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『一緒に死のう』が愛だと思っていた私は、夫の愛を信じられない

作者: こじまき
掲載日:2026/04/22

「レナ、どこ行ってたの」


振り向かなくてもわかる。少し乱れた呼吸と苛立ちを隠さない目で、彼がそこに立っていること。


彼は私が見えなくなるとすぐに気づいて、必死に追いかけてくれるのだから。


「図書室に本を返しに行ってたの」

「勝手に動かないでって言ったよね」


ノアに強く手首を掴まれる。痛い。触れ合っている手首から身体中に、ぞくぞくと熱が広がっていく。


「見えるところにいて」

「ごめんね」

「図書室で誰かに会うつもりだった?あの美術教師?」


ぐいと手首が持ち上げられて、廊下の壁に押しつけられる。


距離の近さ。息がかかる。彼からは決して逃げられないことに、安心する。


「違うわ」

「じゃあ証明して」


いつものようにつま先を伸ばして口づけると、彼の目がゆっくり細くなる。


「好きだよ、レナ。だからどこにも行っちゃだめ」


お願いでも、命令でもない。それが当然だから、そう言っているだけ。だから私も当然に頷く。


そうして彼は口づけを返してくれる。何も考えられなくなるくらいに。


誰よりも必要とされている。求められている。それだけで十分だった。


――その形が正しいかどうかなど、考えたこともなかった。



私レナは、伯爵家の庶子。


父にとっては過ちであり、正妻や兄弟にとっては存在しないもの。貴族学園でも「メイドの子」と陰口を叩かれ、いつもひとりで過ごしていた。


そんなとき、同じように「愛人の子」と囁かれているノアに出会った。


目が合った瞬間、私たちは理解した。


同類だ、と。


それからは早かった。お互いだけを見て、お互いだけに触れて、満たされて。


「他はいらない。レナさえいればいいんだ」

「私も」



けれどそんな日々は、また父の「身勝手」で壊される。


「嫁に出す。相手は平民の商家でお前より八個ほど上だが、金はある」


伯爵家の財政は思わしくないことは、蚊帳の外にいながらもうっすらとわかっていた。だから「私は売られるのだ」と理解した。


「お前を引き取っておいてよかったよ。先見の明だな」

「学校は…」

「もちろん中退だ。女子生徒にとっては栄誉なことだろう」


ノアにそう告げると、彼は「そっか」と静かに笑った。


どうして笑うの。離れ離れになってしまうのに。私のこと、愛してないの。


「大丈夫。死ねばいいんだよ」

「え…?」

「君が他の男のものになる前に、終わらせればいい」


ノアは当たり前のように言う。


「一緒に死のう」


その声は恐ろしいほどに甘くて、何の迷いもなくて、それこそが愛なのだと信じられた。


愛する人と離れなくていい。永遠に一緒にいられる。


だから私は、うなずいた。


ノアが薬を用意して、夜に家を抜け出して、初めてデートした湖で死ぬ。


けれど、その約束は果たされなかった。


私は屋敷を逃げ出そうとしたところを見つかって、父に捕まったのだ。


「ノアは死んだ」と聞かされて自分を傷つけようとする私を、父はベッドにくくりつけた。



「怪我をしていますね」


結婚式のあとの寝室。夫は私の夜着をはらって動きを止め、そう言った。


屋敷から抜け出そうとしたときに木から落ちて、背中にできた痣。


言い訳する気もない。「醜い」と罵られても、私はもう彼の正式な妻なのだから、簡単に「返品」はできないのだから。


けれど彼は責めることも呆れることもなく、ただこう言った。


「今日はもう休みましょう」


私は彼を見つめることしかできない。「なぜそんなことを言うのか」「罵らないのか」と聞きたいような気もするけれど、何からどう聞いたらいいのかわからないから。


「あ、待ってください。確か打ち身に効く薬があったはず…」


そう言って当然のように、ヘンリック様は薬を塗ってくれる。


「結婚式のときは、コルセットで締め付けられていたでしょう。痛くなかったのですか?」と聞きながら。


その声も手も、伯爵邸のメイドよりも、ずっと優しくて。


簡単に答えられるようなことを聞かれているはずなのに、何も答えられない。


――どうして?


彼は借金を盾に私とノアの中を引き裂いた強欲で好色な悪者で、私を組み敷いて蹂躙すると思っていたのに。


そうであってくれたほうが、私は…


ヘンリック様がぴたりと動きを止める。


「これは…?」


手首にうっすらと浮かぶ、ノアの指の跡。いつも長袖のドレスで隠しているけれど、夜着では誤魔化せない。


ヘンリック様は私の答えを待って、それでも私が何も言わないので、ふっと息をついた。


「言いにくいことなら、無理には聞きません」


逃げ場が与えられる。逃げ方がわからないけれど。


「けれど、覚えておいてください。これは、ひどいことです」

「…ひどいこと?」

「ええ。誰がやったとしても、これはあなたを傷つけて支配しようとするひどいことです」

「…違います!」


思わず大きな声を出してしまって、私は口を押さえる。


「も、申し訳ありません」


だけど、絶対に違う。だってこの跡は、彼が私を愛していた証なのだから。


私が今も彼につながれている証。


私は手首にも薬を塗ろうとする彼の手を、そっと払った。



ヘンリック様の屋敷は、奇妙な場所だった。


朝からみんなが私に「奥様、おはようございます」と声をかけてくる。


そして食事の好みを尋ねられたり、体調を気遣われたり、服の趣味を聞かれたり。それにちょっと目が合っただけで「何かお手伝いできることがありますか」「お困りですか」と聞かれて。


そうやって何でも聞かれるけれど、命じられることも制限されることもない。


「レナは、何かやってみたい仕事がありますか」


ヘンリック様もそう聞いてくる。


そう言えば「レナと呼んでいいですか」というのも聞かれた。金で買った妻のことなど、どうとでも呼べばいいのに。


「仕事…」

「はい。家のことをやってもらってもいいのですが、もし希望があれば、何か私がやっている商売に携わってもらってもいいなと思って」

「…どんな事業があるのですか」

「こちらが一覧です」


リストの一番上にあるのは…


(ギャラリー…)


昔から、絵を描くのも見るのも好きだった。


大人しくしていれば侯爵邸に飾ってある絵を模写するのは何も言われなかったから、何時間でも描いていたものだ。学園でも図書室では画集を借り、美術教師とは仲良くしていた。ノアは芸術に興味がないようだったし、美術教師と話すのも嫌がられて、控えていたのだけれど。


ヘンリック様が私の視線をなぞる。


「ギャラリーですか?ちょうどいい。実は今の支配人がもうすぐ異動するんです。レナに新しい支配人になってもらえば助かります」

「私が支配人だなんて…」

「大丈夫。みんなで助けますから」


「やってみたいですか?」と聞かれる。


やれる自信などない。


けれど返事をしないと彼がいつまでも待っていそうだし、他にやりたいこともないし、だけど何もせずに置いてもらうなんてできないし。


だから私は小さく頷いた。



朝日が差し込み、私は目を開けられずにシーツにくるまり直す。


ヘンリック様は、もうベッドにいない。今日から出張だと言っていたことを思い出す。


「朝早いので、見送りはいりませんよ」


彼はいつもそうだ。


すぐに私から離れる。私に何かを強要することはない。「目に見える範囲にいなさい」とも言わない。


ギャラリーの仕事で遅くなっても、叱るどころか「よく頑張っていますね」とねぎらってくれる。「最初は無理をするものだから、気をつけてください」とは言うけれど。


芸術家が集まるパーティーに夫婦で出席しても、「話したい人がいたら行ってきていいですよ」とすぐに私の手を離す。


それでいて、私が画家に話しかけたくてもきっかけがつかめないでモジモジしていると、すっと隣に来てくれて、彼一流の話術で橋渡しをしてくれる。


強く引き寄せられるわけではない。けれど放り出されることもない。


何だか中途半端で、掴む場所が曖昧で、地に足がついていないようで、落ち着かない。


それでもある日、「支配人」と呼びかけられて、何の違和感もなく「なに?」と振り返って、ふと気づく。


自分の足が、少しずつ地につきはじめていることに。


「オーナーがお見えです」

「メインギャラリーにお通しして」


ギャラリーの昼下がり。視察に来たヘンリック様が目を細めた。


「様変わりしましたね」

「やりすぎたでしょうか」

「とんでもない、素晴らしいですよ。今ではハーグレン・ギャラリーに並ぶことが、若手の登竜門になっているのですからね。持ち込みも随分増えたでしょう?レナの手腕です」


本当に嬉しそうに褒めてくれるヘンリック様。


ほわりと胸が温かくなる。


この気持ちが何の感情の芽なのか、私は知っている。


――だからこそ、怖い。



ギャラリーのオフィス。


デスクの上には、新たにギャラリーに加えたい絵の調査票。ヘンリック様に提出する月次の報告書と、出資者へのお礼状。カレンダーには絵の持ち込み予定や、お客様の対応予定がずらりと並ぶ。


そして、支配人としての初めての給料で購入した、芸術品のように見事な万年筆。


今の私は、誰の許可がなくても好きな人と会えて、街を歩ける。自分で稼いだお金で、こんなに素敵な万年筆だって買える。


それでも、どうしてだろう。時折、足元から崩れていきそうな心細さに襲われる。


「ヘンリック様…」


彼は私を褒めてくれる。私を支配人に抜擢し、経営の術を教えてくれ、妻として仲間として尊重してくれる。


けれど彼は一度も私に「愛している」とは言わない。縛りつけもしないし、囲い込もうともしない。


「出張に行ってくる」と私を残して何日も家を空け、「好きなところへ行っていい」と私の背に手を振る。


「私がいなくなっても、ヘンリック様は大丈夫」


それが泣きたくなるくらい寂しくて、虚しい。歩き回れる自由を楽しみ始めているのに、どこかで「レナ、行かないで」「そばにいて」と縋ってほしいと願っている。


《好きだよ、レナ。だからどこにも行っちゃだめ》


ノアの声が蘇って、私は手首をさする。あの手首の痛み。呼吸もできないほどの口づけと抱擁。「私の居場所は彼の腕の中だ」という確信と安心。「私がいないと彼はだめになる」という責任感に絡めとられる感覚。


「ノアなら…」


出張に行くことはない。私の背に手を振ることもない。私が少し離れただけで怒り狂い、私が不安を感じることもできないくらいに強く抱きしめる。


ノアが私に向けていた、狂おしいほどの熱と重み。


けれどヘンリック様からは、ほんのりとした熱を感じることはあっても、押しつぶされるような重みは感じない。


彼にとって私は、借金のカタに嫁いできた、八歳も年下の伯爵の庶子。ギャラリーの支配人を任されてはいるけれど、きっと彼にとってはとるに足りない存在で。例えば、他の女性といくらでも取り換えられるような。


「だめ、考えすぎては」


私は「補修材が切れたから、買い出しに行ってくるわね。二十分で戻ります」と従業員に告げて、ギャラリーの外へ出た。


時間を告げて出かけるのは、ノアの不安を和らげるための工夫だった。それが仕事に生きているなんて、なんだか皮肉だ。



「レナ」


背後からの声に体が強張る。買い物袋がばさりと音を立てて落ち、補修材が道に散らばった。


声だけでわかる。少し乱れた呼吸と苛立ちを隠さない目で、そこに立っているのだ。


――彼が。


あの日、私の来ない湖で、一人きりで死んだと聞いていたのに。


「ど…して…」

「薬を飲んで湖に入ったけど、助け出されて死ねなかったんだ。父が激怒して、別邸に閉じ込められてたんだけど、抜け出して来たんだよ」


震える私の手首を、彼はあのとき以上の力で掴み上げて、暗い路地に連れ込んだ。


「名前も呼んでくれないんだね。僕のこと、忘れたの?」


「忘れてないわ」という声が、自分でも驚くくらいに細かった。


「嘘つき」

「嘘じゃないわ」

「だったら証明して」


彼は口づけを待っているけれど…


「できないわ。私はもうヘンリック様の妻なのよ」

「旦那に束縛されてるの?」

「違うわ、彼はそんなことしない…!彼は私を信じて自由にさせてくれるの」

「へえ、自由?」


ノアが目を細める。


「誰と話しても気にしない…一人で出歩いても叱らない…それって、旦那はレナのこと、どうでもいいってことだよね」


刷り込まれたあの頃の理屈が、身体の至るところで目を覚ます。目を逸らしたいのに、できない。


「本気で好きなら、放っておくわけないだろ?こんなところに…レナが他の男に触られてしまうようなところにさ」


ノアの指が、頬に触れる。慣れ親しんだ指を身体が思い出して、条件反射のように体温が上がっていく。


「好きなら、腕の中に閉じ込めておかなきゃ」

「違…」


否定しながらも、その言葉に胸が震えるのを抑えられない。彼の腕の中で、何も考えずにいられたころの安心感が蘇る。


「それが、愛だよ」


かつてはそうだった。確かにそう信じていた。


「彼が君を縛らないのは、手放しても痛くないからだよ」


不安で押しつぶされそうだった胸に、ノアの言葉が流れ込んで膨らむ。


きっとヘンリック様は、私がいなくなってもひとりで歩いていくだろう。


でも――


私はぎゅっと目をつぶる。


彼がひとりで歩ける人だということと、私が彼のそばにいたいと願うことは、両立する。


そして私がひとりで歩けるようになっても、私はヘンリック様のそばにいたいと思うだろう。


だって、久しぶりにノアの声を聞いたときに私が感じたのは、愛や歓喜ではなくて恐怖だったのだから。


今私が聞きたい声は、彼の声ではないのだから。


目を開けた私が、彼の愛を拒否すると悟ったのだろう。


ノアは私の首に手を伸ばした。


「いや…や、めてっ」

「一緒に死のう、レナ。約束しただろ?」

「も…あのときの私じゃない…っ」

「僕をひとりにするの?」

「おねが…聞い…てっ、話を聞いて…っ」


私は彼の目を覗き込む。かつての私が、そこにいる。


腕の力が、少し緩んだ。


「友人として、あなたが寂しくないように、抜け出せるように協力するわ。今のあなたのままじゃ、たとえ私が戻ったとしても辛いままよ」


どうかわかって、ノア。


きっとあなたも抜け出して、怖くても自分の足で立てるから。


「違う!そんなこと求めてない!一緒に死んだら僕らは永遠に幸せなんだ!!」


ノアの腕に、また力がこもる。


「だめ…ノア…ノ、ア…」


死んではだめ。私も、あなたも。


苦しい…苦しい。少しでも楽になりたくて目をつぶったときに、「やめろ!」と大きな声がした。


逆光の中に立っていたのは、いつも穏やかに微笑んでいるはずの、夫だった。肩を激しく上下させ、額には汗が滲んでいる。


「彼女を…離せっ…!」

「来るな!僕たちの邪魔をするな!」


私の口から「ヘンリック様…」という泣き声が漏れる。


「レナ、他の男の名前を呼ぶな!」


ヘンリック様が恐ろしい速さで踏み込み、ノアの腕をステッキで打ち据えた。首にかかっていた力が緩んで、私は地面にへたりこんだ。


ヘンリック様は私を抱きしめた。


「大丈夫ですか、レナ」

「ええ」

「ああ、よかった…本当にどうしようかと…レナが時間を過ぎても戻ってこないと聞いて、生きた心地がしなくて…」


いつも「触れていいですか」と聞いてからしか触れてこないヘンリック様が、断りもなしに私の身体を触って無事を確かめる。


「本当にどうしようかと…自分がおかしくなりそうで…」


それからもう一度、彼は私をぎゅうっと抱きしめた。あまりの強さに、息が止まりそうだ。


私を抱きしめながら、ヘンリック様はノアをぎりっと睨む。いつも穏やかでにこにこしている彼が、怒りをあらわにしている。こんな顔は初めて見る。


「生きていたのか、ノア・ローゼンタール」

「生きていたくなんてなかったけど、死ねなくてね」

「だからって、私の妻を道連れにするな」

「だって、レナは僕のすべてだ。レナがいなきゃ僕は生きていけないから、僕はレナを殺して僕も死ぬしかないんだ。愛してるから」


ヘンリック様が言い返そうとするのを、私は制した。そしてノアを見て、首を振る。


自分で言わなければ。


「それが愛じゃないとは言わないわ。でも他の形の愛もあるの。私は違う愛を選ぶわ」

「レナ、どうして…どうしてなんだ…」

「ノア、ごめんなさい。もう戻れない…いえ、戻りたくないのよ」


自分ひとりで立てない自分には。


何の自由もない愛には。


だって、自分がひとりで立てることも、束縛される以外の愛も、知ってしまったのだから。


「今の私は…本当に愛している人に、”私と一緒に死んで”とは言えないわ。私がいなくても、歩いていってほしいもの」


ノアの目から生気が消え失せる。


「私とあなたの愛は、違うのよ」


彼は抵抗することもなく、商会の従業員たちに取り押さえられた。



私はベッドに寝かされて、ヘンリック様に手を握られている。


「ノアのこと、知っていらしたのですか」

「ええ、結婚前にあなたのことを調べたので。嗅ぎまわるようなことをして申し訳なかったのですが、商会の財務などを任せることにもなりますから」


彼はノアのことまで知っていて、私と結婚した。そこまでして伯爵家との関係が欲しかったのだろうか。


「あなたの成績は優秀でしたし、学校での態度も真面目でしたので、信頼できる人だろうと思いました。ノア・ローゼンタールとの付き合いは気がかりでしたが、彼は死んだと思っていましたし、あなたは立ち直れるだろうと…それに、その…」

「…?」

「お知らせするのはどうか、とも思うのですが…伯爵が…」


父はヘンリック様に「ヘンリック様が私と結婚しないのなら、私を娼館に売ってお金を準備するつもりだ」と告げた。それでヘンリック様は、私を娶ったのだ。


「…救ってくださったのですね」

「そんな大げさなものでは。私は高潔な正義のヒーローではありませんし、自分の欲がなかったとは言えませんから」

「…?」

「学園に調査に行ったとき、庭のベンチで嬉しそうに画集を広げているあなたの横顔を見て…娼館になど行かせてなるものかと…私の隣で笑ってほしいと願ってしまったのです」


私は初めて自分から、彼の頬に手を寄せた。


「レナ…?」

「ヘンリック様は、私のヒーローです」


ノアから救ってくれたときの必死な顔が、「よかった」「怖かった」と抱きしめてくれた腕の強さが、愛ではなくてなんだと言うのだろう。


彼は、自由と愛が両立することを教えてくれた。


腕の中で灰になるまで燃やされるような愛でなくても、愛は確かにある。


「ヘンリック様の愛を教えてくれて、ありがとうございます」


ヘンリック様の首の後ろに手を回して、そうっと自分に引き寄せる。


「愛してます」


唇が触れる。ヘンリック様の熱が伝わってくる。


「私も愛してるよ、レナ」


たとえ縛られなくても、私は自分の足で彼のもとに戻ってくる。


ようやく、縛られない愛を信じられるようになったから。

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