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クラス転生! 追い出し! 出会い!

「私の名はブラッド・イースト。勇者たちよ、私の呼びかけに答えていただき感謝する」

 イーストさんは慇懃に立ち上がって頭を下げる。

 釣られて足元を見ると、大きな魔方陣の上に立っている。


 辺りを見渡すと地下室のように締め切った部屋で、窓が無く湿気が酷い。


「あの……あなたは誰ですか? ここはどこですか? 俺たちは修学旅行中だったはず?」

 クラスのリーダーであるサカモトが、皆の思いを代弁する。


「困惑しているね。何度でも説明しよう」

 イーストさんは優しい顔で説明する。


 僕たちは異世界に召喚された。切っ掛けは移動中のバス事故。


 僕たちは勇者で強い力を持っている。異世界から召喚された者はそういう者らしい。


 この世界は魔軍と人間軍で戦争が起きている。人間軍はジリ貧なので勇者の力が欲しい。


「お願いだ。勇者たちよ」

 イーストさんが深々と土下座したので、何も言えなくなった。




 とにかく僕は困惑していた。夢を見ているのではないかと思った。だけど初日ですぐにここは異世界だと納得できた。

 理由はトイレだ。

 僕たちはそれぞれにホテルのスイートルームかと思うほど良い個室を与えられた。最初は心が浮ついたけど、トイレに行こうとしたところで現実に戻る。

 部屋の隅におまるが置いてあった!

 そこに用を足す!

 廊下に出して置けばメイドさんが片づけてくれるけど恥ずかしくて、臭くて敵わない!

 そして何より! メイドさんは恥ずかしがる僕たちを他所に、顔色一つ変えずにおまるを片づけた!


「日本語が通じる。そういう力を持って召喚された。納得するしかないか」

 混乱は収まらないが、そういう物だと納得するしかない。


 それはそれとして、僕たちは魔軍と戦うことになった。

 戦いなんて嫌だったけど、クラスメイトのサカモトが戦おうと張り切るので仕方がない。


「皆戦おう! 確かに訳分かんねえ! だからこそ手を合わせて戦おう! もしかすると元の世界に戻れるかも!」

 嫌だとは言えなかった。

 嫌だと言って仲間外れにされたら嫌だから。


「クラスメイトは嫌いだけど、僕が知っている奴はこいつらしか居ない。我慢しよう」

 心の中で自分に言い聞かせた。


「修学旅行なんてサボればよかった」

 本当は行きたくなかった。だけど休むと親に心配かけてしまうから休めなかった。

 二泊三日、三日間の辛抱だと勇気を振り絞った。


 いつの間にか、三日間以上辛抱することになった。




 僕たちは戦うことになったので訓練をすることになった。

 訓練は正直何のためにしているのか分からない。

 訓練の内容を考えたのが、エリカとサカモトだから。


「分からないことばかりだろう。だからまずは、一人一人に私の部下を付ける。君たちよりも力は弱いが、この国の状況や戦い方を教えてくれる」

 家庭教師のような者かと思った。そしてイーストさんの部下は皆良い人そうだったので安心したし、真剣に僕たちのことを考えてくれていると思った。


「それには及びません!」

 それなのになぜかサカモトは断った!


「俺たちは勇者だ! なら自分たちで何とかするのが筋だ!」

「そうよ! まずは私たちで考えないと!」

 サカモトとエリカが何を言っているのか分からなかったけど、僕を含めて誰一人文句を言わなかった。イーストさんは怪訝な顔をしていたけど、大丈夫ですと口をそろえた。


 そしてサカモトとエリカが考えた特訓の内容を見て後悔した。


 特訓の内容が全く理解できない。クラスメイトの三分の一もそんな感じがした。

「シールダー? セイバー? キャスター? どういう意味? 後衛防衛体勢? 何を言っているの?」


 絵は無く、文字の羅列だけ。俗語なのか僕が無知なだけなのか分からないけど、意味の分からない単語が並ぶ。思い付きを書き殴っただけでは? 馬鹿な僕でもそう思うほど意味不明な内容だった。


「まずは筋トレだ! 全員腕立て伏せが1000回できるように! 一か月でだ!」

「女子は100回で良いから!」

 その回数はどこから出てきたのか? なぜ腕立て伏せをやるのか? 分からないことだらけ。少なくとも運動もしていない僕には無理な内容に思える。


「良いか! ムカイ!」

「……分かった」

 それでも僕は頷く。それ以外に選択肢は無いから。


 そして僕は怒られる。そして僕は謝り続ける。


「くそ! 何で皆真面目にやらねえんだ!」

 サカモトは皆の様子を見て何度も歯ぎしりする。


「このままだと予定が狂っちゃう! もう! 皆真面目になってよ!」

 エリカは椅子に座ってイライラする。


 僕は汗だくでそれを見る。罰で昨日から何も食べていない。


「仕方がねえ! 予定を繰り上げて迷宮に行く! 実践だ!」




 時は僕を待たずに過ぎる。

 そして居心地の悪さは日に日に増していく。


「また向井の討伐数はゼロか! 名前の通り零だな!」

 サカモトの部屋で行われる一日の反省会でいつも嘲笑われる。反省会なんて嫌だったけど、いつの間にか参加する決まりになっていた。


「ゼロ! 皆に謝罪の言葉だ!」

 サカモトに睨まれたので前に出る。

「お前のせいで俺たちのチームの評価が下がった!」

 今日、僕とチームを組んだメンバーが罵声を上げる。


「ごめんなさい……」

「声が小さい!」

 僕は何度も謝る。泣き出しても罵声は止まない。


「泣いて許されると思うな! 皆の命がかかってんだぞ!」

 終いには頭を叩かれる。心が痛い。


「ムカイ君さぁ……もっと考えて行動したら? 女の私から見てもダメダメだよ」

 クラスの女子を纏めるエリカに呆れられる。皆も続いて呆れる。


「ごめんなさい」

 僕は何度謝ればいいんだろう? そう思いながら夜が過ぎる。




 出来が悪い僕は今日もダンジョンへ行き、モンスターと戦う。

「今日はお前とチームだ! 俺の足を引っ張るなよ、ゼロ!」

 そして一番嫌な相手と組むことになる。ミサカズ、僕を虐める大っ嫌いな相手だ。


 僕は今日、こいつに殺される。そんな覚悟をした。


 ダンジョンは初級者用らしく、スライムしか居ない。スライムは動きが鈍く襲ってこないので危険はない。

「これって弱い者いじめじゃないか?」

 ミサカズが喜々して剣を振るう背中を見ると、どうしてもスライムたちが僕に重なる。


「よーしよし! もう一度俺が突っ込む! お前たちは援護しろ!」

 反撃してこない相手に援護の必要があるのか? そう思ったけど、他のメンバーはバシバシと魔法や弓で攻撃する。

 魔法も弓も使えない僕はスライムたちが弱っていく様子を見ているだけ。

 なんて弱虫なのだろうと笑ってしまう。


「ゼロ! 特別にお前の手柄にしてやる!」

 ご機嫌なミサカズに突然呼ばれると、剣を渡される。

 これで止めを刺せと言う意味だ。


 剣を持ってスライムたちの前に立つ。倒せば討伐数に加算される。すると今日の反省会は穏便に済む。

「……結局、僕もミサカズの取り巻きと同じだ」

 ミサカズだけではなく、見ているだけの奴も恨んだ。だけど僕は今、その一員となっている。

 

 この子たちを殺したら、僕はミサカズとその取り巻きに文句を言えなくなる。そんな風に呆然としていたら、お尻を蹴飛ばされる。


「早くやれ! この屑が!」

 体の大きいミサカズに見下ろされると胃がひっくり返りそうになる。


「……分かった」

 震える剣を持ち上げる。その様子を後ろで笑っているような気がしたけど、何もできない。


 僕は嫌な奴だ。死んだほうが良いのかもしれない。


「おなかすいた?」

 正面から声が聞こえた。瞬くとスライムたちと目が合った。


「逃げて!」

 僕は生まれて初めて、腹の底から叫んだ!


 スライムたちはびっくりしたように逃げ去る。その速さはミサカズと戦っている時よりも数十倍、数百倍も速かった。


「この屑!」

 突然視界が暗転する。


「死ね! 屑! 死ね!」

 何度も何度も頭や背中、腕を踏みつけられる。多分、ミサカズの取り巻きも加わっている。


「やっぱり僕は死ぬのか」

 そう思うと、とても安心した。




「行くぜ!」

 しばらくするとミサカズたちは僕を残して去った。


「きもちわるい」

 視界が滅茶苦茶で吐き気がする。立ち上がることもできない。一思いに殺してくれればいいのに、酷い奴らだ。


「おなかすいた?」

 眠ろうとしていると、またスライムと目が合う。

 怯えているように見える。


「きもちわるいかな」

 笑うと切れた唇から血が出る。頭が痛い。


「これ、あげる」

 ポケットに入れていた薬を取り出して、スライムにぽたぽたと振りかける。何となく元気になってくれた気がする。


「もう……あいつらにあっちゃだめだよ」

 ブツリと頭がハンマーで殴られたような衝撃がした。


 鼻血が噴き出して口から血が溢れる。痛い!


 薄れ行く景色の中、スライムが大勢集まってくるのが分かる。食べられてしまうかもしれない。


「たんとおたべ」

 眠気で目が真っ暗になる。

 そしてスライムたちが覆いかぶさってくるのが分かる。


 人助けじゃないけど、初めて、少しは役に立てたかな?




「……ん?」

 目が覚める。頭はとても冴えている。


「ここはどこだ?」

 起き上がろうとすると重さを感じる。体を見ると沢山のスライムが乗っかっている。


「きもちわるい?」

 ぼんやりしているとスライムたちが言う。


「大丈夫だよ。ちょっと退いて」

 手で押すとスライムたちは僕の言う通りに体から退く。


「言葉が分かるの?」

 今更ながら僕の言うことを聞くことにびっくりする。


「わかる?」

「わかる」

 また体に集まる!


「分かった! とりあえず退いて!」

 体を起こして、改めて辺りを見渡すと、ヒカリゴケが咲き光る大きな空洞の中に居た。周りには大勢のスライムがノロノロと這っている。


「助けてくれたの?」

 スライムの一人を撫でる。するとたくさんのスライムが集まってくる!


「たすけた?」

「たすけた」

 プニプニと生暖かい体が体を温める。


「あ、ありがとう! 助かったよ!」

 一人一人のスライムたちの頭を撫でる。するとさらにスライムたちが集まる!


「ちょ、ちょっと待って!」


「たすけた」

 無表情だけど甘えるような声に頬が緩む。


「分かった分かった! だから落ち着いて!」

 とにかく頭を撫でる! するとスライムたちが殺到する!


「うーん! とりあえず可愛い!」

 ひたすら撫でる! 猫や犬よりも可愛いかも!


「ありがとう」

 撫でているとこの子たちに助けられたことを思い出したのでお礼を言う。どういう風に助けてくれたのか分からないけど雰囲気で分かる。だから感謝の言葉を伝える。


「ありがとう」

 スライムの一人が呟いた。するとじんわりの目が熱くなる。


「僕も、ありがとう」

 細かいことはどうでもいい! 僕は感謝された! ならこの子たちの傍に居たい!


「ありがとう」

 飽きるまで撫でることにした。


 とても気持ちが良かった。


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