プラゴル二章5
1
日が沈み、夜も老けオークの大進軍に備え城壁に囲まれた城と街は静まり返っていた。
つい先ほどまで街のほぼ全てを回り、皆を励ましていた王女。彼女は周りの反対を押し切って自ら武具を纏い将兵達とともに城壁の上で戦いの備えをして迫り来るオークの大軍を待っていたのだった。
絶望的な状況。それでも多くの兵士と一般市民を不安にさせない為気丈に振る舞い続ける。そして今防衛の最前線城壁の最も高い塔の上に立ち、敵の侵攻が来るであろう地平線を眺めながら独り者思いにふける。
(かつて、父上と母上もこの様な絶望的状況をいつも二人でくぐり抜けて来た。
私は今一人だけど必ず奇跡が起こるはず)
そう思いながらそっと目を閉じ静かに握った拳を胸に当て祈るのだった。
(そういえば、今行方不明となっている勇者様は何処へ……天命を受けし彼ならば奇跡を起こして……)
そう願わざるを得ない王女であった。
2
「まだか……マジで高すぎ。はぁ〜」
時刻にして日付が変わる頃ようやく慣れない城内の通路を経て、何とか目的の塔へと辿り着いた。その後只ひたすら屋上を目指し急で立て付けの悪い階段をぐるぐると昇るプラゴル勇者。
しかし彼の肉体の疲労は限界を迎えようとしていた。それもそのはず、この異世界に来るまでは引きこもりだから動けるはずも無い。
おまけに今日一日湧き出る欲望に身を任せ動き回ったのだからなおさらである。
(今日は辞めて明日にしよっかな〜……あっ駄目か…今逃げないとヤバいんだっけ)。
「はぁ〜面倒くさい」
疲れる事、面倒な事、煩わしい事などなど、気分の乗らない事はことごとく今やらないで翌日に後回し、そして忘れる。そんな日々のルーティーンを送って来た彼らしい発言。
そんな中、何とか塔の頂上まで辿り着き息を切らせながら辺りを見回した。
暗い夜空の下その視界の遥か向こうに地平線が広がる。その地表一面に広がり埋め尽くすオークの大軍。
そしてその大軍が大津波の様な勢いででこちらに向かっているのも確認出来た。
またすぐ真下の眼下には城壁に多くの戦士達が敵の侵攻に固唾をのんで待機しているのも見て取れる。
「うわぁ、やべぇ〜とっとと逃げなきゃ。これマジ死亡マジ全滅フラグなんですけど藁ww。てかこんな事言ってる場合じゃ無いよね」
そう言うとプラゴル勇者は背負った大剣を取り出した。
「これ無駄に重いんだよね〜こんなん我輩にはこれくらいしか使い道無いよね。あ、後トイレの扉のつっかえ棒にもつかるか」
そう言って剣を掲げようとするがそのまま腰をおろし大きなため息と共に一言。
「ちょ、ちょっと休憩。マジ無理。はぁ〜」
3
迫り来るオークの大軍。城壁の上に立つ皆が固唾をのんで見守る中、只一人でそのオークに向かって走って行く者が居た。
「あれは誰だ!死ぬ気なのか?」
「子供だ!子供が一人であの大軍に向かって行くぞ」
「捕まえて連れ戻そう!」
「何言ってる!門は固く閉じられ出る事は出来ない。おそらくはあの子供は門が閉じられる前に出たのだ」
一人駆け出す小さな子供を見て騎士や兵士が口々にそう話す。
そして王女を始め皆が動揺する中、大魔法使いが語り出す。
「あれはオークじゃ。オークの雌の子供じゃ」
「じゃあここから逃げ出す為に……」
「いや違うじゃろう。おそらくはあの大進軍を止める為に向かったのじゃ」
「なぜオークが?嫌オークの子供が!?」
「この戦が終われば我々は皆滅びるかも知れんがそれはオークも同じ。彼らは命耐えるまで戦い続けそして滅びる。それを止める為じゃろう」
「止められるのですか?あの娘ひとりで」
そう言った王女の眼差しは危険を承知で今にもこの城壁の外に出て一緒に行きたい様な雰囲気を漂わせていた。
「無理じゃろう。あの小さいオークの子は怒れるオークの視界にすら入らんじゃろう」
「じゃあ……あの娘は…」
「うむ…」
その後会話は途切れ無言のまま、オークの少女の命運を皆見守るしか無かった。
4
城壁の前に広がる平原とその真ん中を通る街道。その途中でオークの少女は立ち止まり、その時を待った。
オークの大進軍が視界に入る前にその進軍の足音が地響きとなって身体を震わせる。そして目の間にオークの怒れる赤い目の光が遠い視界でも確認出来たとたん、それは見る見る広がり眼前を埋め尽くした。
(言わなきゃ、大声でみんなに伝えなきゃ)
オークの少女はそう自分に言い聞かせたが、背後に居る大勢の人間の注目、また目の前にはそれを超えるオークの大軍。
その状況の為、命の危機が迫っているにも拘らず内向的で引っ込み思案な性格と極度の緊張が災いして、囁く様な小さな声しか出なかった。
少女に迫る怒れるオーク達は一人ポツンと立つ少女の存在に気付かない。
むしろ人間の住む都市を目の前にしてその進撃の速度を加速して行った。
その全てを砕き踏み潰し破壊し尽くす為に……
(やっぱり私、何にもできない!)
オークの少女は完全に恐怖に飲み込まれ震え無言のままその場にうずくまるしか無かった。
(みんな、ごめんなさい。さようなら……お姉ちゃんお兄ちゃん……)
と、その時、城の一際高い塔の頂上から一筋の光が夜空に向けて立ち上る。
その光の筋は夜空の虚空の一転を照らすとそこから眩い光が広がり夜空からオーロラが降り注ぐ。その光のカーテンが夜空を二つに割るとその間からあの白いペガサスが舞い降りたのだった。
突如、暗い夜空で繰り広げられた光のページェントはさしものオークの大進軍の進撃を留まらせ皆足を止めオーロラに目を奪われながら動揺する。
その光景は城壁内に居た人住民達も同じだった。
そして夜空に現れたペガサスはゆっくりとした速度で光の筋の現れた塔の頂上へと向かって行った。
5
塔の頂上に降り立ったペガサスは早速その視界に嫌な者を目にする。
「ばっひっん…」(また、お前か…)
馬なのにも係わらず明らかに落胆、嫌な顔。その視線の先にはぷっくりとしたお腹とヘソを出した中年勇者があからさまな作り笑顔でこちらに手を振っている。
「相変わらず立派だね〜。ほら、これご褒美だ」
中年勇者はそう言いながらその懐から干涸びかけた貧相な人参を投げてよこす。しかも上から目線。馬なんだからこれが好きなんだろって感じで。
「ブルルっ」
目の前に投げて寄越された貧相な人参を高貴なペガサスは冷めた目で一瞥すると前足で蹴り飛ばす。
それを見た中年勇者は不機嫌そうに言い放つ
「ちっ、あのさ〜こう言っちゃ何だけど。好き嫌いすると健康に育たないよ。いや本気でさ。野菜食え野菜。好き嫌いせずさ」
などと言う勇者の体形は明らかにそれとは真逆の食生活を送ってきた結果のそれである。
「まぁ良いけどさ。じゃあとっととこの場所から我輩を連れ出してくれるかな」
そういいながら中年勇者は前回の教訓から一人では馬に跨がれないのでチョットした足場を何処からか持ってきて、それを使って馬に乗ろうとする。
「バヒッ…」
それに対して軽くあしらうペガサス。
「おいっちょっとは大人しくしろよ、この駄馬が!ほら、まだあるから人参。これ食っとけ、これ。その間に乗るからさ。時間無いんだよ。時間が!」
そうやって一悶着する駄馬とメタボ。まったく息が合わない所を見せつける。 そんな時、突然背後から声がした。
「やっぱり、あなたは私のダーリン!白馬に乗った王子様!」
突然の大声に駄馬とプラゴル勇者はおそるおそる振り返る。その視線の先には息づかい荒く目をギラつかせた姫巫女オークが姿を現したのだった。
「ばっばっ、ヒンっ!?」
そのあまりの迫力に今まで暴れていたペガサスは身体を膠着させる。
「あの〜我輩は遠く誰も知らない世界で夜空に輝くお星様になるから…。だからもう、僕の事は忘れてチョンマゲ!」
そう捨て台詞を吐くと中年勇者は全身を走る貞操喪失の危機を振り払い、動きの止まった馬の背中に股がる事は出来ないので覆い被さる様に飛び乗った。
「ハイよー!シルバー!童貞達が集う聖地ヴァルハラへ出航!」
「ヒッヒ〜ンッ!」
覆い被さった状態のまま右手でペガサスの尻を叩くと我に帰った空飛ぶ馬はそのまま飛び立とうとする。
「待てや!コラァ!お腹の子供はどうすんじゃボケぇ!責任取らずに逃げるつもりか!」
ものすごい形相で迫り来る姫巫女オーク。
「一緒に飯食っただけで子供が出来る何てコウノトリもびっくりだよ!今時、子供向け教育番組でもそんな事言ったらガキに鼻で笑われるよ!かんべんしてー」
そんな言い合いの中ペガサスは夜空へ飛び立とうとする。その瞬間、執念にその身を焦がした姫巫女オークは有り得ない跳躍力で塔から飛び上がり空中に居るプラゴル勇者の両足にしがみついたのだった。
そうして空飛ぶ馬と中年勇者と姫巫女オークは怒りに燃えた大軍が居る上空へと飛翔した。
6
突如、白馬に乗って遥か頭上を空とぶ中年勇者と姫巫女オーク。その二人を見上げる人間達はただ只唖然。全員全てを忘れて無言で眺めるしか無かった。
その後二人と馬は皆の注目を一手に浴びながら城下を離れオークの軍勢のただ中の頭上を飛んでいく。
それを見た怒れるオーク達は傷心の傷に更にそのラブラブっぷりを見せつけられ絶叫し罵声を浴びせる。
「ふざけんな!このヤリちん勇者。今すぐここに降りてこい!八つ裂きにしてやる!」とか
「なんだこの野郎!わざとか!?わざと俺達に見せつける為にやってんのかこの野郎!白馬に乗って登場とか出る物語間違えてるだろ!死ね————!」
などなど、地上は怒り狂ったオークの坩堝となり、そこに降りれば誰であろうとも一分も生命が持たないだろう思わせた。
「バッヒバヒ、ヒヒぃ〜ン」(積載オーバー、勘弁して〜)
地上からこみ上げる憎悪の念に恐れおののき、必至に飛ぶ高度を維持しようとするペガサスであったが、イイ感じでふくよかな二人の体重のおかげで次第に高度が落ちて行く。
「私達何処のお星様になるのかしら?ところでホーリングスターズラブ(星降る愛)なんて逢い引き宿屋がどこかにあった様な?」
この状況でも超前向きな姫巫女は馬上に何とか這い上がろうとする。そして思わずプラゴル勇者のブリーフパンツをわし掴み。それを力一杯引くモノだからパンツがずり降ろされ、プラゴル勇者の白くて汚い尻が大勢の観衆に晒される。
しかしかろうじてパンツは彼の逸物に引っかかり脱げる事は無かった。
「あらやだ、可愛いおケツ♡」と照れる姫巫女オーク。
だが姫巫女オークの全体重がパンツを通して彼の逸物にのしかかる。たまらず、
「ちぎれる!ちぎれるッー!我輩の大事な逸物がちぎれて女の子になっちゃうー!」と悲鳴を上げるプラゴル勇者
その様子を地上で見たオーク達は絶叫する。
「早速始めようってか!?“アイドルがファンの頭上で子づくり体験”そんなAV見た事ねーよ!」と怒り狂う。
「やりチン勇者と淫乱巫女が落ちて来るぞ!火あぶりだ!あの二人共々炎上だ!燃やしちまえ!」
そう口々に叫んだ怒れるオーク達は空から落ちて来るその場所に山の様に抱えた姫巫女のファングッズを大量に投げ捨てる。そしてその全てに火をつけ燃え盛る業火の巨大な処刑台へと変えて叫ぶ。
「俺達の青春と純真な心を弄びやがって!丸焼けになって死んじまえー!糞リア充!」
一方、今にも始まろうとする火刑による処刑の様子を見ていた城壁の上では皆困惑。
「勇者様と後一人謎の女性?あの二人は白きペガサスに乗って何をするつもりなのでしょうか?まさかっ!自らを犠牲にしてオークの大進軍を止めるつもりなのですか!」
王女は戸惑いながらも隣に立つ大魔法使いに聞く。しかし大魔法使いからの返事は無い。
みれば大魔法使いは無言で必至に怒りを堪えている。そしてその怒りが堪えきれなくなったのか叫び声を上げたのだった。
「わしを出し抜いて二人で愛の逃避行とはずるいぞ勇者!」
空の上、馬上で脱衣し出し、くんずほぐれつ暴れる二人のおかげで空飛ぶ高度が保てず燃え盛るファングッズの火刑台の上に落下して行く、飛んでもカップル。
「ウワァー落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ————————!」
そう叫ぶ馬上のご両人。
でバランスを崩したペガサスは飛ぶのもままならずそのまま燃え盛る地上のステージに急転直下。
「バッバッバッバッ!!!!!!!ヒッ」————————ン」
馬が必死に嘶く。
すんでの所で上昇するがそのアクロバット飛行に耐えきれず勇者と姫巫女は業火のステージに落とされペガサスはそのまま飛び去ってしまうのだった。
7
炎燃え盛るステージに落下した二人はたちまち業火に包まれもがきあがく。「あっちちちちちっっっっっっっっ————————い!!!!!!」
堪らず叫ぶプラゴル勇者と姫巫女オーク。
それを見ていた大勢のオーク達が叫ぶ。
「俺達の純情をもてあそんだバツだ!淫乱巫女も、ヤリちん勇者も火に焼かれて死んじまえー!」
「幸福の姫巫女グッズが呪いのグッズになってもうた!どうしてくれんねん!」
「こんなもんオークションに出しても値段もつかねーよ糞野郎!今まで貢いだ金とオレの純情を返せ!」
「男を知って汚物と化した姫巫女と一緒に焼却処分だー!」
「もう炎上だ炎上!炎上案件!」
10万近くのオークの雄達の憎悪、妬み、嫉妬、怒りありとあらゆる負の感情その全ての叫びがステージを包む。
その時である。大勢の群衆を掻き分け一人のオークの少女が必至に駆け寄る。
「大変!オネーチャンとオニーチャンが焼豚、あっ、!ちがう違う、丸焼きになっちゃう!」
その少女は無我夢中で全てを忘れ全身全霊で回復魔法の呪文を唱えた。
「ヒ————ル!!!」
炎の中に居る二人はたちまち少女の魔法で全回復する。
「え、妹ちゃんどうしてここに?」
突然の再会と危機を救ったのが実の妹だという事で驚く事しか出来ない姫巫女オーク。一方
「そんな事より火を消して——————!」
火の中でもがきながら叫ぶプラゴル勇者。
「ヒ————ル!!!ヒ————ル!!!ヒ————ル!!!」
だが魔法詠唱で必至な少女にはその声は届かない。その少女はけなげにもひたすらに回復魔法を二人にかけ続けた。
しかし回復しても火は燃えたまま。二人はすぐに炎の中でもがいて暴れる事に。それはまるで強烈なスポットライトが照らし出すステージ上でひたすら踊り狂う演者の様に…。
そしてそれを懸命に応援し支える聴衆は小さなオークの少女がそれだった。
と同時に姫巫女オークが暗黒騎士から貰った魔法のネックレスがその効果を発揮し城壁を巨大スクリーンの様にその様子を映し出し全てのオークの聴衆に視聴される。
その結果たちまち狂気の罵声は止み、あれほど憎しみに燃えていたオーク達は逆に。
「あれ?姫巫女の妹ちゃん可愛くね?天使降臨?」とか
「あの必至で健気な姿が尊すぎる。いや神聖。」とか
「妹ちゃんマジ純粋。しかもちょっと不器用な所が超ささるっ!」とか
おまけに
「よくよく考えてみれば30すぎのババァにもなって処女とかキモ過ぎだろ、逆に妹ちゃんはマジ清純。あれ本物」とか40も過ぎた童貞オークが解説。
最後には
「妹ちゃんとの運命の出会いに乾杯。俺達も応援するぜっ妹ちゃん!」とか勝手に言ってMP(魔法力)回復のアイテムを妹に投げる。
いつの間にか姫巫女も
「頑張ってミルちゃん!私達まだ踊り足りない!」とか言い出す始末。
気がつけば注目と盛り上がりの中心は姫巫女の妹に集まり、むくつてきオーク達の沸き立つ感情と歓声が妹を鼓舞する。
一方の火の中で踊る様にもがき続けるプラゴル勇者は
「ていうか、いいかげん火を消してここから出して—————!」
と叫ぶがもはやは誰も聞いていない。
踊り狂い飛び散る二人の脂の乗った汗はまさに火に油。ステージ上で火柱を上げ、それが更に観衆をヒートアップさせる。
これが焼き肉屋だったら“他のお客様にご迷惑だから網交換してください”と店員に即されるレベルで……。
ショーの盛り上がりが最高潮に達しようとした時、姫巫女オークが炎のステージ上から妹オークに手を差し伸べ語りかける。
「今夜の主役はあなたよ、ミルちゃん!一緒に盛り上げましょう!!!」
そう言うと姫巫女は妹の手を取り彼女を火が燃え盛るステージ上へと上げる。
しかし妹は少し不安そうに答える。
燃え盛る業火のステージで手を取り合い会話を始める姉妹オーク。
「でもそうしたら回復魔法が……」
「大丈夫。これからが姫巫女たる私達の本領発揮。ミルちゃんと二人でみんなを癒して上げましょう!」
「さぁ!ミルちゃん一緒に!」
「うんっ!私頑張る!」
燃え盛る業火に照らされた二人の姫巫女姉妹はそれを囲むオークの雄達に輝く様な笑顔を見せると、全身で大きく手を振りながら声を上げるのだった。
『みんな———————!今日は来てくれてありがと———————!』
『おおっ——————————————————————————!』
もう何のこっちゃだか、さっぱりわからない……
二人の踊り歌いながらの回復の祈祷は奇跡の感動を呼びその場にいた全てのオークが目頭を熱くする。
何時しかオークは皆、その手に持った武器を捨て、両手に燃え盛るたいまつを握りしめ息の遭ったダンスを一心不乱に踊り始めた。
8
同じ頃、城壁の上でただ唖然として見守る人間達。
「いや……一体何が始まり、何が行われているんだ……」
もはや誰も理解が追いついていない。
一つ理解出来る事はあの灼熱のステージ上で踊る三人にオークの大軍が異様な盛り上がりを見せ始めたという事だけだった。
(これがあの勇者が起こした奇跡の始まりなの?)
そう思う王女の視線の先には燃える壇上で灼熱に晒され、もがき暴れるプラゴル勇者の姿だった。その周りを見回すとオークの群衆の様子が変わって行く。
「あれは!?怒りに燃えたオークの赤く光る目が消えて代わりに色とりどりのたいまつの火に変わって行く……」
思わずそうつぶやいた王女の言葉に隣に居た魔法使いの老人が答える
「奇跡じゃよ。古に語り継がれてきた伝説、奇跡が起きたんじゃよ王女様」
「その伝説とは一体……」
王女の問いに大魔法使いはいつになく真剣な面持ちになった。
「虐げられしオーク達。我を忘れ怒りの炎とならん
その炎 全てを焼き付くしまた自らも灰にする。
しかして、炎の中から真の女神現れ、その全てを救い
癒しを与えん。
飢えたるオーク。清純な尊き恋の泉に導かれん。
満たされしオーク。新たな女神に喜びの舞を捧げん」
「我らが見るのはまさにオークの真なる女神降臨。
そしてそれに捧げられるオークの雄達による神技一体祝福の舞。
すなわち“オク芸”じゃ!
まさかあの伝説が本当であったとは……」
その気迫に若干狼狽える王女。
「勇者が……いえ勇者様がこれを……」
「いや、勇者は何もしとらんじゃろ。そもそも勇者はあそこで火だるまになって暴れているだけじゃしの」
「がっつぎすぎてモザイク処理無しのまま一人抜け駆けしようとしたバツじゃww。ほほっ」
晴れやかな笑顔で捨て台詞を吐く老人がそこにいた。
9
長きに渡った二人の巫女の祈祷公演は朝日が射すと同時に終わりを迎える。
「今日は!本当に本当にありがと————————————!」
涙を流しながら感謝を伝えるオークの姉妹。
そこに集った全てのオーク達も思わずもらい泣き。
その光景に城壁に集った都市の住民達ももらい泣き。
そして固く閉ざされていた城門が開かれ、皆が城外へ出てオーク達と抱き合い感動を共有したのだった。
王女は真っ先に巫女の姉妹の所へ向かい感謝の言葉を涙を拭きながら伝える。
「本当にありがとう。あなた方姉妹の起こした奇跡のおかげで多くの命が失われずに済みました。私、何とお礼を言っていいか解りません」
そう言いながら拭いた涙がまた流れ落ちる。その儚さに姫巫女姉妹も目を潤ませる。
「こちらこそ、私達もこちらの世界に来て、本当は何が大切か解ったんです」
「こちらの世界…?私達人間の世界に来て何が解ったのでしょうか?」
『それは “愛です!!”』
姉妹がはもりながらそう言った。
それと同時に大勢のオーク達の歓声と拍手が巻き起こる。それに同調する様に人間達も歓声と拍手で答えたのだった。
この日が人間とオークの長年の対立が終わりを告げ、後に同盟を結ぶ関係となったきっかけの日となったのであった。
10
オークの辺境諸国の中心都市にある砦にて一部始終を見ていた暗黒騎士とオークの部族長達。
ただ黙ってゆく末を見守っていた暗黒騎士にたいして、背後で畏まりながら見ていた部族長達は
「わしも行けば良かった」とか「現地で生で見たかった」とか
「年甲斐も無く興奮してしまった」とか「この魔法の映像、後でどっかで手に入らないかな?有ったら買うのに」など
魔王軍幹部である暗黒騎士に聞こえない様に小さな声で語り合っていた。
《ドッンッ!》
暗黒騎士は突然そのヒソヒソ話をさえぎる様に床を強い力で蹴り付けながら立ち上がり、右手を一線すると魔法の映像が消え、辺りが暗くまた不気味な沈黙に包まれる。
暗黒騎士の無言の怒りに恐怖を感じた長老達は黙り込んだ。
そして怒りで震える暗黒騎士におそるおそる尋ねる。
「我々はこれからどうすれば……」
その問いに対して暗黒騎士は怒りを伴った冷たい視線を向けると言い放つ。
「好きにすれば良い。……魔王軍に戦えない奴は必要ない!
ただそれだけの事だ。お前達にその意味が解るか……」
その態度と言葉に長老達は答えず怯え震えていた。
そしてしばしの沈黙の後、暗黒騎士は吐き捨てる様に言う。
「ふんっ、まぁいい。覚悟しておく事だな」
そう言うと暗黒騎士は黒いマントを翻し立ち去り、オークの砦を後にしたのだった。
11
オーク達は感動の余韻に浸りながら帰路に就き、王女と人間達も戦時体勢を解いて普段の生活に戻る準備をし始めた。
姫巫女オークと妹も帰ろうとした時、妹オークが何か大事な事を忘れていた事に気付く。
「あっ、オニーチャン忘れてた!」
すでに完全部外者なプラゴル勇者。慌てて戻ると火の鎮火したステージ上で真っ黒になって横たわる勇者のお兄ちゃん。
「お兄ちゃん大丈夫ですか?真っ黒だけど怪我は無いみたい……」
この期に及んでみんなに存在を忘れられ放置されたままの勇者。
おかげで若干いじけている。しかも今だ、息も絶え絶え。
「あのね……この年にもなって……こんなに動いたら…はぁはぁ…もう動けないの。…それに……はぁ〜我輩…元引きこもりだよ…舐めてもらっては…こまる」
相手が年下だと思うと年上目線でこの口調。おまけに引きこもり自慢。
そんな感じで年齢的にはもう良い大人と言うか初老の域にあるのにいじけて更にはふて腐れている勇者を、まだ十代前半の妹オークが甲斐甲斐しく抱き起こす。
「でもお兄ちゃんかっこ良かった。本当にありがとう」
少し照れた後に屈託の無いそれこそ天使の様な笑顔でお礼を言った。
その笑顔を向けられた中年は思う。
(あ〜これ良く有るラノベやアニメのワンシーンだったら主人公はヒロインにドキッとする場面だわ。ワシは何も感じないけど……。オークのロリッ子雌だけに……)
そして雲一つ無い晴れ渡った朝の青空を眺めながらボソリとつぶやく。
「そういえば……オーク姉妹との3Pなんて、マイナーエロ同人でも見た事ないな〜(あっても我輩は買わんし使わんけど……)」
クズである。




