合流
「ふーー」
朝に家を出てから、ようやく一息つけた気がする。私は大きく息を吐き出しながら、ベッドに座り込んだ。フカフカのベッドに沈みながら、私はこれまでのことについて振り返ってみた。
夢に現れた白の精、呼び出されて移動して、こんなところまで来てしまった。
そういえば、二人とも、封具について全く驚きを見せていなかった。たぶん、ここの人たちにとって、知って当然の事柄なのだろう。私がこのことを知らないってことを言うべきなのかも、正直迷う。必要があればでいいかな。
それに、あの白の精も謎なんだよなあ。本心が見えないというか、本当にしたいことは何なのだろう。
ドンドン!
また扉の叩く音がした。
「よっ、星河! 連れてきた!」
来の声が威勢よく響き、今度は返事する前に扉が開かれた。
「紹介するな。あっちは星河。で、こっちがきなだ。」
来は交互に示した。きなと呼ばれた子は、私たちよりやや幼い見た目で、水色の髪を前でゆったりとリボンで二つに結っている。
「きなちゃんの封具は……」
覚えたての言葉を使ってみた。例の無機質な物体は、彼女の首をぐるりと一周している。
「見ての通り、声だな」
「だよね」
と言ってはみたものの、首を封じたらどうなるんだ? とか考えていた。
常識がないってツラい。
そのとき、聞き覚えのある声が響いた。
――冒険者の皆さん、初めまして。お集まりいただき感謝します――
白の精だ。夢の時よりも無感情で、森で話した時よりも厳かな雰囲気が感じられた。
案の定姿は現さず、私たち四人のちょうど真ん中あたり、天井付近から声が聞こえている。
――これからあなたたちには、この四混の地を旅していだたきます――
白の精がそう言うと、あの夢の道案内と同じように、脳裏に風景が広がった。はじめにこの宿が映ると、次第に小さくなり、より広い範囲が見えるようになると、映す場所を左に移動した。
映像はどこか遠くから俯瞰しているらしく、一目で違うと分かる四つの地形が、はっきりと見えた。
上を北とすると、北東に灰色の雲のかかったオレンジの砂漠、そのやや南西に氷でできていると思われる青白い洞窟が、その更に西には鬱蒼とした森の緑が広がり、その森を北に進むと、赤みがかった火山が構えている。
なるほど、確かにこんな主張の強い四つが、これほどの近さで共存しているとは、普通では考えられないのかもしれない。
――旅する順番はあなた方にお任せします。ただし、四人全員で同じ土地を巡ること。
また、この空間では空腹や排泄などの心配は要りませんので。ただし、体力の疲労は睡眠によって癒すようにしてください。
最後に、一つ注意を。皆さんに旅していただくのは神聖な場所ですので、どうか落し物などはなさいませんようにお願いします。
それでは、健闘を祈ります――
それから、白の精の言葉は聞こえなかった。
しーんと静まり返った中、口を開いたのは影人だった。
「……もう出発しますか?」
「私はいいけど……みんなは休まなくて大丈夫?」
「俺はいいよ。きなはさっき着いたばかりだけど、疲れてるか?」
きなちゃんはふるると首を横に振った。
「じゃあ、下に降りようぜ」
ロビーのテーブルの一角に、私たちは向かい合って腰を下ろした。柔らかな灯りに照らされ、木のぬくもりが感じられる心休まる場所だ。
ここには、私たち以外に客はいないらしく、宿に着いたときに出迎えたあのメイドが一人、待機しているだけだった。というか、逆にこんな立地で働いている人がいることの方が驚きだ。失礼かもしれないが、そんなに客が入るとは思えないし。
メイドが、私たちが席に着くのを見届けた後、飲み物の注文をとり、用意してくれた。親切にもストローがついているので、お行儀は悪いが私も難なく飲める。
「さっそくだけど、どっから廻るか決めようぜ」
来が切り出した。
「ええと、先ほどの映像からすると、砂漠と氷の洞窟がここから近いみたいでしたね」
「そうだね。やっぱり引き返さないで、ぐるっと一周できる方がいいよね」
「確かにそうだよな。きなはどう思う?」
唐突に来が尋ねた。
そういえば、どうやって彼らは名前を訊き出したのだろうか。
そう思っているうちに、きなちゃんは持っていたリュックから、ごそごそとスケッチブックとペンを取り出した。
そっか、筆談か。準備がいいことで。
『わたしも、同じいけんです。』
小さくて丸っこい可愛らしい文字だ。本人の性格を表しているみたいに思えた。
「オーケー、じゃあ砂漠か氷窟のどっちかだな」
そう言って、来は飲み物のグラスを傾けた。
うーん、どっちの方が効率いいんだろうね? 個人的に、疲れそうな山登りは後回しにしたいから、砂漠から時計回りに行くのがいいかな。
「俺なら……うーん、実際どっちでも変わらないような……」
「私は、火山は最後にしたいなー」
私もストローを口に咥えつつ言った。
「あの、さっきの映像で見たと思うのですが、氷窟の西側は一面に氷が張ってあったので、そこから森へ進むのは、難しいのでは……?」
そうだったっけ? 私はそこまで注意深く見ていなかったぞ。
というか、封具があってもあの映像は見られたんだ。……だからこそ、風景にだけ集中できたのかな。
「影人、よく見てたね」
「俺も同感だわ。さすがだなー」
「い、いえ、そんな……」
影人は褒められて、慌てながら少し照れた。
「それじゃあ、最初に氷窟に行って、次に砂漠に行ったあと、森、火山の順番でいいか?」
「うん。そうしよっか」
「僕もそれでいいと思います」
『さんせいです。』
満場一致の決定だった。
「それじゃ、出ようか」
そこで全員、飲み物のグラスを殻にして、宿から出た。
こんな一気飲みして、あとでトイレに行きたくならないかな……。ここだとそれも大丈夫なんだっけ? どれだけ便利なんだ。ずっと居たいぞ。
7月中にもう一話出せてよかったー(*'▽')
そして、イラストの方もようやく描けました!
登場人物の見た目もあるので、よかったら見に来てください!
(http://tegaki.pipa.jp/710090/25218023.html)
(http://tegaki.pipa.jp/710090/25221657.html)
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次話から章が変わります。
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