第三章①
私は目を覚ました。
変なカプセルの中ではなく、ベッドの上で寝ていた。
薄くて白い布団を被せられ、拘束衣で寝ていた。
腕を交差させられ、足もベルトで括りつけられるように固定されていた。
外そうとしても外れない、動かそうとする度にガチガチと金属が擦れるような音がする。
どうやら鎖を巻いているようだった。
ここまでするのか?よっぽど私は警戒されているようだな。
揺れる水面で見た顔を見る限りではそこまで怖い顔をしてなければ、筋肉ばっかりのゴリラ女ってわけでもなかったがな…。
いやまぁ、結構もしかしたらブサイクかもしれないけどさぁ…というか警戒するとこが肉体的な拘束か?
多分、私は超能力者だぞ?というかマヤナって女が警戒していたのは超能力じゃないのか?
私は色々考えていたが、周りが静かだった。
夜なのか部屋は暗かった。
僅かに私の心拍数等が映っていそうなモニターの光が周りを照らす。
目が暗闇に慣れると病院にあるような白いパーテーションが見えた。
パーテーションの向こう側に寝息が聞こえる。
見張りが寝ているんだな。
多分、これもマヤナの指示だな。
え?マヤナの指示だって…。
いや、待て…確かに私は死んだはずだ…。
マヤナを殺してパソコンをスキャンするとマヤナは妹と言うことが分かったことも覚えている。
ん?これは以前と同じか…予知夢だったのか…。
いや、予知夢というかはなんだか記憶を引き継ぎながらスタートさせるような…まるでゲームのようだ…。
ならば予知夢を見ている際に色々試して戦ってみるか?いや、それは難しい。
もしも予知夢ではなく、現実だったらどうする?
もちろん、これが現実でない可能性もある。
しかし、さっきの夢とその前と比べて分かったことがある。
声が出ていない。
確かに小さい声ではあったかもしれないが自分が何を言ったかさえも記憶に残っていないのはおかしい。
しかし、何故か声だけは夢の中では出ない。
これで判別するべきか…だが懸念することがある。
マヤナが生きているということだ。
もしかしたらマヤナは私と同じ夢を見ていて何か対策を考えているかもしれない。
だが相打ち覚悟での特攻はしないはずだ。
私もマヤナも実験体ならばよほどのことがない限りは攻撃をしてこないはずだ。
更に言うとマヤナは私を警戒している。
前の夢で勝ったのに鎖で体の身動きを取らせないようにしているのが良い証拠だ。
さぁ、次はどう出る?
テレパシーで呼びつけられるなら発声してみるか。
多分、そろそろアキヒコが起きるはずだ。
私はそれまで何もせず待つことにした。
すると、何かの音が鳴った。
「…ん〜なんだぁ…起きたのか?」
男の声が聞こえると天井に向けて小さな光が照らされた。
ベッドから降りたようで足音が聞こえた。
「ん〜どうやら、起きているみたいだな…」
すると光が瞼の隙間から入り込む。
反射的に顔をビクつかせてしまった。
「こちらアキヒコ・キムラ、三時二十二分、0四0九号室にてTHX-一一三八CAの起床確認…」
よしよし、やっぱりアキヒコだな。
私は顔を少し上げて目を開いた。
ボンヤリとした光の中でアキヒコが立っていた。
茶髪の若い男でペンライトを右手に持っており、少しカッコよかった。
アキヒコは私と目が合うと焦った顔をしてどこかに連絡を取ろうとした。
「こちらアキヒコ・キムラ、THX-一一三八CAが体を起こそうとし、こちらを見ています…」
やっぱり臆しているのかは知らないが逐一報告するようになっていた。
よしならば、また誘ってみるか…。
「うっ…あぁ…」
え?まさか、私…声が出ない?
そんな馬鹿な…もしかしてコールドスリープの影響だと言うの?
「ん?なんだって?何を言っているんだ?こいつは?どうしたんだ?」
案の定アキヒコには全く伝わらない、声が出ないのだから伝わるわけがない。
いや、まだ慌てる時間ではないぞ、私の声が出ないのならばジェスチャーならどうだ?いけるかな?
私は必死に内股にしようとしたが上手く出来ない。
拘束衣を着ていたことを忘れていた。
しかし、なんとか足や腰をくねらせるとアキヒコに伝わったみたいだ。
そしてこの後とても恥ずかしいやり方をさせられるのだった。
まぁ、多分病院で凄い怪我した人なら想像つくと思うが尿瓶でやるからだ。
更に恥ずかしかったのは私は紙オムツをしていた。
おい…なんなんだ、これは…いや、意味があると言えばある。
分かってはいるが…いや、もはや何も言うまい…。
予知夢の時はスキャンに夢中で気づかなかったが嫌な感触がしたのはそのためか…。
あ、尿瓶で尿を取る描写は絶対しないぞ。
「よしよし…良い子ね、出来たわ結構出たわね…」
ミナがちょっと興奮した表情を見せる。
「へぇ〜意外と普通の色しているんだな…」
アキヒコは尿瓶の中を覗き込む。
「もうッ!そんな変なことを言わないのッ!この変態野郎がッ!」
ミナはアキヒコに叫ぶ。
なんなんだこのやり取りは止めろよ…と私の声が出たら言ってやりたい…。
私は自分の顔は見えないがかなり赤くなっている感じがする。
いや、かなり顔が熱い、絶対顔が赤くなっている。
「おいおい、変態野郎ってなんだよッ!?それに結構出たとかヤラシイ感じで言っているのはお前の方じゃあないかッ!?違うかッ!?」
アキヒコが大きな声で答えた。
ミナが少し顔を赤くしてアキヒコに食ってかかる。
「私はただ呟いてるだけですし、別に変な感じでもなかったじゃあないのッ!?キムラが言ったことと一緒にしないでよねッ!」
あぁ〜これはかなり辛いわ、死ぬより辛いかもしれないなぁ〜。
ただ、今から本当に死ぬのは嫌だけどね…。
これなら私は言葉を出来なかった方が幸せだったのかなぁ〜。
「あ〜ほらほら、見てみろよ?ミナがそんなことを言うからTHX-一一三八CAも顔赤くしてるぞ〜」
こっちを見るなよ、この変態野郎!
それは良いとして…そういえば、マヤナが一向にこの部屋に来ない。