森の秘薬
「薬草と樹液か」
バードさんは指で樹液を掬い口に含む。
「凄い甘さだ!」
次に刻んだ薬草を咥える。
「舌が痺れないし腫れない。毒ではないが、どんな薬効があるか?」
難しい顔で唸る。
「ダメですか?」
「いや! よくやってくれた。ただ改めて考えると、取ってきただけだと金にならないなぁと」
「今更そんなこと言わないでくださいよぉ!」
「待て待て! とりあえずどうやって売るか考える」
コツコツと貧乏ゆすりをする。
「ポーションに樹液を混ぜたらとりあえず売れそうな気がする」
「ポーション? 薬に樹液を混ぜるんですか?」
「飲み薬は苦くて不味い。しかも苦みが強くて普通の甘味じゃ打ち消せない。この樹液ならそれが解決しそうだが」
「試したらどうです?」
「スライムが取れなくなったから、ポーションそのものが無い」
コツコツと指で机を叩く。
「樹液と薬草を混ぜてみよう」
すり鉢で薬草と樹液をゴリゴリと混ぜ合わせる。
「香りは良いですね」
「味はどうかな?」
ペロリと舐めてみると、眠気が吹っ飛ぶほどの爽快な甘さがする。
「何だか凄い味ですね」
「ああ……売れそうな気がする」
バードさんは薬草と樹液を全て混ぜ合わせ、ガラス瓶に収める。
「森の秘薬って名前で売り込んでみる。数日後にまた来てくれ」
ドサドサと本、調味料、野菜、そしてボードゲームを受け取る。
「ありがとうございます!」
「どういたしまして」
バードは森の秘薬を持って町の飲食店に入る。
「おっさん、突然だけどこれを使ってみる気は無いか?」
バードは厨房にずかずか踏み込むと店主に森の秘薬を渡す。
「何だこれ?」
「俺が作った調味料だ。とりあえず美味いと思う」
「お前が作った?」
店主は瓶の蓋を開けて臭いを嗅ぐ。
「とりあえず臭いは合格だ」
スプーンで一匙掬い、舐める。
「変な味だ!」
「そうか?」
「癖が強すぎる。スープにも何にもあわねえ」
「そう言うなって。一つ置いておくから、使ってみてくれ」
「金は払わねえぞ」
「気に入らなかったら返してくれ」
次に教会に立ち寄る。
「婆さん、これを使ってみる気は無いか?」
「突然なんだい?」
瓶の蓋を開けて臭いを嗅ぐ。
「甘い臭いだね。贅沢品だから高いんだろ?」
白髪でしわの刻んだ顔を歪ませる。
「特別タダだ。試しに使ってくれ。甘い物は子供も病人も好きだろ」
「くれるって言うなら貰うけど」
こうして地道に営業を続ける。
目標の数まで捌くと、最後に娼館へ立ち寄る。
「バード? 久しぶりだね」
「アマンダ! そのケガはどうした?」
店に入るなり、頬の腫れた女性に駆け寄る。
「勇者のガキに殴られたのさ」
「勇者!」
「皆も傷物になっちまった。おかげでここは廃業だよ」
よく見ると体中に痛々しい青あざがある。
「そうか……俺に食わせる金があれば良かったんだが」
「そこまで期待してないよ」
アマンダはそろりとバードのズボンを撫でる。
「萎えてるね」
「さすがに立たない」
「だろうね」
割れた歯が笑みから零れる。
「これをやる。甘いから少しは気分が晴れるはずだ」
「何だいこれ?」
「俺が作った森の秘薬って商品だ。試しに使ってくれ」
「こんなの渡されても使い方なんて分からないよ」
「とにかく使ってくれ。そうしないと価値が分からない」
「全く、強引な奴だね」
バードはアマンダとキスをして帰宅する。
「後は結果待ち。もしも売れるなら、次は向こうから話を持ち出してくる」
酒と森の秘薬を混ぜて飲んでみる。
「うん! 美味い! 次はこれで売ってみるか!」
しげしげと森の秘薬を見つめる。
「絶対に売れる。問題は気に行ってもらえるかどうか」
にじみ出る汗を拭う。
「それにしても暑い……それに腹が減った」
上半身裸になってパンとスープを貪る。
「パンに付けると微妙か」
粗方食べるとトイレに向かう。
「体の調子がいいなぁ……森の秘薬のおかげか?」
体内の毒物をすべて排せつすると体がどんどん熱くなる。
「それにしても、勇者の野郎。アマンダを傷つけるか……俺が力を持ってたら、ぶっ飛ばせるのに」
悔し気に机を叩いてベッドに横になる。
「勇者は今は居ない。だけど戻ってきたらどうなる? 地獄か? ゼロに相談してみるか」
らんらんとした目を閉じる。
「しかし……眠くない……夜は飲まないようにしよう」
盛り上がるズボンを忌々しく睨むと、強引に目を閉じる。
数秒後にはイビキが上がる。
睡眠促進の効果もあるようだ。




