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写真の中の……。

  少しだけ、自分の話をさせてくれないか。

 仕事の前に、いや……言い訳みたいなものだと思ってくれてもいい。


 あたしは、余計なものを身の回りに置いておきたくない性分だ。

 いわゆるミニマリストってやつに分類されるんだろう。


 家具は最低限。

 仕事道具も、必要なものだけを厳選して置いている。

 思い出の品なんて、基本的には邪魔でしかない。


 それでも――

 どうしても、捨てられないものが一つだけある。


 探偵事務所の壁に、ぽつんと掛けられた一枚の写真。

 六人が並んで写っている集合写真だ。


 この部屋で唯一の飾り。

 そして、あたしにとって唯一の弱点。


 この写真が撮られたのは、あたしがまだ“特殊部隊”の一員だった頃の話だ。


 写真の中央で腕を組んでいる、やたらと図体と態度の大きい女。

 ――あれが、あたし。


 “特殊部隊クロノ・ファントム”

 その部隊長だった頃のあたしだ。


 中央に立っているのは、背が高いからじゃない。

 威張りたかったわけでもない。


 あの頃のあたしが、

 「前に立つしかない立場」だったからだ。


 部隊長ってのは、勝手に選ばれてなるもんじゃない。

 誰よりも先に矢面に立って、

 誰よりも遅く退く役割。


 仲間の盾であり、

 時には仲間の背中を蹴飛ばしてでも前に進ませる存在だった。


 ……そう言えば、幹部に噛みついたこともあった。


 あの日の作戦会議は、ひどかった。

 いや、「ひどい」なんて言葉じゃ足りない。


 “作戦”と呼ぶのも失礼なほど、

 穴だらけで、杜撰で、

 兵の生死すら計算に入れていない代物だった。


 だから、あたしは除隊覚悟で言った。


 命令には従う。

 でも、その“質”は問い続けるべきだ、と。


 部隊を家族だと思ったことはない。

 感情論で動くほど、現場は甘くない。


 それでも、雑な作戦は国益すら損なう。

 生きて帰れない任務なら、

 あたしが先頭で死地に向かう覚悟はある。


 だからこそ、

 綿密な作戦立案をしろ、と。


 会議室は静まり返った。

 聞こえるのは、自分の鼓動だけ。


 ……いや。

 机の端で震えていた、水の入ったコップの音もあった。

 たぶん、あたしの怒りに当てられてたんだろう。


 後で部下から聞いた話だが、

 あたしを胴上げするつもりだったらしい。


 そんな恥ずかしい真似、できるわけがない。

 だから、すぐに誤魔化した。


 「練習の続きをやるぞ!」


 ……嬉しくなかったと言えば、嘘になる。

 でも、浮かれている場合じゃなかったのも確かだ。


 それでも、

 あんな仲間がいたこと。

 ファミリーと呼べる連中がいたこと。


 それは、今でも誇りに思っている。

 必ず守ろうと、あの時、心に決めた。


 ――けれど。


 永遠なんてものは、ない。


 クロノ・ファントムが解散した理由?

 簡単な話よ。


 ある国会議員が、あたしたちの存在を一度だけ外に漏らした。

 それだけで十分だった。

 世界中の特殊部隊を敵に回す形になって、本人は国際会議で頭を下げ、責任を取るように表舞台から消えた。

 後になって、そいつが他国に取り込まれていたと分かったけど……そんな裏事情は、もうどうでもよかった。


 問題は、名前が出てしまったこと。

 表舞台に上がった以上、他の部隊を巻き込むわけにはいかなかった。


 だから、クロノ・ファントムは、跡形もなく消えた。

 そういう運命だったのよ。

 ――便利で、残酷な言葉だけどね。


 今では、ただの昔話だ。


 それでも、あたしは毎朝、写真に声をかける。


 「おはよう。今日の気分はどうだ?

 最高のパフォーマンスが出せそうか?」


 写真の中の隊員たちは、黙ったままだ。

 それでも、あたしはいつも同じ言葉を返す。


 「私は今日も最高だ。

 ――君たちが、ここにいるからな」

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