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クラスメイトの動向

 約束通り、僕に何があったのか、イーストさんに説明する。

 ただし赤子さんとスラ子のことは誤魔化す。二人が人間に存在を知られたくないと苛立ったからだ。

「やはり、そうだったか」

 客間で紅茶の湯気が立ち上る中、イーストさんは力なく頭を抱える。


「君が死んだという報告はミサカズから受けた。仲間が死んだのに陽気だったから、こいつが殺したのでは? と怪しんだ。しかし、詳しいことは何も語らなかったため、調査は打ち切りになってしまった」

「そうだったんですか」

 テーブルの中心に置かれたクッキーを食べる。甘くて美味しい。


「また、この前五名の勇者が死んだことを伝えた。そしたらミサカズは仲間だったはずなのに腹を抱えて笑った。サカモトは弱い奴と一笑した。エリカは興味を示さなかった。異常な奴らだ」

「そうですか」

 クッキーを口に含んで紅茶を飲むと、クッキーがトロトロに蕩けて美味しい。


「興味ないか?」

「無いです」

 喧嘩腰になってしまった。頭を下げて謝ると、イーストさんは、気持ちは分かるとため息を吐いた。


「死んでしまったオオトモたちは許します。十分罰を受けましたから」

 お城には死んでしまったオオトモたちの墓が作られていた。どんなに最低でも、死者には礼儀を払うという方針だ。僕もそれには同意する。だから手を合わせて、僕を虐めたことを許した。


「でもミサカズたちには会いたくないです。思い出したくも無いです」

 あいつらの名前を聞くだけで胸やけがする。

 夢の中でグランドさんに許しの意味を知った。だからあいつらを許したいと思う。

 だけど体が拒否してしまう。


「もしもあいつらが戻ってくるときは教えてください。隠れますから」

「同意するよ。私も隠れたいくらいだからな」

 イーストさんもクッキーをかじる。


「あいつらはダンジョンで特訓を終えたら、ここに戻らず戦場へ直行する手はずだ」

「安心しました。ところで、僕も勇者ですが、戦場に行きたくないです」

「君は死んだことになっている。死者は戦えないから気にするな」

 安心したので笑うと、イーストさんは、やっと笑ったなと、笑ってくれた。




「一つ聞きたいんですけど、勇者の召喚って過去にもあるんですか?」

 和やかな空気が楽しく、離れたくないと話題を探してしまう。


「何度もある。記録にあるだけでも数百年前から、一年に一回行っている」

「そんな前から!」


「魔軍の数がとにかく多く、戦闘能力も向こうが上だ。魔人と呼ばれる格別に強い奴も数百確認されている。それに対抗するために勇者が必要だ。だからこれからも召喚し続ける。そうしないと戦争に負けてしまう」

「そうなると、今回召喚した僕たちは残念でしょう」

 イーストさんのため息が部屋を包む。


「まあ、何度も勇者を召喚すれば、時には危険な奴も召喚してしまう。それに理不尽な行動で勇者を怒らせ、殺された事例もある」

「結構、危険ですね」


「本当は止めたいと皆が思っている。しかしどうしようもないと諦めている。それでも今回は酷すぎるが!」

 イーストさんが拳を握りしめると僕も拳を握りしめる。


「嫌な話になるが教えてくれ。何であいつらは馬鹿なんだ? ミサカズは勇者という立場の犯罪者だ! サカモトはスパルタと評して騎士や冒険者を潰す馬鹿野郎だ! エリカは突然訳の分からない教育を始める馬鹿女だ! 俺が何か悪いことをしたか! 俺が嫌いでもそこまでやるか!」

 ゼイゼイと不満を言い終わると咳払いをする。


「済まない」

「別にいいです。僕も全面的に同意できます」


「……考えると、君が死んだと聞いて、仲間が死んだと聞いて、関心を示さない奴らが真面な訳無いな」

 イーストさんは少しスッキリした様子で紅茶を飲む。砂糖とミルクは入れていない。


「ああいう奴らでも、戦場なら役に立つ。だからお咎めなしだ。咎めて暴れられても困る。力は本物だからな」

「大変ですね」


「君のほうが大変だ。大変な思いをしてきた、というべきかな」

 何も言えなかったので静かに頷いた。




 報告が終わったのでお城から出る。イーストさんは僕の姿が見えなくなるまで見送ってくれた。

「良い人だ。そう思うでしょ、赤子さん、スラ子」

 影に隠れる赤子さんとポケットに隠れるスラ子に笑いかける。


「あいつよりもお前のほうが良い」

「ゼロが好き」

 窮屈そうに返事する。二人とも未だに人前に出ることは拒否する。

 早く帰ってあげよう。


「少し買い物します。すぐに済みますから、もう少し我慢してください」

「血が飲みたい」

「お腹空いた」




 大通りを歩いてお店を見て回る。じっくりと見物したいが、二人がソワソワしているので欲しい物だけ探す。

「紅茶と砂糖は無いのかな?」

 ざっと見たが紅茶や砂糖といった贅沢品は見つからなかった。贅沢品と名が付くだけに、本来は貴族といったお金持ちしか買えないのだろう。

「お菓子だけ買って帰ろう」

 お金はバードさんから受け取った物がある。金貨は普通の店では使えないので、銅貨と銀貨に両替してもらった。嵩張って重い。


「あら! あなた、昨日の勇者様!」

 突然後ろから声をかけられたので振り向くと、色っぽい雰囲気の女生と目が合う。


「えっと、そうです」

「やっぱり! ねえ名前は何ていうの? 私はアマンダ!」


「ムカイ・ゼロです」

「素敵な名前! それにしても、今年来た勇者に比べて随分と可愛いわね。それなのにオオカミの森の主を従えるなんて凄いわ! あなたみたいな人がいつも来れば私たちも嬉しいのに! 今年は酷いけど去年も酷かったわ! 私の事ブサイクって言ったの! お前に言われたくないって話よ!」

 マシンガントークとはこのことか。びっくりしたけど、楽しそうで美しい笑顔だから苦痛にならない。

 しかし赤子さんとスラ子が不機嫌になっているので、話を切り上げたほうが良い。


「もし訳無いですが、急いでいるのでこれで失礼します」

「あらいけない! 私ったらお喋りが好きだから! 何か買い物?」

 引き下がらない人だ。


「紅茶と砂糖とお菓子を買いにきました。でも無いからすぐに帰ろうかと」

「それが欲しいの! ちょっと待ってなさい!」

 パタパタと足音を立てて、レストランのような場所へ入る。


 そしてすぐに戻るとどっさりと袋をくれた。

「紅茶と砂糖にクッキー! 持っていって!」

「良いんですか!」


「あなたが万年樹の森から素材を取ってきてくれたんでしょ。バードから聞いたわ。その素材で私は怪我が治った。友達も病気が治った。それはそのお礼」

「ありがとうございます!」

 お礼を言うとアマンダさんは頬に手を当ててため息を吐く。


「バードに怒られて気づいたけど、随分とあなたには無理をさせたみたいね。ごめんなさい。皆、森の秘薬に舞い上がっちゃって、あなたのことを考えられなかったのよ」

「もう騒がないなら大丈夫です!」

「可愛い子ね! 今度お店に来て! サービスするわ!」

「僕には早いです!」

 急ぎ足で離れる。


「本当にありがとう。あなたには感謝しているわ」

 しっとりとした声に振り返ると、微笑むアマンダさんが目に入る。


「どういたしまして!」

 軽い足取りで町を出る。

 良い町だ! また来よう!




「機嫌がいいな。嬉しいことでもあったのか?」

 きな子の背中に乗っていると、パタパタと尻尾を振る。


「万年樹の森の素材を届けたでしょう。そのことでお礼を言われた」

「それは良かった」

 さらにパタパタと尻尾が動く。


「イーストさんがきな子にお礼を言ってたよ。おかげで病人が減ったって」

 ブンブンと風が巻き起こるくらいに尻尾を振り回す。


「あの時怖がられたと思ったが、そうかそうか」

 歩みにリズムがつく。


「町の人は皆いい人だ! あの騒ぎはちょっと間違えちゃっただけ!」

 空を飛べるほど気分がいい。


「グランドさんが言ってた通り、人は良い面と悪い面がある。だけど、悪い面があるだけで、人は良い人ばっかりなんだ! クラスメイトだけが特別だった!」

 袋からクッキーを食べると、心が和む。


「クラスメイトも、悪い面だけじゃなく、良い面もあるんだろうな」

 ふと思うと、猛烈に悲しくなる。


「許せないけど、許したほうが、心は軽くなるんだろうな」

 もしも謝ってくれたのなら許そう。


 そう思うと、気分が楽になった。


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