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きな子の危機

 魔人二人を倒した後、まだまだ魔軍の気配がするとのことでスラ子と赤子さんが討伐に乗り出した。決着は一瞬で着いたが、多数の森の生き物が殺されていた。

 何度も煮え湯を飲まされたためか、魔軍はきな子と万年樹の森を破壊するつもりだったようだ。


「全く、私を殺すだけでなく、万年樹の森を焼き尽くすとは」

 万年樹の森は不死鳥の魔人によって焼き尽くされた。炎は赤子さんが指を鳴らすと一瞬で消えたが、痛々しい焼け跡はしっかりと残っている。

「森は死んだ。私も終わりだな」

 きな子の背中に乗って見回っていると、諦めたように言う。


「突然どうしたの?」

 落ち着けるために背中を撫でる。


「私は万年樹の森の生き物や樹液を食べていた。他の森の生き物では小さすぎるからだ」

「じゃあ、このままだと食べ物がない!」

 魔人はきな子にしっかりと傷跡を残していた。


「どうにかならないかな?」

「そう考え込むな。どんな生物も死ぬ。これは私も変わらない」

「でも! それだと悲しいよ……」

 きな子は何も言ってくれなかった。


「イーストさんに相談しないと」

 きな子を死なせたくない! だけど僕には策が思いつかない。

 だからこそ、人の手を借りないと。




「昔から何度も万年樹の森で魔人が出現していたのか……移動方法はおそらく瞬間移動……厄介だが、術者が死んだのなら良しとするか」

 すべて報告するとイーストさんは顎を撫でて考える。


「とにかく、万年樹の森へ行かないと何も言えない。連れて行ってくれ」

「分かりました!」

 イーストさんは僕を信用してくれるから話が早い! とても頼れる人だ!


 きな子の背中にイーストさんを乗せて万年樹の森へ向かう。


「馬よりも速い! 素晴らしい!」

 イーストさんはニコニコと上手くバランスを取っている。領主様だから乗馬が上手いのかもしれない。


「そろそろ見えてきます。きな子から離れないでください」

 焼けたとはいえ、生き残りがいるかもしれない。それが襲ってくる可能性は十分ある。




「これは凄まじいな」

 イーストさんは焼け焦げた万年樹に触る。


「これほど大きい木を焼き尽くすなど、ミサカズやサカモトでもできない芸当だ」

 剣で焼けた皮を叩く。


「中まで火が通っている。この木はもうダメだ」

「そうですか……」


「しかし外周のほうなら被害の少ない木があるはず。それを探そう」

「分かりました!」

 イーストさんの言う通り、外周を回って無事な木を探す。


「ここらへんの木は無傷だ」

 イーストさんは地図にメモをかき込む。


「ここらへんの木は皮が焼けただけか。焦げた皮を剥せば大丈夫だろう。大きさが大きさだから簡単には行かないが」

 黙々と仕事をこなす。

 できる男という意味が初めて分かった。




「とりあえず、無事な万年樹があるところをメモした。当分は樹液で飢えをしのげるはずだ」

「ありがとうございます!」


「しかし問題は解決していない。何故なら肉が無いからだ」

「そうですね……」


「さらに問題なのは、火事によって生態系が死んでしまったことだ」

「生態系が?」


「蝶や蜂は花の蜜を吸う代わりに受粉の手助けをする。もしも蝶や蜂が居なくなれば花は増えない」

「それは分かります」


「万年樹の森もそういった仕組みができていたはずだ。それが火災によって焼失した。このままでは万年樹の森は朽ちるだろう」

「どうしたら助けられますか?」


「私たち人間の手で再生の手助けをするしかない」

「僕たちの手で」


「一応、火災で傷を負った森を再生させる知識を持つ者が商人ギルドに居る。彼らの力と、私の配下となっている貴族たちが持つ労働力を駆使すれば治るはずだ」

「本当ですか!」


「しかし問題がある。万年樹の森に住むモンスターの存在だ。焼けてしまったとはいえ、生き残りが居るはずだ」

「もしも鉢合わせてしまえば、被害が出るでしょう」


「だから君に人間を襲わないように説得してほしい。モンスターの言葉を理解できる君ならできるはずだ」

「説得ですか」


「これはモンスターたちにも悪い話ではない。彼らは自然の掟に従い、滅びを受け入れるだろう。しかし滅びたいと思っている訳ではないはずだ」

「当たり前です!」


「そう思うだろう! だからこそ、説得が必要だ。やってくれるか?」

「分かりました! やってみます!」


「話は決まりだ! ではまず、オオカミの森に住むオオカミを説得してくれ」

「オオカミですか?」


「領地から万年樹の森へ進むのに必ずオオカミの森を通る必要がある。君が居ないと通れない状況では、万年樹の森を再生させるのに不便だ」

「納得できます」


「宜しい。もちろん、オオカミたちの要求も聞く。通行税として食料が欲しいのなら用意する。それに誰でも彼でも受け入れるというのは縄張りが荒らされて嫌だろう。だから例えば、ブラッド家の紋章を付けた者しか受け入れないとする。そうすれば盗賊など馬鹿な輩と私たちの見分けがつくはずだ」

「分かりました」


「ではとりあえず、オオカミたちと正式な話し合いの場を設けて欲しい。それができたらすぐに伝えてくれ」

「分かりました! ありがとうございます!」

 イーストさんの温かい手が頭に乗る。


「君はとてもいい子だ。一緒に、万年樹の森を再生しよう」

 イーストさんはワクワクしたような力強い顔で万年樹を見る。


「そう……私と一緒に」

「楽しそうですね」

 元気いっぱいな雰囲気に少し戸惑う。


「私もきな子には死んで欲しくない。君と同じだ。それにようやく君の役に立てて嬉しく思っている」

「そうなんですか?」

「当然だ! 私は君のことが大好きだからね」

 真っすぐに輝く瞳に顔を逸らす。女性にモテそうだ。


 とにかくこれできな子を助ける目途が立った。

 後は行動するだけだ。


「ふふ」

「どうしたの? きな子」

 ブンブンと尻尾を振るきな子を撫でる。


「私も人間の言葉が少し理解できる。まさか、人間の親切とやらを味わうとは思わなかった」

「そうだね! 僕も知らなかった! だけどやっぱりグランドさんの言った通りなんだよ!」

「グランドとやらはどんな奴だ?」

「夢の中であっただけ! だけど凄い人! だから、大丈夫!」

「そうか!」

 ブンブンときな子が尻尾を振るとイーストさんもそれに合わせて体を躍らせた。


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