万年樹の森へ
「買取不可ですか」
数日ぶりにバードさんの元を訪れると残念な知らせを聞く。
「悪いな」
「仕方がないです。それで、以前貰いました物はどうしましょう? やはりお返ししたほうが良いですか?」
「良いさ。調べなかった俺が悪い。遠慮せずに貰ってくれ」
「ありがとうございます」
「ゼロは領主に会いたくねえか?」
茹でたジャガイモとミルクの昼食を食べているとポツリと言われる。
「領主ですか?」
「調べたところ、どうもお前さんが手に入れた素材は国がひっくり返るほどの価値がある。それを手に入れられるだけの力があるなら、領主のイーストに会ったほうが良い」
「戦争に参加しろと?」
心が暗くなり声が落ちる。
「そうなるな。嫌か?」
「嫌です」
「なら忘れてくれ。俺もお前が離れるのは寂しい」
ホッとしたような笑顔だ。人たらしとはこの人のためにある言葉だ。
「それで! こっからが本題だ! ゼロは万年樹の森って知ってるか?」
「知らないです」
「オオカミの森を南に抜けた先にある森だ。木の太さが一万年以上生きてるってくらい太いからそう言われている」
「凄そうなところですね」
「面白そうだろ! そこで俺からの依頼。万年樹の森に行って、何か素材を持ってきてくれ。前金は払う」
「持ってくるって、なんでもいいんですか?」
「何があるか分かって無いから、なんでもいい。何せ万年樹の森は立ち入り禁止区域! 冒険者も勇者も踏み込まない凶悪なモンスターの巣! そこに何があるのか、確かめるだけでも価値がある!」
「危ないですね」
「お前の実力を見込んでだ」
一枚の金貨をテーブルに置く。
「前金はアトランタ金貨一枚。これだけで女が100人買えるくらいの大金だ!」
「そんな大金頂いていいんですか?」
「その代わり、期待しているぜ!」
自信に溢れた笑みは、影一つなく僕を信用していた。
「万年樹の森は危険だぞ」
きな子の背中に乗ってどしどしと万年樹の森を目指す。
「そんなに危ないの?」
きな子の頭を撫でる。モフモフして気持ちよい。
「あそこには虫人が居る」
「虫人? 虫のモンスター?」
「人と虫を組み合わせたようなモンスターだ。見た目こそ人に近いが、性質は虫で、話が通じない。縄張りに入れば問答無用で襲い掛かる」
「どんな虫なんですか? 蜂ですか?」
「蜂、蟻、蜘蛛の三種が住み着いている。その三種が万年樹の森の生態系の頂点だ」
「どんな力を持っているんですか?」
「蜂人なら蜂を操る能力に毒針を持っている」
「それぞれの虫を操る力と特徴を持ったモンスターか」
出会ったら悲鳴を上げそうだ。
「私から離れなければ安全だ。これでも2000年ほど生きている」
「頼りにしています」
きな子を撫でるとギュッと赤子さんとスラ子が抱き着く。
「私を頼れ!」
「ゼロ、守る」
「ありがとう」
不機嫌な声なのに、笑みが出た。
しばらくすると東京タワーよりも大きな木々が目の前に広がる。
「凄い」
圧倒されるとはこのことだ。
「万年樹の樹液は美味いぞ」
きな子は楽しそうにガリガリと万年樹の皮を剥す。
ドロリと蜂蜜よりも甘い香りをした液体が流れる。
「甘い!」
口に含むと歯が解けそうなほどの甘みが広がる。
「美味しい」
食いしん坊のスラ子もご機嫌だ。
「この樹液はとても栄養がある。だから大型のモンスターが育つ」
きな子の足元を覗くと、自動車のように大きなネズミが走り回っていた。
「大きいですね」
「だからこそモンスターが強い。体の大きさは強さの証明。魔人でも迂闊に踏み入れない禁断の森だ」
空を見上げても枝葉で視界がいっぱいになる。そこかしこに大きな猿や鳥などが居る。
「早く帰ろう! 私は退屈だ!」
見とれていると赤子さんがぐずり始める。
「もう少し待ってください。きな子、薬草とかありますか?」
「薬草ならこっちだ」
ドスドスと速足で歩く。
「ここに生えている草はすべて薬草だ」
「これまた大きいですね」
花畑のようなところに来ると思わずため息を漏らす。花が家よりも高い。
「スラ子、薬草と樹液を持って帰りたいから、お腹に仕舞ってくれないか?」
「分かった」
スラ子が数枚の薬草を飲み込む。
さらに樹液もたっぷりと飲み込んでもらう
「とりあえず、素材は手に入った。帰ろう」
帰ったら小さくしてバードさんのところへ持っていこう。
少しはお金になるかもしれない。




