吸血鬼とスライム、対、不老不死
「燃えている!」
万年樹の森へ近づくと焦げ臭さが強くなる。
「炎の魔人か? この前来た時とは比べ物にならないほど強い魔人だ」
きな子の気配が険しさを増す。
「勝てますか?」
「息で吹き消せばいい」
きな子は一直線に万年樹の森に突っ込む。
中は大火災が起きていた!
猿やネズミといった生き物が火だるまになって助けを求めている!
焼け死ぬ悲鳴が耳の奥まで響く!
「見つけた」
「居た」
赤子さんとスラ子の目が鋭くなる。
火炎地獄の中、炎を身に纏う男性が立って居た。
隣には耳の尖がった肌の黒い女性が居る。
「来たわ」
「マジでオオカミだ」
女性と男性は目配せして笑う。
「ダークエルフの魔人。空間魔法も操る最強の一族が来たのか」
きな子はギリッと歯ぎしりする。
「下りろ! 危険だ!」
「大丈夫?」
「ゼロが居ると戦えない!」
きな子は余裕が無い。しかし戦えない僕は邪魔にしかならないので飛び降りる。
「お前がオオカミの魔人候補だな」
きな子が正面に立つと、男性は笑う。
「魔人候補など知らんな。それよりも何の用で来た」
「魔人の勧誘に決まっているだろ」
「あなたのために魔王候補である私たちが来たのよ。誇りに思いなさい」
女性は不遜な態度で微笑む。
「そうか。ならば死ね!」
大気が震えるほどの咆哮が炎をかき消して二人に直撃する!
男性の身に纏う炎が消える。女性は空中に投げ出される。
きな子はその隙を見逃さない!
宙に舞う女性の胴体に噛みつき、その勢いで男性を踏みつぶす!
「凄いわね。私たちじゃ無かったら死んでいたわ」
きな子の口の先端が光で切断される!
「中級魔人でも歯が立たない訳だ」
さらにきな子の足元から火炎が立ち上る!
「きな子!」
駆け寄りたいが炎の勢いが強くて近づけない!
「相手が悪かったな。犬畜生が!」
大爆発が起きると、きな子の体は宙を舞った。
「きな子!」
地面に叩きつけられたきな子に駆け寄る! 体が熱くても構っていられない!
「ああ! 酷い!」
男性を踏みつけた足が根元から千切れている。口は切り裂かれ、鼻が無くなっている。
ただ、辛うじて息はあった。
「おやおや? 可愛らしいお客さんが隠れていやがった」
「人間なんて数百年ぶりに見たわ」
顔を上げると二人の魔人と目が合う。
「何でこんなことを!」
「驚いた! まさか不死鳥語が分かるとは!」
「こんな流暢にエルフ語を喋るなんて!」
二人は顔を見合わせる。
「エルフ語? 不死鳥語だろ?」
「何言ってるの? エルフ語よ。あなたも聞いたでしょ?」
瞬きすると僕を見る。
「この人間、不死鳥語とエルフ語を同時に喋った?」
「連れて帰りましょう」
ダークエルフの魔人が指を振ると、暗黒の空間が出現する。
「仲良くしようぜ、人間」
炎の魔人の手が伸びる!
「私のゼロと番犬に何をする?」
赤子さんが拳を振るうと、二人の頭が消し飛ぶ。
「きな子、大丈夫」
スラ子がきな子に触ると大量のスライムが出現する。それはきな子を覆うと瞬く間にきな子の体と同化し、傷口を再生する。
きな子の傷は一瞬で完璧に治った。
「良かった」
二人に笑いかける。しかし二人は魔人の死体から目を離さない。
「不死鳥じゃ無かったら死んでたぜ」
「不老不死の研究をして良かったわ」
二人の魔人の頭が再生する!
「ふ、不老不死!」
「正解だ、人間!」
「不老不死は魔王になる第一条件。これからよろしくするんだから、覚えておいて損はないわよ」
魔人たちは赤子さんとスラ子に目を移すと、真顔になる。
「赤い髪に赤い目? 吸血鬼? しかし太陽は上っているぞ?」
「スライムを生み出した? まさかスライムキング? でも人間形態?」
二人が瞬いた瞬間、赤子さんは女性の首に噛みついていた。
女性の目の色が変わる。
「嫌! 吸血鬼になんてなりたくない! 助けて!」
男性は女性に目もくれず走り出す。スラ子は男性が走る数十倍の速さで走り、液状となって男性の体を包む。
「止めろ! 俺は不死鳥だ! スライムになりたくない!」
女性の体が干からびる。
男性の体が液状となる。
「お前なんぞ配下にせん。朽ち果てろ」
「お前、不味い」
不老不死の魔人は赤子さんとスラ子に瞬殺された。
「きな子、大丈夫?」
きな子の目が開いたので体を揺する。
「……大丈夫だ」
きな子は何事もなくスクッと起き上がる。
「二人とも、私を助けてくれてありがとう」
きな子は赤子さんとスラ子に頭を下げる。
「番犬の使命を果たした。だから褒めてやる」
「きな子、仲間」
二人は微笑みながらきな子の頭を撫でた。




