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0-1-01-00 暗い森林、魔女と少年
雨が降っている。
はあ………はあ、はあ……はあ……はあっ
女の袖にしがみついた。
「消してくれ!あんたが記憶の魔女だろ?!お願いだ…、俺の記憶を消してくれ……時間がないんだ…!」
女は初対面だ。だが、彼女が記憶の魔女であることは確実だった。だって、俺には彼女の口に出していない言葉が聞こえていた。それが、俺の魂にかけられた魔法だったから。
息切れは止まらなかった。この深い林の中に来るまで、この女に出会うまでずっと走っていた。逃げていた。
女は俺のすべてを知っているような目で見た。
「記憶が消えたらあいつに言われたこともすべて忘れられるんだ……そしたらもう、悩むことはないし、あいつを、あの方を思い出さずに済む。それで満足なんだよ……だから例え俺が────」
そこからの記憶はない。俺は────
───それで、俺はどうなったんだ?