第二章③
ミナが呻きながら顔を埋めると次は両手で顔を覆うと手の間から赤い何かが垂れ流れた。
血だ、どうやら鼻から血が出ているようだ。
手が開くと両方の鼻の穴から血が流れているのが分かった。
すると指を曲げ、爪を立てた。
ガリガリとかビチビチとかよく分からない音がした。
顔を掻き毟り始めたのだ、爪がめり込んでいくと裂けた皮膚から血が見えた。
私も歯を食いしばり、力を加えていくと歯茎から血が流れるような感覚がした。
相手もだが私も苦痛が来るのだ。
更に鼻から何かが垂れ流れる感覚がした、どうやら私も鼻血が出たようだ。
モニターから機械音がする、明らかに異常を知らせるような音だ。
すると視界が赤くなり、サイレンが鳴り響いた。
「警戒レベル五、警戒レベル五、0四0九号室にて、実験体THX-一一三八CAを直ちに捕らえよ、生死は問わない…繰り返す…」
天井のスピーカーから音が聞こえる。
仕方ない、来た奴みんなまとめて殺すか。
ミナの方の念がかなり肥大しているのを感じると同時に頭の中に何かが弾けるイメージが湧き上がった。
するとパァンと何かが弾ける音が響いた。
ミナの頭があった場所から血が吹き出し、天井を赤く染めた。
非常灯による赤とは違う赤色に染められていた。
更にパァンと弾けた。
アキヒコの血でモニターが赤く染まった。
するとかなりの人数の足音が聞こえた。
こちらに来たな、かなり早いお着きだことで…。
ドアが開いた。
「へぇ〜あんな短時間で二人も殺すなんて…中々やるじゃあないの?ねぇ…THX-一一三八CA?」
クソ…今一番に聞きたくない女の声がする。
いや、ある意味一番聞き馴染みがある声だ。
そりゃあそうだろうとも…自分の声によく似ているからね。
マヤナが私の目の前に現れた。
次は負けない、最初からスキャンで殺しにかかってやるッ!
「うぅ…いきなりか…ご挨拶ね…」
マヤナに念を送る。
すると私の頭の中に何かが蠢くような感覚がした。
マヤナも念を送ってきたのだ。
どうだ…前よりかは超能力が強くなっているはずだが…果たして…。
すると、マヤナがテレパシーで話しかけてきた。
(フフフ…THX-一一三八CA…中々良い能力を持っているわね…でも私には勝てないッ!)
私の足に何か暖かい物を感じた。
また失禁したのかそんなの関係ないッ!気にしている場合ではないッ!
(いやいや、それはどうかな?)
私もテレパシーで話しかける。
するとマヤナは蹲り、大きな声で呻くと嘔吐し始めた。
ビシャビシャと嘔吐物が床に落ちていく音がすると更に足から何か垂れ流れていく、マヤナも失禁したらしい。
後ろで待機していた警備員達がザワザワと落ち着かなくなる。
口々に大丈夫か?とかこのままでは負けるのでは?とかションベン漏らしてやがる気持ち悪りぃとかちょっと他人事みたいに考えているのもいた。
(あらあら、お漏らしたのね…本当に悪い子ね…)
私がクスクス笑いながらテレパシーで話す。
するとマヤナが顔を上げて私を見た。
目からは涙が流れており、口には唾液と血が混じった物が溢れていた。
咳をする度に飛び散り、吃逆も度々する。
「や、やめてよ…痛いよ…」
マヤナが弱々しい口調でテレパシーを使って話しかける。
何を今更そんなことを言って…。
(やめないわよ、だったら先にあなたからやめなさいよ…頭が痛くて仕方ないわ…)
「無理よ…スキャンを始めたのはあなたからだし、それに乗っかるようにスキャンを始めたからあなたがやめないと止まらないのよ…」
マヤナが吐血した。
すると警備員達がパニックになり、部屋から離れていった。
そりゃあそうだ、マヤナがこの施設で最強の人間だと言うのは前のやりとりで分かっていたことだ。
こうならないと話にならない。
さて、マヤナを倒したら自力で歩くか何か乗り物でも探すかな?と呑気に思っているとマヤナがミナと同じように両手の指で顔を掻き毟り始めた。
私によく似た顔がズタズタになるのはちょっと忍びないような気がするが仕方ない、こいつを倒さないと私が危ない。
(フフフ…さてさて、いつまで持つかな?)
私がそう言うと少しずつだが頭の痛さが和らいでいくのを感じた。
なぁんだ〜嘘ばっかり言ってさぁ…きちんと自分からスキャンを止めることぐらい出来るじゃないの…と思っていたがマヤナの様子がおかしかった。
「痛い…痛いよぉ…」
(…そんな小さな子供みたいなことを言っても無駄よ、私はあなたを殺すわよ)
私はヨロヨロと立ち上がった。
前よりは少しマシに歩けるようだった。
私は吐瀉物を気にせず踏みながらマヤナに近付き、足で顔に踏みつけた。
ベシャと嫌な音がしたのは気持ち悪いが夢の中でとは言え、私の心臓を潰したんだからかなり気分が良かった。
するとマヤナが頭を振り、私の足を払いのけた。
私はバランスを崩し、咄嗟に受け身を取ろうとした。
しかし、拘束衣を着ているため受身は取れず右肩から倒れた。
ビシャと嘔吐物や尿や血が混じった水たまりに入ると鼻や口の近くに飛び散る。
思わず吐きそうになったが耐え、私は念を強めた。
(あ〜もうッ!気持ち悪いじゃないッ!よくもやったねッ!?)
するとマヤナは顔を上げた。
気持ち悪い水たまりの中に顔を埋めてしまったせいか前髪や顔中に色んなものが掛かってあった。
うわぁ…凄い顔ね、でもそれはお互い様よね。
「だ、だってぇ…ヒックヒック…お姉ちゃんが悪いじゃんかぁ…ッ!」
マヤナがそう叫ぶと周りのガラスが割れた。
馬鹿でかい声ではないからこれも超能力の一つなのだろうか?
あんまり良い能力じゃあないな。
ガラスが割れる程だが私は咄嗟に超能力で防御することが出来ていた。
我ながらナイス反応だ。