狭い路地の先へ
午前9時30分。少し早く着いてしまった。
昨晩降り続いていた雨は止み、つかの間の太陽が顔を出していた。
もう後戻りは、出来ないんだよね…
いつも考えないようにしていた罪悪感が頭をよぎった。
しばらくして唯が到着した。あまり眠れていないのか、目の下に一筋のクマがあった。
「おはよう」
唯は力なく手の平をこちらに向けて横に振った。
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫!気にしないで!道案内よろしく!」
空元気であることくらいすぐにわかったがあえて何も言わない。
「じゃあついてきて」
唯を連れてあちこちの水滴が反射してキラキラ光る世界へと歩き出した。
駅前の噴水から出発して信号を渡り、人もまばらな商店街を抜けて人通りの少ない住宅街を歩く。土曜の朝だというのに、妙に人気が少ない。
お互い違った意味での不安を抱え、無口になっていた。
狭い路地、湿った空気、二人の足音、そこら中にある水たまりは光が当たらず光らない。二人は出発してからほとんど何も話さずに15分ほど歩いていた。そして、今まで狭かった視界が急に開けた。
「ここ?」
「そうだよ」
端正な住宅街の一角にたたずむその黒い建物は、見るからに異様なオーラを漂わせていた。
「こわい?」
「…うん」
「大丈夫だから、心配しないで」
「わかってる」
二人は黒光りする大きな玄関の扉を開いた。