氷の床
私たちは軽く相談した結果、前から来、影人、きな、最後に私という順で、一人ずつ中に入っていった。
キリリと肌をなでる冷たい空気が、私たちを出迎えた。
表面が荒くザラザラとした氷でできた階段を数段降りると、中には階段の先にある踊り場のような空間と、その先に人一人なら余裕で通れる程度の幅の通路で繋がれた、大きくて分厚い四角い氷の塊が構えていた。その上には所々、氷が小山や岩の形をして盛り上がっている。まさに土台と言うのが相応しい。
その土台自体は、四隅が柱で上から下まで支えられているだけで、周りは壁に接していないし、柵のようなものも見られない。下は光が届かないのか、暗くてよく見えず、奈落の底を彷彿させた。
「ここ、滑って落ちると危険だよ。気を付けて」
私はたぶん大丈夫だけど、特に影人は危ないかも。
「ねえ、らい――」
「うわああっ!」
はい?
私が声を掛けるか掛けないかの瞬間、素っとん狂な声が聞こえた。声の主は私がちょうど呼びかけた来本人である。
事の発端はあいにく見ていないが、通路より少し左に逸れた直線上を、不恰好に体を抱えた体勢のまま滑っていた。
言った先から……。
「やば、止まらな……!」
「ちょっと、二人とも避けて」
顔を青くしているきなちゃんと状況が分かっていない影人の二人に声をかけてから、私は今まさに来が滑り着こうとしている先に、視線と意識を集中させた。
下の段に跳び降りるのと同時に、ぐいと体をひねる。腕が前に上がり、目標の場所を捉えた。
今だ!
――凝縮。
すぐさま、土台の端に水泡が現れた。大丈夫だ、間に合う。
――凝固。
集まった水は、一瞬で薄い氷の壁に変わった。いつもなら、もう少し時間が掛かってもおかしくないものだが、今回は速い。たぶんここの温度が低いおかげかな。
パリィンッ
氷の壁は、できるのとほぼ同時に、乾いた音をたてて割れた。バラバラと崩れ去った破片は、暗闇の底へと消えていった。
その衝撃の反動で、来はどうにか止まることができた。
「間に合った……」
実は私も、ちょっと心臓がドキドキしていたりする。
ちなみに今私がやったことは、別に腕を上げなくてもできることだが、さらに時間と集中力がかかる。
腕が使えないって、けっこう不便なんだな。
……あっ、すっごい今更だけど、白の精に封具のことを訊くの、すっかり忘れていた。
次はいつ話せるんだ?
「た、助かった……」
来は自身の体についた氷の欠片を掃いながら、大きく息を吐き出した。
私もほっと胸をなでおろす。
「来ー、そこから動かないでねー」
「あっ、ハイ。ココニイマス」
普通にいったら通るはずの通路の先には、ちゃんと止まれるように氷の塊があるのにね。どう通ったらストッパーのないところに出たのだろうか。
とりあえず、状況を確認しておかないと。
「きなちゃんと影人はここにいてね」
へい、アクション!
もっと動きのある話とかシーンを書いていきたい、です!!