初めの冒険者
「……? 伝説の話とかではないのですか?」
「ええ、確かに、昔の話でもあります」
もともと内容を教えるつもりだったのだろう。
白の精はそれから、せっかくなので内容をお教えしますね、とその冒険者の話を語ってくれた。
「……今から二千年ほどむかしのことです。あるところに、一人の迷い子がおりました。
寂しくて泣いていたその少女は、とある人に勧められて、四混の地を旅することにしました。
少女がどこに行っても、地面の花も、森の草木も、風も、空も、ずっと少女の傍を離れませんでした。
旅をするうちに、一人ぼっちだったその子は、どんなときでも本当は一人ではないことを知りました。
少女の喜びは、きらきら輝く結晶となって世界に染み込みました。
すると、うす暗かった世界はほんのすこし明るくなったのでした」
白の精は、どこか懐かしそうに語るのだった。
「……っていう感じのお話です。このちいさな変化は、世界にとって良い変化でしたので、そのあともまた行われるようになり、今でも数十年おきに旅しています。この旅には、世界がより良くなるように、という意味が込められているのですよ」
子どもが幼いときに、絵本で読んで聞かせられるような内容みたい。
そんな印象を受けた。
「そうなんですか。……あれ? では、なぜあなたを助けることになるのですか?」
私は、夢の始めを思い出しながら問い返した。
「あら? ああ、それはもちろん、私はこの世界を見守っているから。世界のためになることは、この世界の人を救うことになるでしょう? 私を助けるというより、世界の皆を、という意味ですね」
ん、なんか誤魔化された気がする。
「さて、実はね、その冒険の始める日は決まっているのです」
「……もしかして」
「ふふ、お察しの通り、今日なのですよ。だから、今日答えてくれないと、人手不足で困っていたところでした」
「人手不足? 一人ではないということ?」
「ええ。現在では、四人で廻ってもらっています……では、そろそろ始めましょうか。この二本の木のちょうど真ん中あたりに立ってくださるかしら?」
「ちょ、ちょっと待って……」
白の精は私に構わず、幾ばくか真面目な声で言った。
「これからあなたを転送します。向こうに着いたらあなたが向いている方角に、『必然の宿』というところがあります。そこで旅の仲間と合流してください。それからまとめて説明します」
「……分かりました」
いろいろと勝手に決められていくつも釈然としないところがあるが、もう後戻りはできないし、するつもりもない。
「あっ、そうだ、星河さん。ここで私と会ったことは、どうかご内密に」
最後にそう付け加えて、話は終了した。
どこまでも一方的な人だ。
半ば呆れつつ頷いた。前へ進むと、足下に小さな円い陣が現れ、すぐさま大きく広がった。
これから選定を始める――
白の精の声が、自身の内側から聞こえた。すこし変な感覚だった。
昼間なのに眩しい光を発して、陣は周囲の色を混ぜながら私の視界を奪い、包み込んだ。
**********
それと同時刻。
この広い世界において、幾人もの旅の志願者が、同じ声を聞いた。
それに続く最後の言葉を聞いたのは、星河の他に三人。
一人は鬱蒼と茂った山林で。
一人は空の開けた神殿で。
一人は冷え切った地下の間で。
――汝は選ばれた。
本当は書いた後じっくり間をおいて改良したいのですが、とりあえず書き進めようという方針になったので、今後の文章は言い回し等をこっそり書き直すかもしれません。今あるストック分のはたぶん大丈夫だと思いますが(^_^;)
2015/12/20
若干ですが加筆修正しました~