0-1-01-01 片目のロッソ
幼少期は、水の都で過ごした。
俺は周りの者と会話ができるような年齢になっていたが、それより前のことは残念ながら何も覚えていない。
「今日も西瓜持っていくか?」
「うん、これが形が悪くて売れてないんでしょ、一文無しの俺にはこれでいいよ」
「はは、片目のロッソには敵わないな」
北、西、南の港のうち、西の港の市場を生活の拠点としていた。そこの野菜売りは優しくおおらかであった。俺にもこうして毎日何かしらの野菜をくれる。……優しいのは野菜売りだけではなかった。西の港の市場で商いをしている者はみなそうであった。薬売りも、魚売りも、衣服売りも、みな。
俺は物心ついたときからここにいたが、名前がなかった。それに親も存在していなかった。だからか、伸びすぎたボサボサの赤髪から片目しか見えていない俺は、『片目のロッソ』と呼ばれていた。
──俺はその呼ばれ方、嫌いだったけど。
市場で商いをしている者以外に、その名は軽々しく呼ばれたくなかった。『片目のロッソ』は、西の港の市場の可愛い坊やとしてのいい評判でもあったが、悪い評判でもあった。
俺は他者の心の声が自然と聞こえてしまうから、どことなくそれを聞きつけて気味悪がりに来た客もいた、ということは薄々わかっていた。つまり、俺は世間的に気味悪いやつだということだ。
そんな俺を置いてくれる、世話してくれるみなは優しかった。
ほんとうに、やさしかったんだ。