第一章③
「0四0九号室ッ!応答せよッ!現在の状況はッ!?」
スピーカーからまた声がした。
すると初老の男がテーブルの上に置いてある灰色の固定電話の受話器を取る。
「実験体THX-一一三八CAは立ち上がり状況に困惑しているのか沈黙中ッ!ハル・ジェフ・イナー研究員が負傷ッ!意識はない状態ッ!」
私は初老の男に近付き、右手を振り上げた。
すぐに電話のフックを押そうとしたが電話を破壊してしまった。
右手で電話を切るようにしただけだが、文字通り切ってしまったようだ。
更に電話だけでなく、テーブルまで破壊してしまった。
どうやら私は力が有り余りすぎているようだ。
力加減をしないと死人どころか何もかも破壊してしまうかもしれない、気をつけなければ…。
すると初老の男は銃を向けた。
「く、来るなッ!来ると撃ち殺すッ!近付くなッ!」
私は初老の男の首を掴もうとすると右のこめかみに衝撃が走る。
少し遅れて大きな音が響き渡る。
どうやら撃たれたようだ、しかし、初老の男ではない。
銃口から煙が出ていない、ならば誰だ?
痛さはなかったが音が大きいからびっくりした。
心臓に悪いから腹が立つ。
床に落ちた弾丸を拾うと少しへこんでおり、半分に潰れていた。
私は右を向いた。
そこには若い男が銃を両手に持ち、こちらを睨んでいる。
どうやらこいつからのようだ。
私は弾丸を左手で握り潰した。
「い、いかん…ここから早く逃げろッ!逃げるんだフォミ・ヤチ君ッ!」
私は若い男に近付いた。
するとまた額に衝撃が走ると次は唇に触れた。
その瞬間だった。
私は口を開き、微かに風を切るような感覚を噛み締めた。
私の歯の間には弾丸が挟まっていた。
すると、若い男の顔が真っ青になっていく。
私は弾丸を反転させ、スイカの種を吐き出すように若い男にぶつけた。
弾丸は額にぶつかるとめり込み、壁に突き刺さった。
若い男の額から赤い噴水が出来上がると後頭部は柘榴が実った。
「た、助けてくれ…私は研究をしただけだ…それに私達は君をコールドスリープから目覚めさせただけだ…」
初老の男は銃を床に捨てた。
私は銃を踏みつけるとメキメキと音がするのを確認した。
「」
私は何か話したが何故か耳に入らなかった。
何故だ?よく分からないが何か尋ねたらしい。
何故、そこだけ考えが残らないんだ?
「そ、そうだな…ま、まずは…何が知りたいか…だ」
それを聞いた瞬間、私は初老の男の足を蹴った。
軽く、所謂弁慶の泣き所というのを蹴っただけなのだがパキッとかベキッというような音を立てて曲がらない筈の足が曲がった。
男は苦痛の声を上げるとすぐに奇声を発した。
どうやらかなり痛いようだ。
尻餅をつき、悶える。
そりゃそうだ、流石に無事ではない。
私は目を瞑った。
すると初老の男は頭を抑え始めた。
「や、止めろぉ…それは…テレパシーではなく…」
すると男の思考が頭に流れ込む、私自身にも少し痛みというか違和感のようなものがあるが思考を淀みなく読み取ることが出来るため楽だ。
私は意識してやっているわけではない。
だが自然と出来たし、体が勝手に…いや、頭が勝手に動いた感覚だった。
すると頭にキィーンと音が鳴り響く。
なんだ?と思っているとまた鼻から何かが垂れ流れてくる。
私は右手で拭うと掌が赤く染まっていた。
鼻血だ。
そう思った瞬間初老の男は頭を抑えていた手を離すと大の字になり、呻き声を上げたと思ったら顔が膨れ上がった。
みるみると赤く染まっていく顔と口と鼻と耳からの血が垂れ流れたと思った瞬間だった。
パァンと弾けた。
眼球や歯が天井にぶつかり、床にばら撒かれていく。
これも私の力か?
「いいえ…違うわよ、あなたの力じゃないわ…」
声がした。
しかもこの声は…私の声?
声がする方を見ると女が立っていた。
少し頰が高く口が少し大きく目も大きかった。
カエル顔というべきか、そのような顔だった。
髪は腰の辺りまであるようでチラッと見える。
服は白い服で白衣とは少し違う形をしていた。
靴はヒールではないが少し踵が高い、ブーツを履いていた。
「残念ね…今のは私の力よ…」
彼女は私だった
するとまた頭に何かが貫ぬくような痛みを感じた。
槍というか目の奥から何かが入っているようなそんな感覚であった。
呻き声をあげると彼女はクスクスと笑う。
キューっと左頬が釣り上がり、見下したような笑顔で私を見ている。
いや、なんだか自分で自分をみているようだった。
さっきの私もあんな感じだったのかと思うと少しゾッとした。
「あらあら?あなたは…笑っていなかったわ…ずっとしかめっ面だったのよ…」
クッソ…どうやら思考を読んでいるようだった。
同じことが出来るようだった。
ならば…私にも出来るはずだ。
私は痛い頭を抑えながらテレパシーを送るように念じた。
変な気がするがこのような表現が一番しっくりきた。
すると彼女は口をへの字にしたのを見たので私はざまあみろ、痛いだろ?と言った表情をしたようで無意識に右頬が上がる感覚がした。
更に彼女は目を隠すように頭を手で覆い始めた。
よしよしッ!効いてる効いてるッ!!
私はそう確信しながら彼女に一歩ずつ近付くと少し手足が痺れ、何か暖かくなっていく。
気のせいだろうと思い、構わずに近付くと私は彼女に向かっていく。
右手を振り上げたところで私はまた鼻から流れ出る。
また鼻血だ。
しかし、鼻血だけでなかった。
今度は太ももに何かが伝う。
失禁したのか?いや、違う。
更に下腹部に痛みが走る。
こんな時に腹痛かと思い、痛みを抑えるように下腹部を抑えようとすると血が垂れ流れていた。
どうやらかなりやばいようだ。
すると彼女は涎を垂らしながら私を睨みつける。
目はかなり充血しており、まるで今に飛び出しそうなぐらい見開いていた。
「フ…フフフ…まさか…ここまで力をつけていたとはね…分からなかったわ…意外だったわ…」
彼女はまたクスクスと笑う。
私は痛みのあまりその場に座り込むと彼女が私の顔を覗き込む。
鼻息が荒く、時々血が飛び散る。
「フフフ…でも…本当に残念ね、本当よ、嘘ではないわ」
彼女は私の顔に触った。
手の感覚が暖かった。
「…あなたはあまりにも危険すぎるわ…本来のあなたと戦えないの悔しい気がするけど…本当に悔しいね、でもこれは仕方ないね…」
すると私の胸に何かが湧き出るような感覚がした。
胸を見ると彼女の拳が中にめり込んでいた。
すぐに引き抜くとビシャッと音がする。
血だ。
私は前のめりになって倒れた。
ビクビクと体が震えてくると思うと私に声をかける。
「さよなら…THX-一一三八CA…」
私は目の前が真っ暗になった。
何かが聞こえる。
「…おいおい、大丈夫か?」
「それにしても酷いな、二人とも酷い死に方だ…」
男の声だ、どうやら大勢のようだ。
嘔吐している者もいるようで呻き声が聞こえる。
「もう大丈夫よ、もう少し覚醒していたらアウトだったわ…」
私の意識が遠のきながら思った。
しまった、焦りすぎたようだ。
もう少し慎重にいくべきであった。