0-1-02-02 オルマ
老人がここにやってこないと認識してから、本当に独りになってから、指を使っても足を使っても数えられなくなったほどに日数が経過したあと、心の声が聞こえない、長い髪がひときわ輝いた女が、俺に近づいてきた。
そのときの俺は体力の限界。もう動けなくて、地面に倒れていた気がする。老人に渡すはずの絵を抱いて。
「ここにいたのか」
声を聞いた俺は、目の前の者が女かどうかわからなくなった。女というほど高くなく、男というほど低くなかったのだ。とりあえずその者は驚いたような、優しい声で話した。でも俺は面識がなかったから、なんでそんなことを言っているかさっぱりわからなくて戸惑った。
「探したよ。名乗ってなかったね、自分はオルマ。……っていっても信じてくれないだろうし、なんでも良いんだけど。兎に角、おじいさんに絵を頼んでいたのは自分なんだ」
つまりあの老人が「誰かに渡す」って心の中で呟いていたのは、このオルマって奴に渡すためだったのか。
「……なんで俺の絵なの」
雑踏の中で、倒れて死にそうな俺の声は埋もれてしまいそうなくらい小さかった。
「自分は、絵を見たらその人の魂がわかるんだ。あ、でもこれは能力とかじゃなくて、長年の……なんだろう?でも本当にずっと君を探してたから、巡り合わせってすごいな~って……ははっ、って言っても意味がわからないよね」
とりあえず、俺を探してたのはわかった。理由はさておき。
「おじいさんは亡くなったよ、だからここにはもう来ない。それで代わりに自分がここに来たんだ。……一緒に暮らさないか?このままじゃ君死んじゃうよ、折角会えたのに」
「良いの?」
口を動かすのがやっとになってきた。オルマの顔は俺の髪が邪魔してるのもあり、ぼんやりとしか見えなくなった。
オルマは俺を抱えて、──────
そこからは俺は気を失ったらしい。安心と…限界だった。次に目が覚めたときには、雨ざらしでもない適温の環境の中で、きれいな服を着て整った髪型をしていた。夢の中にいるのかと思っていた。