0-1-01-02 翠の髪のボク
鮮やかな海に沈む陽が一日に幕をおろした。その頃にはもう大きな西瓜が抱えられるようになっていたが、それでもフラフラしていたし、俺よりも背が大きな人たちはたくさんいた。
俺の生活していた水の都は、海沿いに北、西、南に栄える3つの港、内陸部には、龍宮と呼ばれる建物に、都主という偉いリーダーと政治を者たちが集っている。俺は行ったことがないけど。
この頃は──水の都にいた頃は特に、各々の都に邪神が蔓延って横暴していた。世界は始まったばかりに終わりを迎えそうになっていたらしい。邪神を束ねる長・魔王につけこまれた創造神が神界から姿を消したから、フキョーとやらになったんだ、とかいう話を何度も聞いた。難しいことは当時の俺には全然わからなかった。
そのフキョーのせいで、北の港は廃れた。そこで商いをしていた者の多くは西に流れ込んできた。客足は増えたが、商人同士の言い争いも増えた。元からこの西の港にいる商人たちは優しくしてくれるけど、俺の面倒をいよいよ見れなくなってきたと思う。北の港から来た者たちは、俺のことをよく知らないからか、よく突っかかってきて庇いきれなくなってきたんだろうな。北の奴らからは良いことは1つも言われなかった。最近は楽しくなかった。
俺はひとりで市場を抜けて、海岸へ来た。陽が傾いてきていた。ここから夕陽を見るのが好きだったが、その日はなんとなく胸の辺りがじんわりと痛かった。
陽と海が手を繋いだとき、隣に誰か座った。翠の髪をしている。彼の姿は見たことがある。毎日母親とともにこの市場に訪れている少年だ。隣に座られてわかったが、俺と同じくらいの年齢、背丈をしていた。
「どうしたの?」
俺は声をかけていた。口が動いていた。彼の目から水が出ていたから。
「母さんと喧嘩した……俺が悪いのに、母さん泣かせて出てきた……」
彼の心の中に、母親を責める言葉も、自分を責める言葉もあって、俺は返答に困った。第一、俺は喧嘩をしたことがなかった。目から水が出ている理由も、母親の愛も、俺は知らなかった。
「……西瓜、食べる?」
「うん」
俺と彼は、ひとりとひとりだった。でも、この石垣に座るだけで2人になった。分けあった西瓜も2つになった。
その数日後、年老いた都主が倒れて、若い女性に政権が交代した。