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魔人再び

 今日は暇つぶしにきな子に乗らず、歩いて森を散歩する。

「ゼロ!」

 スラ子が黄色い花を摘んでくる。

「何?」


「これ! 黄色!」

「正解!」

 無邪気なスラ子の頭を撫でる。

「えへへ!」

 満面の笑みで走り出す。


「元気な奴だ」

 赤子さんがスラ子の後ろ姿に微笑みかける。


「ゼロ! これ! 紫!」

 スラ子が再び花を持ってくる。今度は赤色だ。

「残念。これは赤色」

「……赤色」

 ムムッと花を睨む。

「赤子さんの髪と同じ色でしょ」

「同じ」

 スラ子は悔しそうに花と赤子さんの髪を交互に見る。


「こいつはあれか、人間で言う子供という奴か?」

 赤子さんはスラ子を見下ろしながら呟く。


「そうだと思います」

「なら私は?」

「大人だと思います」

「ゼロは大人と子供どっちが好きだ?」

 赤子さんはスラ子から目を離さない。


「どちらかと言えば子供です」

「なら子供になろう」

 赤子さんの背が突然小さくなる!


「これなら良いだろ」

 幼い赤子さんが二パッと笑う!


「赤子さんは大人のほうが良いです!」

「何? そういう物なのか?」

「そうです!」

「ならば元に戻ろう」

 瞬きするといつもの赤子さんに戻る。


「苦労するな」

 後ろに居るきな子がのんびりとした声で笑った。




 スラ子の姿はだいぶ変わった。

「ゼロとおそろい!」

 スラ子は子供用の服を着るようになった。また肌や目、髪の色も人間に近くなった。どうやら僕の真似をしているらしい。

「可愛いね!」

 そう伝えると、スラ子は人間と同じ雰囲気の笑みを浮かべた。


 赤子さんの姿はそれほど変わりはない。元々人間に近い姿だったため当然と言えば当然だ。

 しかし行動が少しずつ変化している。


「いつも服など洗っているが、どうしてだ?」

「不潔だと僕が病気になってしまいます」

「なるほど! ならばすぐに洗ってやる!」

 そう言って清潔に気を遣うようになった。また食べる物も少しずつ変わっている。


「良く美味しそうにクッキーとやらを食べているが、どんな味だ?」

「食べてみます?」

「私はゼロの血しか飲まない」

「食べてみてください。食わず嫌いしたら勿体ないです」

 そう言って手渡すと、臭いをクンクン嗅いで、口に入れる。


「私は血しか食べられないと思ったが、どうやら違ったようだ」

 そう言って少しずつ甘い物を食べるようになった。もちろん、突然食生活を変える訳にもいかないので血は飲んでもらっている。


「このクッキーはバードとやらが持ってくるのか?」

「そうです」

「躾けのなっているペットだな」

 最もまだまだ人間に対する考えは変わっていないようである。


 それでも良い方向へ二人とも変わっていっている気がした。




「どうした? ぼんやりして」

 赤子さんに声をかけられるとハッと我に返る。


「何でもありません」

「そうか。そろそろ血が飲みたいぞ」

「そろそろお昼にしましょうか」

 用意したお弁当をリュックから取り出す。


「スラ子! お昼だよ!」

「お腹空いた!」

 パタパタとスラ子が戻ってくる。


「不快な」

「敵」

 突如二人の表情が変わる!


「どうしたの?」

「万年樹の森から変な臭いがする」

 きな子が二人の代わりに答える。


「どんな臭いですか?」

「ゴブリンやオークといった複数の魔人の臭いだ」


「魔人ですか!」

「おそらく久しぶりに私に喧嘩を売りに来たのだろう。追い払ってくる」

「僕たちも行きます!」

 興奮して今にも飛び出しそうな二人を押さえる。


「……仕方がない」

 きな子が伏せたので急いで背中に乗る。


「行くぞ」

 きな子は合図とともに走り出した。


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