボンドがため息を吐くと、ゼロもため息を吐く。
「理由を纏めたメモをください。今日一日、考えてみます」
ゼロはボンドからメモを受け取ると、ダンジョンへ帰る。
「人手不足か」




