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可創源日  作者: 空端 明
序章
4/10

必然の宿

 ほんの一瞬だった。

 一層眩しさが増して、まばたきをする間に、辺りにはもはや別の風景が広がっていた。


 薄暗い森の中とは打って変わり、平坦で明るい草原の真ん中に私一人、立っていることが分かった。

 周りに木は一本も見当たらず、植物も先ほど見たものより背の低い草に小さな花がたまに顔を覗かせている程度だ。

 人もいない、動物もいない。それなのになぜか、先ほどの森よりも生命に溢れている気がした。それは、優しい風が歓迎するように肌をなでたからか、太陽の光が草原一面を照らして植物が生き生きとして見えるからか。


 その風景に見とれること数十秒、我に返って、白の精に言われた通り、宿を目指そうと一歩踏み出したときだった。


 ジャランッ


 重たい無機物がぶつかり合う音がした。


 ……白の精は、何か大事なことを言い忘れたんじゃないか。


 音のした方――腕を見ると、金属色のなんとも立派な鎖が、枷のように、腕全体に巻きついていた。


「何、これ……?」


 腕の付け根から始まり、手首にまで至る無機質なそれは、見た目通り確実に腕の自由を奪っていた。

 試しにいろいろ動かしてみたが、どう足掻いても重力に従う以外に自分で動かすことはできないようだ。


「聞いてないよ……」


 しかし、見かけによらず、重さは感じない。きっとこれにも、意味があるのだろう。

 その理由を白の精に問い質すためにも、私は必然の宿へ急いだ。


**********


「ようこそいらっしゃいました!」


 白の精から言われた通りにまっすぐ歩いた先には、古めかしい木造の建物がぽつんとあった。外装からすると、ところどころ傷のついたログハウスといったところか。

 私が近づくと、中から一人の小柄なメイドが元気よく出迎えた。


「お待ちしておりました。冒険者の方ですね! ご案内いたします!」



 階段を上がり通された所は、宿と呼ぶには申し分のない、ベッドとチェストが置いてあるだけのシンプルな部屋だった。


「何かありましたら、何でもお申し付けくださいっ!」


 メイドはそう言うと、扉を閉めて部屋から出ていった。



 ここで何をしたらいいんだっけ。冒険を始めるのは今日だと言っていたから、ここで寝泊まりするわけではないだろうし。

 えっと、合流か。


 そう思ったとき、人一人分の足音が近づいてきた。その足音は、私の部屋の前で止まると、


 トントン


 扉のノック音に変わった。


「はーい、開いていまーす」


 私から扉を開けてやりたいのは山々だが、この腕で、それは叶わない。


「じゃ、お邪魔しまーす!」


 足音の主は活発そうな男の声で返事をすると、遠慮なくガチャリと扉を開けて入ってきた、のだが……。


「おうわっ」

 ジャララン


 私が相手の顔をしっかり見る間もなく、彼は何かに足を取られたのか、思いっきり私を押し倒し、上に覆い被さった。


挿絵(By みてみん)


 視界が……何も見えない……。


「いて……」

「うっ……あ、ごめん。ホントにごめん!」


 彼はそろりと下りて、私を起き上がらせると、そのまま正座になった。


「い、いいよ。悪気があったわけではないんでしょ」


 そりゃもちろん、何事かと焦ったけど。


 そう答えてから、ようやく彼を見ることができた。短めの髪は茶髪だが、毛先が鮮やかな緑に染まっている。目も同じ緑色をしていた。黄緑色の丈の長い服にベルト、そして足には……私の腕のものと同系統だと推測できる、枷の鎖が巻かれていた。


 そっか、さっき転んだのはこのせいか。


 彼は、黙って状況を把握している私の視線に気づいたのか、体育座りになって、それをよく見せてくれた。


「俺の封具、足だったからさ。まだ慣れなくて」


 へへっ、と軽く笑いながら説明してくれた。ふむ、どうやら封具と言うらしい。


「立てるか?」


 彼は器用に立ち上がると、私に手を差し出した。


「うん……いや、手伝って」


 床の真ん中に背凭れもなく座った状態からだと、腕を使わないと上手くいかなかった。私も早く慣れないとかあ。


「いいよいいよ、ほら」


 腕の鎖を上手に引いて、私はすんなりと楽に立ち上がることができた。

 この人、たぶんエスコートとか上手いな。


「あ、自己紹介がまだだったな。俺は(らいき)ってんだ。よろしくな!」


 来と名乗った彼は、少し後ろへ下がって、扉の向こうから何かを引き寄せた。


「で、こっちが影人(えいと)

「……ええと、よろしくお願いします」


 あれっ、もう一人いたの?!


 丁寧にお辞儀をして、おずおずとした調子で言った彼は、やや長めの金髪を後ろで一つに括り、暗めの色の服を身に着けていた。顔の上半分には、例の封具がついている。これは視界を封じているのか。


「よ、よろしく……私のことは星河(せいが)と呼んでください」

「星河な、よろしく。俺の方は気楽に呼び捨てで頼むわ」


 影人も握手を求めて手を差し出しているが、残念ながらこちらからそれに応えることはできない。

 ええと、どうしよう?


「あっ、星河の封具は腕なんだ」

「なんか、ごめんね」

「いえ、こちらこそすみません」


 ちなみに封じられているのは腕だから、手というか、指は自由なんだけどね。


「よし、全員で四人だからな。俺らはもう一人を探してくるわ。見つけたらここに連れてくるから、星河は休んでて」

「え、あー、うん。分かったー」


 申し出を受け入れようとして、私は一つの疑問を思い出した。


「そういえば、来はどうやって移動してるの?」

「ん? ああ、俺、こう見えて魔法が使えるんだよ。だからこうやって――浮くことができる。」


 そう言いながら、来はやや自慢げに、足元に薄紫色の靄を発生させ、それが消えたかと思うとそのままスーっと音もなく移動して見せた。


「ああ……そういうこと。便利だね」


 つまり、足音が鳴ることもない、と。納得だ。


「んじゃ、あとで」


 来はニッと笑って手を振ると、影人を引き連れて部屋から出ていった。

更新のんびりになってますすみません。

あと一話で序章終わります。あと数話でストックも切れます。

しごと遅いけど、焦ってもいいことないので許してください。


10/25追記

挿絵追加しました&本文も少し加筆しました。

みてみんさんに登録したので、挿絵は見られますが、背景の色合いが若干違う挿絵用イラストはこちら→http://tegaki.pipa.jp/710090/25315585.html


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