ホワイトチョコレート
まっすぐと落ちる雨は、まるで世界に私たちしかいないよう錯覚を起こさせる。
「ホワイトチョコレートってさ」
雨を眺めるだけの時間は、どれくらいたったのか。心地よい音を遮ったのは、沈黙に耐えることができなくなった彼の方だった。
「カカオ入ってないって知ってた?」
雨が当たって、木の葉が揺れる様が、なんとも不思議な動きをするから目が離せない。
「ココアバターでしょ」
ふと、雨に触れたくなり立ち上がった。すると、右手を引かれ、思わず後ろに倒れそうになる。
「なに?」
そういって彼の顔を見ると、口を半分開けて、ただでさえ大きな目をさらに大きく見開いていた。
「濡れるよ」
彼はそう言うと手を放して、下を向いた。彼の顔は、黒い髪で隠されてしまった。
突然の雨に、思わず公園のベンチに避難したものの、3人程度が座れる椅子が一つぎりぎり入っている屋根の下。彼と二人だけだということで息が詰まりそうになる。ベンチにもう一度座りなおして、また木の葉に目をやって雨が上がるまでの時間をやり過ごす。
「僕のこと嫌いなんだよね?」
彼は相変わらず、髪で顔を隠したまま、そう言った。雨の音にかき消されそうなその声を無視することができないのは、まだ私の中にやさしさが眠っていたのだろう。
「別に、なんとも思ってない」
自信がないような、か細い声を発する度に、何かいらだちを感じるのはたしかではあるが、彼のことが嫌いかどうかなんて考えたこともなかった。
そっかという彼の声は、独り言なのか、私に向けていっているのかさえも判断がつかない。
苛々する。
再度訪れた沈黙は、先ほどとは違い、時間の流れが遅い。一人だったらよかったのにと何度も声に出さずに復唱した。
雨の音も忌々しく感じ、雨に打たれる葉は、なよなよしく感じる。すべて彼のせいだ。
「帰る」
そういうと、彼は驚いたように私を見た。そして、まだと小さく呟いた。
「なに?」
「雨が」
「いつやむのかもわからないのに待つのにも飽きたから」
そう言って、出ようとすると、彼に肩をつかまれた。思わず彼を見ると、白いパーカーを差し出してきた。
「いらない」
「風邪! 引くから!」
少し大きな彼の声に驚いたが、それを彼に悟られるのが癪なので、ありがとうとだけ言って、パーカーを受けとり、肩にかけて、フードをかぶって走って彼から離れた。早く家に帰りたかった。帰り道、走りながら、早く温かいシャワーを浴びたいと思いながら、かえってすぐに洗濯機を回せば明日までには乾くだろうと考えていた。
次の日、彼は学校を休んだ。先生が彼は風邪だと言ったとき、呟かずにはいられなかった。
「ばか」
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