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冒険者の反乱

「オオカミの森で暮らしているのか!」

 バードさんの自宅でゆっくりする。


「そんなに驚くことですか? 野宿なんて珍しく無いと思いますけど」

「あそこはオオカミたちの縄張りだ。しかもオオカミの主が居る。冒険者でも滅多に踏み入れないところだ」

 バードさんはグッとガラス瓶の液体を飲み込む。

「不味いな」

 顔をしかめて床に唾を吐く。


「それにしても、次はどんな物が売れるか? 分かるか?」

「分かりません」

「だろうな」

 テーブルに足を乗せてブラブラする。


「ギルドに入ってない冒険者と友達に成れたのに、もったいねえ」

「何が勿体ないんですか?」


「知らねえのか? 当たり前か。冒険者は大概冒険者ギルドに所属して、そこから依頼を受ける。そうなると商人はそこに依頼するしかないが、手数料で余計な金がかかる。おまけに報酬が少ないといつまで経っても受けてくれない」

「当たり前と言えば当たり前ですね」


「おかげで金のない俺は自力で荷物を運ぶ羽目になる。運送も冒険者ギルドが担当しているから金がかかって仕方がない」

 意外な事実だ。

 バードさんは退屈しのぎに喋り続ける。


「商人ギルドに所属すれば、口利きしてもらえるけど戻るのは嫌だし……めんどくさいことよ」

 鼻が歪むほど強く香る酒瓶を開ける。


「飲むか?」

「遠慮します」


「そうか。しかしどうするかな。このままくすぶってちゃもったいねえ」

 ラッパ飲みするとごそごそと袋の中身をテーブルに広げる。


「手伝って貰ったから、分け前だ。一割だけど良いだろ?」

「良いんですか!」


「友情の証さ! これからもよろしく頼むぜ」

「ありがとうございます!」

 固く握手をする。


「しかし、じっとしていても仕方がねえな。ちっと留守番しててくれ」

 そう言うとバードさんは外へ出て行く。




「初対面の人に留守番を任せるなんて無防備な人だな」

 とりあえず、ポケットからスラ子を出して、パンを与える。


「美味しい?」

「美味しい」

 スラ子は伸びをしながら食べる。やはりポケットは窮屈だ。


「赤子さん、血を上げますから出てきてください」

 赤子さんがスラっと影から現れる。


「早く帰ろう」

 イライラした口ぶりだ。


「もう少し待ってください」

「仕方のない奴だ」

 赤子さんはイライラしながらも血を啜る。


「私はお前と一緒にダラダラしたいぞ。あんな奴に構うな」

「遊ぶ」

 食事が終わると二人に抱き着かれる。


「うーん。でもお金が欲しいですし」

「私はお前が以外欲しくない」

「ゼロ、好きー」

 嬉しいけど、困った。


「戻ったぞ」

 そうこうしているとバードさんが戻ってきた。


「お帰りなさい」

 スラ子と赤子さんは速攻で隠れてしまった。人里で暮らすのはまだまだ先だ。




「物騒になった」

 バードさんは椅子に座ると酒瓶を持って眉を顰める。


「何があったんですか?」

「冒険者ギルドから多数の離脱者が出て、そいつらが反乱を起こしているらしい」


「反乱!」

「勇者って知ってるか?」


「え、ええ。知ってます」

「勇者の一人が冒険者の女を襲ったらしい。そして口論になった挙句、勇者が冒険者を殺した」


「そんな!」

「信じられねえだろ。俺もさ。人のすることじゃねえ。それなのに勇者だから無罪放免。結果暴動、そして殺戮。騒いだ奴らは勇者に皆殺しにされた。それに怒った冒険者が徒党を組んで反乱を起こした」


「そんな……」

 ミサカズだ。あの野郎、とんでもない怪物になっちまった! どっちがモンスターだ!


「幸い、勇者たちは少し前に北部のダンジョンへ特訓に向かった。戻ってくるのはずっと先だ」

「そうですか……」


「だがその結果、怒った冒険者が街で暴れている。騎士が対応しているが、夜道は歩かねえほうが良い」

「ありがとうございます」


 陰鬱な空気が流れる。




「気分が盛り下がっちまったな。そこでちょいと金になりそうな話を持ってきた!」

 バードさんが笑うと持ち前の明るさで空気が軽くなる。


「どんな話です?」

「冒険者が離脱してモンスターの素材が手に入らなくなった! だから今は高値で売れる!」

「どんな素材なら売れますか?」


「思いつくのはスライムの体液だな。あれは薬になる」

「薬ですか?」


「スライムの体液に薬草を混ぜ込むと骨のヒビぐらいならすぐに治せる秘薬になる! その体液が無い」

「なるほど」


「あと薬草だな。強力な薬草はモンスターの生息地でしか手に入らない。冒険者が居なくなった今、手に入れることができない」

「スライムの体液と薬草ですか」

 スライムの体液は置いておいて、薬草なら頑張れば見つけることができるかも。


「体液、欲しい?」

 ポケットの中でスラ子が訪ねる。


「欲しいけど、スラ子からは貰えないよ」

 小さい声で答える。


「あげる」

 ポトリと手にぷよぷよした液体が収まる。


「スラ子、良いの?」

「帰る」

 不機嫌な声だ。

「分かったよ」

 ポンポンとポケット越しにスラ子を宥める。


「バードさん。体液なんですが、持ってます」

 テーブルの上にポトリと置く。


「それが体液?」

 じっくりと穴が開くほど睨む。

「そうです」

「ふーん。見たことないが、お前が嘘つくはずないし」

 指で摘まみ、蝋燭の火にかざす。


「信用しよう! それで、何が欲しい? ただじゃないだろ?」

「子供用の服と鍋、皿、布、調味料が欲しいです」

「子供用の服? 子供がいるのか?」

「まあ」

「見かけによらずモテるな! よし! 生活用品全部やるよ!」

「良いんですか!」

「余り物もあるからな。その代わり、これからもよろしくな」

「はい!」

 喜んでいると拳に硬い物が出現する。


「帰るぞ」

 赤子さんのぶっきらぼうな声が聞こえた。

「あの、良いんですか?」

「私のほうがスラ子よりも凄い」

 不貞腐れた声が返ってきた。


「ついでにこれも買い取ってもらえませんか?」

 テーブルの上に真っ赤な石を置くと、奥からバードさんが荷物を持って現れる。

「なんだそれ? 宝石か?」

 荷物を床において石を手に取る。


「見たことのない石だ。ダンジョンで拾ったのか?」

「そうですね」

「ふむ。魔石か?」

 かじり、舐め、臭いを嗅ぎ、最後に蝋燭の火にかざす。


「これはどんな価値があるのか調べないと分からないな」

「じゃあ報酬は次に来たときにください」

「良いけど、最悪ガラクタなら買取不可だぜ?」

「きっと価値があります」

「お前が言うならそうだろうな」

 クスリと笑いあう。




「泊って行かなくて良いのか? 夜は物騒だぜ」

「平気です。それより、風呂敷やバッグまでありがとうございます」

「友達だからな。じゃあ、気を付けて帰れよ」

「お休みなさい!」

 小走りでバードさんの家から離れる。


「全く、すぐに帰るぞ」

 ひと気が無くなると赤子さんが出現し、抱っこされる。


「赤子さん、恥ずかしいです」

「今日はお前が悪い!」

 見事なしかめっ面をされたので我慢する。


「スラ子、荷物を持ってくれる?」

「分かった」

 するりとスラ子が荷物を飲み込む。


「帰りましょう」


 今日は少しだけ進展があった。定期的にバードさんに会おう。


「良いか? もう私は人間のところには行かないぞ? 食うぞ!」

「ポケット、窮屈」

 ダンジョンに戻って拗ねる二人の頭を撫でる。


「はいはい」

 その前に、二人を宥めるのが先だ。


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