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プラゴル第三章 3


 1

 寝不足の勇者を含む冒険者一行は朝から出発し、一日中走り続けて、日が暮れる頃、ようやく街道にある大きな宿場町に到着した。

「みなさん。到着しました。ここがピンキーリの街です」


「あーそう。でここはどんな街?」

 寝不足と、慣れない旅で疲れたプラゴル勇者はダル気に聞き返す。


「この街は東西南北の交易路の十字路にあたり、行商人や交易商人または王国や神聖国や共和国などの多数の政府要人が利用する交易の街なんです。

だからこの街には様々な宿がありまして、お好きな宿が選べると思います」


 それを聞いた寝不足中年男は態度を変え嬉しそうに答える。

「なるほどね〜そりゃ良いや。もう、野営キャンプは懲り懲りだから」


「じゃあ早速ですけど、どんな宿があるかみんなで調べてみましょうよ」

 その後、冒険者一行は馬車を街にある旅人が利用出来る厩に預け、宿を探す為に街に繰り出したのだった。


「この街の中心街にある宿泊所組合の事務所が観光や仕事で訪れた人々の為に宿の案内をしているそうです。早速行ってみましょう」


 そして宿泊所組合の建物に入り、受付に話すとそこにいた中年の男性が快く対応してくれる。


「そちらは四名様のグループですかね。この街でお泊まりですか?どんな宿をご希望ですか?」


「どんな宿があるのでしょうか?この街は初めてなもので」


「そうですね〜だとしたら、今一番注目を集めてる、猫犬宿なんかどうでしょう?」


「猫犬宿?それは一体どんな?」


「ああ〜、宿泊施設に人懐っこい犬や猫が沢山いるんですよ。そりゃもうモフモフ触り放題。撫で放題。癒されますよ〜。今、家族連れに大人気なんです。

また牛やヤギなど飼育小屋も隣接されてまして、朝は搾乳体験が出来て絞りたての乳が飲めるんです。これがまた子供に大人気でして」


「いいですねっ!それ。旅の疲れが癒されます。皆さんもどうですか?この宿に決めませんか?」

 若い騎士は目を輝かせて冒険者仲間に振り返る。それに対して他の仲間の反応は冷ややかだった。


「わたし〜子猫ちゃんや子犬ちゃんは嫌いじゃないけど、今日はそんな気分じゃ無い。せっかくここまで旅して来たんだから違う楽しみが良いわ」


「ワシにこの年になってまで牛の乳搾りをさせて、どうするつもりじゃ?乳搾るなら女の子の乳を搾りたいわい!」


「あれだよね、君さ〜我輩の世界だったら動物動画を鬼再生する輩だよね。

他の動画配信者が一生懸命色々なネタの動画作ってんのに、猫とか犬とかを映しているだけの動画配信。そんでもって圧倒的な再生数を叩き出して容赦なくコテンパンにする感じ。後、動物可愛がる暇があったら我輩を可愛がって貰いたい」


 一人を除いた他三人の不満を聞いた宿泊所組合の案内人は他の宿の提案をする。

「だとしたら少し料金は高めになりますが、こんな宿はどうでしょう?」


「天然温泉の浴場完備。夜と朝は食べ放題のグルメバイキング付き。またこの宿はスイーツが美味しいと女性を中心に人気なんです。また宿が表通りの繁華街にありましてショッピングや夜の観光も楽しめますよ」


 その内容を聞いた姫巫女オーク女子が嬉しそうに答えた。

「それ良いじゃない。やっぱりせっかくここまで来たんだもの。少しは楽しまなくちゃ。人間の世界の街の賑やかな観光も経験したいし。それに食べ物もおいしいとなればなおさら」


「う〜ん。僕はその宿でも構いませんけど、そんな豪勢な宿は宿泊料も高いのではないでしょうか?たしかに今回の冒険の費用は王国から出して頂いていますが、あくまで、死霊の学園攻略。死霊の女王討伐が目的で観光目的ではないので……。ちょっと気が引けます」


「なんじゃそりゃ ここじゃなくても甘い物なんか何処でも食べられるじゃろ。

それにあれじゃ、年取ると食も細くなって食べ放題のバイキングなんて拷問みたいなもんじゃ。それに年寄りが誰でも温泉に喜ぶと思ったら大間違いじゃぞ」


「あーよくあるよね。旅先で美味しいもの食べてるあたし輝いてる的な。

お洒落なホテルに泊まってるアタシ私生活充実みたいな。

我輩はそんな小洒落たもんより、ラーメンとかカツ丼とかコスパと量で勝負したいタイプなんだよね。それに風呂とか嫌いだしどうでも良い」


 今度は違う一人を除いた他三人の不満を聞いた宿泊所組合の案内人は少しため息と付くと、他の宿の提案をする。

「そうですか……中々難しいですね。だとしたらこんな宿はどうでしょう?少し特殊ですが男性の団体客。冒険者一行とかに人気ですよ」

 そう言うと案内人の男性は何枚かの写真を並べた。

 そこから解るのは部屋には何故か薄暗い照明に簡素な作りのダブルベットが一つあるだけ。また部屋ごとにシャワーが併設されているが外から丸見えの状態。

 そんな内容の紹介写真を見せた後、淡々と説明する。

「この宿はこの街の裏通りにありまして。そこは酒場など、夜は賑わう場所にありますが、場所が場所だけにその喧騒は深夜まで続く事もあります。また見ての通り値段はお安いです。ちなみに食事は簡素な食事とお酒だけしかありません」


「こんな所、ワシらになんで進めるんじゃ?」

 少し不満げに聞いた老人の魔法使い。しかし案内人の男性は老人の耳にその顔を近づけると小声で何かを告げる。

「お客さん、ここはですね。あの〜…。お泊まりのお客様のお部屋にご要望があればあっち系の商売の女性を斡旋してまして。ムフフ♡というやつです。どうですか?勿論、それは別料金で値段もピンキリですけど。一晩中寝ないで楽しめますよダンナ」

 それを聞いた老人は顔を赤らめ鼻息荒く興奮し、高らかに宣言する。

「決まりじゃな!ワシはこの宿しか泊まらないからな!」


 しかし老人の興奮をよそに他のメンツは大きなため息をついた。

「あの~。僕的には伝説の魔法使い様がそんな怪しげな宿に泊まるのはあまりお勧め出来ません。後、僕はまだ未成年ですからお酒は飲みませんし。それに支払った費用は全部領収書を貰って後で王国政府に提出しますので。なんというか、その〜いかがわしいモノには…」


「私もいくら宿泊料が安くてもそんな下品な宿は反対です。あっ!でも、ダーリンと二人で一部屋なら良いかも……。あっ、やっぱり駄目。ダーリンと二人の初めてがそんな糞宿じゃロマンチックの欠片も無い!」


「出たよ、ちょと怪しい穴場の宿展開。おかげで昔そんな所に泊まった時の嫌な事を思い出しちゃたよ。ピチピチギャルと会える思ったら、我輩より遥かに年上の恰幅のイイお嬢様。思わず写真と違いすぎると聞いたら、その写真一ヶ月前に撮った写真だから、とか真顔で言いやがんの。結局今でも童貞。むしろトラウマ」

 

「そもそも勇者!お主は人の注文にケチばかり付けてお主はどんな宿が良いんじゃ!」


 そう言われたプラゴル勇者は少し考え込むと真剣な顔つきに変わり語り出す。

「旦那を亡くした若くてナイスバディな美人の未亡人が一人で切り盛りするペンション。ついでに父性愛にちょっと飢えてて我輩くらいの年の男に思わずトキメイちゃう幼くて可愛い姉妹が居たらなおよし!」


「なんじゃそんなお主だけに都合のいい宿なぞある訳なかろう」


「勇者様。さすがにそんな条件の宿は無いかと……」


「ダーリンたら、相変わらず空想の世界で生きてる感じで非常識。おまけに我が侭。でもそんなダーリンの性格が……」


 そんな彼らの会話を聞いていた案内人の男性が真剣な表情で皆に語りかける。

「そちらの中年の男性の方はもしかして、ここの地元の出身の人ですか?」


「いいえ、まったくこの街どころか、この世界にも一切縁が無い人間ですがなにか?」


「だとしたら予言者か何かですか。まあいいです。実はその条件にぴったりな宿があるんですよ。ちょっと街の中心部から外れていますが、家族経営で細々とやっている宿が。そこなら格安でご案内出来ますが」


「そうでござるか!ちょと、そこんとこ、詳しく!」


「いえね、ここは交通の要衝にある街でしょ。だから宿の商売も競争が激しくてね。ましてやその宿は街のかなり隅に有って、こじんまりしている。だから大きな団体客は取れないし、個人か数人の利用で一杯。また、なにせ奥さん一人でやってるもんだから、食事も質素な家庭料理が中心で派手さがないんでさ。

だから宿泊費を多く出せない人々がメインなんですが、ここ最近の幽霊騒ぎでね。ここもそう言った人々の観光客が減ってしまいまして」


「決まり。我輩の冒険者のリーダー権限でそこに泊まるの決定!」


「反対じゃ!ワシはそんな所泊まらんぞ!」


「私も反対です。やっぱりせっかく来たんだから美味しい物を食べなきゃ」


「ぼっ、僕も反対です。ここはみんな先ずはモフモフで癒されるべきかと」


「よし、こうなったらジャンケンじゃ、いや、ジャンケンの三回勝負じゃ!」


「あっ、もしかして魔法でズルをする気じゃないですか?僕が思うにここは公平に一回戦はジャンケン三回勝負。その後、アミダくじなんかどうでしょう?」


「わかったわ。残り一回戦は腕相撲で勝負よ!」


「なんじゃそりゃ!年寄り相手に向きになりおって。そんなの話にならん!」


「なによ!大の男三人が女の私が提案した腕相撲で尻込みする気。そうなったら。私の不戦勝でスイーツ宿に決まりよ!」

 そう言いながらオーク女子が真顔になって両手で拳をポキポキ鳴らすもんだから誰も逆らえない。


「待って、我輩にも提案が……。我輩は平和にコックリさんで決めるのはどうでござるか?冒険者チームのリーダー提案で」

 そのリーダー提案は速攻無視された。



 そして長い戦いの末、日が暮れる頃に勝負は決した。



『ぐがぁぁぁあぁっっっっ』

 飛び交う、悲鳴。


「じゃあスイーツ食べ放題の宿で決まりね」

 勝者である姫巫女オークは満面の笑みで受付に向かい宿泊の予約を入れようとする。

「あの〜スイーツの美味しい宿に泊まる事に決まりましたの。早速そちらの宿に泊まる事を連絡してくれるかしら」


「お客様スミマセン。その宿なんですけど、先ほど女性の団体客が入ったようでお泊まりできません」

 ただ唖然として無言になる姫巫女オーク


「じゃあ、ワシじゃ。二番手勝利のワシの泊まりたい宿に決まりじゃの」


「ああ、そちらの宿も他の男性の冒険者の方々で部屋が埋まりまして……」


「なんじゃ、この期に及んでいたいけな老人を出し抜き追って。ちょっとその宿のオーナーを連れてくるのじゃ。説教してやる!」


「さすがにそれは無理かと……」


「じゃあ僕ですねモフモフ最高です。いや〜楽しみだな〜」


「その〜。そちらの宿も急遽、訪れた家族連れで満杯に……」


「えっそうなんですか。そんな〜……」


「ていうか言い辛いのですが、時刻はもう夕方の日が暮れる頃。この時間まで決めなければ大抵の宿は埋まってしまうかと……」


「じゃから早くワシの泊まりたい所に決めるべきと言ったろ。モタモタしてこのざまじゃ」


「ところで皆さん。町外れにある質素ですが家族経営のあの宿ならば、まだ、空いてますので泊まれますが。どうしますか?」

 それを聞いたプラゴル勇者は両腕を高く上げガッツポーズ。


「ふふふっ。流石我輩。いや、運命感じちゃうね。こりゃもう、幽霊討伐の冒険辞めるしか無いでありますか。元人妻とその娘達との我輩のラブコメ物語始まっちゃうし。うほっww」



 2

 こうして冒険者一行は町外れの小さな宿に向かったのだった。

 そして日が沈み辺りも暗くなった頃、街の外れにある寂しい場所にある宿に到着したのだった。


 しかしその建物を見た第一声の感想。

「何じゃこのあばら家は……。とても宿とは思えんのじゃが……」

 その外観は宿としては勿論の事、人が住む住居としても古く貧しさを連想させた。少し気が落ち込むも冒険者一行は気を取り直しあばら家の玄関に立つと、おそるおそるその扉をノックする。


 しかし、反応は無し。

「留守ですかね。どうします勇者様」

 そんな事を言っていると、扉が少しだけ開いて小さな女の子が顔を覗かせ、無言でこちらを見つめる。


「おっ、いるじゃないか。あの〜お嬢ちゃん。我輩達。今夜この宿で泊まりたいのだけれど」

 そう言うと、それを聞いた女の子が後ろを振り向き、声を上げる。


「ママ〜。今日泊まりたいって言ってる、お客さんが来た〜」


 それを聞きつけたのか奥の部屋から何かしら物音がした。どうやら家事をしていたらしい。しかし突然の訪問にも若い綺麗な女性は笑顔で駆けつけ、朗らかな様子で答えたのだった。


「す、すみませ〜ん。宿泊のお客様ですね。どうぞいらっしゃいませ」

 朗らかな挨拶とともに四人は家の中へ案内されたのだった。


 案内されたのはリビングなどではなく食卓。四人が席に着いたのを確認すると女性は丁寧にティーセットを用意し、暖かいお茶を注ぎ皆に配る。その後彼女も席に座り笑顔で話し始めた。


「初めまして、ワタクシここで宿を営みますローザと申します。なにぶん一人で切り盛りしていますので、至らぬ事もありますが、皆様には心地よいご宿泊を提供したいと思いますのでよろしくお願いします」

 優しく丁寧な挨拶をすると宿の女性は深々と頭を下げた。

『こちらこそよろしくお願いします』

 その派手さは無いが落ち着いた親切な対応に皆安心して頭を下げる。最初こそ戸惑ったが、その後は明るく落ち着いた雰囲気がこの部屋をつつむ。

 続けて宿の女性は話をする

「その装いを見ますと、皆様は冒険者ですか?」

「はい、そうなんです。でも僕なんかはまだ駆け出しで、色々戸惑うばかりで」

 などと、コミュ症の勇者をのぞいて皆それぞれ話し始め会話が徐々に弾んでいった。


 そんな中、プラゴル勇者は慣れない会話の中に入れず無言を貫く。暇なので、半分空いた扉から顔を出してこちらを覗いている小さな少女をチラチラとみていた。たまに目線が会うと少女は恥ずかしそうに顔を隠した。

 それを見て(この女子だけには我輩が纏う只ならぬオーラを気付かれてしまった様だな)などと無意味な事を妄想していた。


 その後、会話が落ち着いた頃宿の女性が切り出す。

「それで、みなさんお泊まりはどの位の日数をご希望でしょうか?」


「ふむ。今日を含めて一泊二日位じゃな。短い間じゃがよろしく頼む。それとじゃ、明日からの旅立ちに必要な日持ちのする食料なども用意して頂けると助かるのぉ〜」


「短いなんてそんな。今晩だけでもゆっくり私の宿で休息して行ってください」


「そう言って頂けると助かります。私、オークの世界でもこう言った家庭の雰囲気がある宿に泊まった事がないので楽しみです。それに無理はお肌に大敵ですし」


「あの〜それで突然申し上げにくいのですが料金はおいくら程でしょうか?」


「すみません。久しぶりの冒険者の方々との会話が楽しくて言い忘れていました。四名様の一泊二日のお泊まりと数日分の食料ですので合計45000オカネーになります」


「畏まりました。先払いで、今お支払いしますか?」


「ありがとうございます。そうして頂けると助かります」


 こういった仲間の対応を見てると、自分ひとりで冒険に出られたのだろうか?いや無理。などと思いを巡らす良い年齢の中年勇者。

 その社会的コミュ力は隣に居る青年にも劣る。


 その後お金を受け取った女性は静かに席を立ち、客室がある二階に上がって行った。静かになった食卓では二階での会話が聞こえる。


 「オネーチャン。客室を掃除してたの?ありがとう。ところで急ぎで悪いんだけど商店街へ買い出しに行ってきてくれる。場所はいつもの所の……。お金は今さっき頂いたからこれで……」

 そんな会話の後、裏口からオネーチャンが出て行く音が聞こえる。

(ていうか今食材買いに行くのかよ。まぁよく考えたらうちらも突然来た訳だからその分なんて用意してる訳ないか。

それにこの宿、流行って無さそうだし……)


 しばらくすると宿の女性がまた食卓に姿を現して提案する。

「ところで、みなさんお食事の前にお風呂なんてどうでしょう。長旅でお疲れでしょうから」


『いいですね。是非』

 この提案に関しては風呂嫌いの元引きこもり以外は皆賛成だった。


 だが、そこからが大変だった。先ほど会った小さな女の子が井戸から水を汲み上げ風呂釜に水を入れる。そんな事を何往復もしだした。

 また宿の主人である女性は必死に薪をくべ風呂釜の水を湧かす為に火をおこそうとする。

 そんな光景にいたたまれなくなった従騎士と姫巫女は少女に変わり水汲みを手伝う。また風呂釜の火は大魔法使いの老人が魔法で火をおこし風呂釜の水をお湯にする手伝いをし出した。

  勿論冒険者一行のリーダーの勇者は何もせずそれを見学するだけである。

 そんな光景を見ながら勇者は思う。

(金払ってんのに手伝うとか合わねー。やっぱり中世ファンタジーのリアルは不便すぎて駄目だわこれ)


 そうこうして風呂が湧いて男性と女性に別れて順番に風呂に入る。

 宿の女性はその間に買い物を終えたオネーチャンが帰ってきたので、宿の家族三人で夕食の準備を始めるのだった。


「ねぇ、ママ、今日はお肉が食べられるの?後、食後の甘いお菓子とか?」

「これはあのお客さん達の食べ物よ。私達の食事とは別なの。ミリアは我慢して」

 台所で調理する宿の女性と少女が小声で会話する声が聞こえる。

 その会話の内容が内容だけに風呂から上がり、食卓で待つ四人に何とも言い得ない空気が漂う。

(ああ、スゴいやな予感がする)


 だがプラゴル勇者の心配を余所に、しばらくしてから食卓に並んだ食事は具のしっかり入った暖かいシチューや、焼きたての柔らかいパンに、これまたこんがり焼かれ肉汁が溢れ出す大きなソーセージや、香辛料の利いた肉料理など家庭的で派手さは無いが食欲がそそられるモノだった。一方向かいに座る宿の家族達の食事は一目見て解る程質素な物だ。


 空気を読む事が苦手なプラゴル勇者。そんな事は気にせず、お腹が減っていたので早速食事をいただこうとした。

だがその手はすぐに止まってしまう。

 なぜなら目の前の家族達はまだ食事に手を付けずお祈りを始めたからだった。

おまけにそれに釣られて仲間の冒険者一行も食事前のお祈りをしている。


 仕方なくプラゴル勇者も付き合う事に。そして思う。

(こっちは腹へってんだよね。牛丼屋だったら速攻食いつく所だよ。もう異世界異文化交流糞食らえ)


 その後ようやく、お祈りも終って食事をとる冒険者一行。皆口々に感想を言う。


「スゴく美味しいです」

「うむ。家庭的で懐かしい味でわしは好きじゃな」

「奥さん、料理本当に上手ですね。私花嫁修業中なんで、今度教わりたいです」

  皆食べ始めて早々料理を絶賛。しかし同じ様に食事を始めたプラゴル勇者だが、その手はすぐに止まってしまう。

 なぜなら、前方から熱い視線を感じ、その視線の主に目を向けると食卓向かいに座る小さな女の子が中年男の前に並ぶ食事を無言でじっと見つめていたからだった。


 普段空気を読まないプラゴル勇者もその意味を察っする。

(てか、スゴく食い辛い。こっちは金払ってんだけど…。まっいいか、貧乏な少女や幼女を飯で釣る。好感度アップはギャルゲーの基本。我輩レベルになるとそんなお約束展開フラグ回収もお手の物)

 そう邪な考えが浮かんだプラゴル勇者は引き攣った笑顔で家族達に話しかける。

「料理はスゴくおいしいけどよく考えたら我輩お腹いっぱいなり。

お嬢ちゃん我輩の分も食べてくれるかな」


「えっ良いのおじさん?」


「うん。いっ、いいよ…」

 その肯定の返事は本心駄目だけど良いよの肯定。しかし純真無垢な家族達にはそれを察する事は出来なかった。



 3

「お肉、すっごくおいし〜」

「このパンもスゴく柔らかい」

 笑顔で食事する姉妹。

 その後、食卓の雰囲気は少し明るさが増す。そんな時、隣にいた従騎士も目の前の食事を差し出す。

「そう言えば僕もお腹がいっぱいなっちゃた。でも残す訳にいかないから、もし良かったら皆さんで食べてくれますか?」

 続く様に他の他の二人も目の前にある料理を家族に差し出しす。

 結果、一人を覗いて暖かい雰囲気に包まれる食卓。


(おい、なんだこいつら、人のフラグ横取りすんな。クソがっ!)

 空きっ腹で苛つく心をひきつった笑顔で必死に誤魔化すプラゴル勇者。

 一方、久しぶりのご馳走に溢れる笑顔で食事をする家族達。

 そんな貧しくも暖かい家族の幸せな食事風景を眺めているだけで冒険者達のお腹も一杯になる……訳ない。


(なぜ、我輩は夢を見てしまったんだろう。後この空きっ腹で今夜は寝れんのか我輩)

 そう自問自答するプラゴル勇者。

 と、そんな時、宿の玄関の扉を叩く音がする。


「こんな時間に誰かしら?」


 宿の女主人が席を立ち、扉に向かって玄関の扉をゆっくり開ける。


 その瞬間、扉の向こうにいた人物を見た女性は驚きで体が硬直し、動けなくなるのだった。


「ローザ。ただいま。三年ぶりだね。元気だったか」

 そう言うと扉の向こう側にいた男性は女性主人を抱きしめた。

 ただ、唖然として抱きしめられる未亡人妻。


「あなたは……三年前にモンスターに襲われた事故で…行方不明になって死んだはずじゃ…」


「ああそうだ。確かに俺は三年前に俺は出先でモンスターに襲われ、大きな怪我をして生死を彷徨った。だけど奇跡的に一命を取り留めたんだ。

しかしその時に記憶を失ってしまってな。今までの間、俺の事を誰も知らない場所で生きてきたんだ。だがこの前偶然に記憶を取り戻し、ここに戻ってきたんだ」


「ああ、神様……」

 女性の目には涙があふれる。


「オトーサーン!!!」

「パパー!!」

 その様子を見ていた子供達は席から飛び出し抱き合う父親と母親に抱きつく。

 そして家族は涙を流しながら感動の再会を噛み締めるのだった。


(なにこれ……いや、何この展開。我輩の若妻未亡人アンド幼い娘達との甘い生活と言うラノベ的ご都合主義展開が速攻終了なんですけど…)


 ふと冒険者一行の様子を見るとみんな感動で涙を流して居る。


(なんだよ、こいつら、これだからニワカは……)

 イラつく中年男性。




「ところでローザ。こちらの方達はどなたかな。見た所冒険者みたいだけど。

 再会の興奮も収まった頃、父親を名乗る男性がこちらを見てそう言った。


「あっそう、紹介を忘れてたわ。皆さん突然取り乱してスミマセン。この人は長い間消息不明だった私の主人になります」

 それに対して涙を拭きながら(一人を除いて)会釈をする冒険者達。


「こちらの方達は今日お泊まりになるお客様達なの。本当に優しくていい方達なの」


「それはそれは、失礼しました」

 

「私、元はこちらの宿の経営をしていましたダンと申します。

皆さん今日はこちらでゆっくりして行ってください。早速ですが、私も稚拙ながらお世話をさせて頂きます」

 そう言うと男性は深々と頭を下げた。


「え〜パパ〜……」

 幼い女の子が小さな声で駄々をこねる。

 二度と合えないと思ってた父親との三年ぶりの再会である。無理も無い。

 それを悟った女性が小声で男性に耳打ちをする。

「いいえ、あなた。今日は無理をしないで。後は私が全てやるからあなたは子供達と一緒にいてください」

 そう言った女性に対して男性は困った顔で言う

「いや、大事なお客様を前にそう言う訳には……」



「ゴホンッちょっとよろしいかな。ご両人」


 女性と男性の会話に老人が割って入る。

(おっ、じじい。文句言う気か?いったれいったれ)


「あっお見苦しい所を失礼しました」


「気せんで良いわい。わしらは気ままな冒険の者。

ところで、様子を見るにお主ら家族は生き別れた父親との奇跡の対面とお見受けするけど、どうかな?」

 そう言われた家族達は黙って首を盾に振る。


「そうじゃろうて。さすれば、ワシらはそれを邪魔する野暮な真似はせんて」


(はっ!?このじじい何言ってんの?意味解らん。いや意味和解らんて)

 プラゴル勇者が老人の突然の提案に驚いていると、涙を拭き少し落ち着いた姫巫女オークが話し出す。

「そうよ、私たちはまた別の宿を探しますから今夜は家族だけで楽しく過ごして」


「うむ。この姫君の言う通りじゃ。探せばこれから泊まれる宿くらい他にあるじゃろうて」

 姫巫女オークの唐突の提案にジジイも同調。


(エエ—————————!コイツら正気か?いや元からチョットおかしかったけど)


「でもお金も先払いして頂いたのにそう言う訳には。せめて今晩だけでもしっかりと私達がしっかりお世話して頂かないと」

(うんうん)

 プラゴル勇者、女主人のその発言に腕組みしながら首を大きく立てに振る。

(そうだよ、もうお金払ってるもんな。しっかりお仕事してもらわんと。

泊まるだけ泊まらせて。お願い。

 我輩はもう新たな夢は諦めるからさ。もう美人で未亡人の女将じゃなくて、旦那居るし。しかもその旦那ちょっとゴッツイし。ラブラブだし。手を出したら殺されそうだし)


 そんな邪な事を思っていたら隣に座っていた従騎士が立ち上がり答える。


「お支払いしたお金の事は気にしないでください。僕たちこの冒険の旅の旅費に関してはしっかり王国政府から頂いていますので。そのくらいは何でも無いです。ねぇ勇者様」


(最後の最後で我輩に振るなよ。この糞ガキが!)

 内心そう思ったがすでに外堀は完全に埋められ、白旗を揚げるしか無い状態。

「うっ……う〜ん。しょうがない…よね」

 中年男性の苦渋の発言。


 そう言われた宿の主の夫婦は揃って涙を浮かべながら深く頭を下げる。


『本当にありがとうございます!』


 中年勇者は頭を抱える。


(はい。脳内お花畑のこいつらのせいで今日は野宿決定。死ねよ。マジで死ね)




 4

 こうして家族に見送られ、宿を後にした冒険者一行。

辺りはもうすっかり暗くなっていた。またポツポツと雨も降りだしている。


「これはちょっと、野宿は無理そうじゃの」

「じゃあもう一回冒険者組合事務所に行ってみましょう。まだ、空いている宿があるかもしれませんし。


 そうしてもう一度冒険者一行は宿泊所組合事務所に向かったのだった。



「いやさすがに無いですよ」

組合事務所の営業時間終了間際で滑り込み受付に相談したとたん、即答で否定される。


「どうしますか?」

 四人は窓の外を恨めしそうに眺める。窓の外ではすでに雨が本格的に降り出している。


 その様子を見た受付は深いため息を着いて話し出した。

「まぁ、雨風をしのぐだけで良いと言うなら、ある事にはありますが、あまりというか、本当にお勧めで来ませんよ」


 それを聞いたプラゴル勇者は慌てて割って入る。

「いや、そこは嫌な予感がする。宿じゃなくていいからさ、ちょっと天然が入っていて可哀想な我輩達を面倒見たがる。優しくて可愛い三十路すぎた女子のいるお家ない」


 しかしプラゴル勇者が言った言葉を遮る様に他の三人がが受付に頭をさげる。


「そこで良いんで是非お願いします!」


 こうして冒険者リーダーの意見は軽く無視され、彼らの泊まる宿は決まったのだった。



 5

 その宿は貧民街の中にあった。道路は雨でぬかるみ、ゴミが散乱している。街灯はほとんどなく、あっても壊れていて不気味に点滅している。また。雨の中でも酒で酔いつぶれそのまま寝ていうる者もいたり、喧嘩している連中もいた。そんな場所である。


 そんな中の街角に壊れていて怪しく点滅する看板がぶら下がる建物。あからさまに怪しい宿があった。


 薄暗い宿の受付には顔には入れ墨、髪も髭もぼさぼさの不潔なオッサンがいた。

「ああ、四名様一泊食事無しで80000オカネ―ね。後うちは風呂は無ぇから。それにトイレは突き当たり男女共用共同が一つだけ」


「高っ。前の宿は食事風呂付き、持ち帰りの保存食付きで45000オカネ―

だったのに」

 従騎士が思わず口に出てしまう。


「いやなら、いいんだぜ」

 そう言ったボロ宿の主人は出入り口の外に視線を移す。外は雨が土砂降りになって降っていた。

 結果、彼らはその宿に泊まる事となったのだった。



 怪しい宿の主人の案内で泊まる部屋に向かって薄暗い廊下を歩いていると、“バッゴッォ“と大きな音を立てて廊下の床が抜けて、プラゴル勇者の足が落ちる。

「痛って———!」叫ぶ勇者。


「あっ、そこら中の床が腐ってるから歩く時、気をつけてや。

まぁ今回の床の修理費はサービスしといてやらぁ。だけど次は別料金で金取るぜ。ヒヒっ」

 そう言って薄ら笑いを浮かべるボロ宿主人。


 そうして案内された四人部屋には照明は薄暗く粗末な木のベットが四つあるだけのタコ部屋だった。おまけにその床の真ん中には人の形をした白い線の後と黒いシミが残っている。


「えっマジっこの部屋で泊まるのかよ」

流石の不気味さに声を出してしまうプラゴル勇者。


「でも、そとが土砂降りの中、屋根の下で寝れるだけマシじゃの」


「そうですね。今日は良い物みて、良い事したからぐっすり眠れますよ」


「あんな夫婦に憧れちゃう。今日は良い夢見れそう」


『おやすみなさい』

 一人を除いて皆意気揚々と眠りにつく。


(コイツらどんな思考してんだよ。しかしさすがにこの状況じゃみんなも簡単には寝れないよね。我輩もそうだし)と思っていたすぐ側から

ぐごっぉぉぉぉ〜。ぐごっぉぉぉぉ〜。

ぎぃぎぃ—————。ぎぃぎぃ—————。

アンッ♡、……イヤンッ♡

ママ〜〜〜〜〜……。……ブチッ殺すぞ!!

ブボッぶぶぶぶぶぅ———————————プッ

ダーリン……

勇者様……

ぶぶぅ———————————プッ

……


 歯ぎしりと寝言。豪快ないびき。屁の音が聞こえ出したのだった。


(すげーな。……。はぁ〜。我輩も寝よ。寝て、今日の嫌な事全部忘れませう)


 そう言って部屋の明かりを消して眠りに着くプラゴル勇者。今日一日の疲れからか、他の三人の騒音と悪臭は多少気にならなくなっていた。


 そして眠気により意識が無くなりそうになるその時。


プゥ〜〜〜〜ン。プゥ〜〜ン。………。プゥ〜〜〜〜ン

 頭の周りを蚊らしき物が飛ぶ音が聞こえだす。


(糞ボロ宿が!)

 イライラしながら手で頭の周りで振り払う。

 それで蚊が居なくなったとおもったらまた、

プゥ〜〜〜〜ン。プゥ〜〜ン。………。プゥ〜〜〜〜ン

(無視。無視)

 諦めて体勢を変えて眠りにつく。再度、眠気により意識が無くなりそうになる。


 すると、今度は部屋の床から“カサッカサッ”と謎の虫の蠢く音がする。

おまけにその音に混じって“チューチュー”とネズミが鳴く声が聞こえる。



 そんな環境と小1時間程格闘した末に眠気がピークに達した深夜頃。

 窓の外から「この野郎ッ!ぶっ殺してやる!」「おうっ返り討ちにしてやらぁ!クズやろう!」という喧嘩の声が。

 それ以外にも「ウェ————————!」とか「ギャ———————!」とかの叫び声と喧騒が激しい雨音に混じって終わり無く聞こえる。


 そしてあげくの果てには薄い壁に隔てられた隣の部屋から、大きな音と、悲鳴にも似た叫び声が…。

《バチンッ!バチンッ!》

「痛いっ!」

「相変わらず汚ねーケツだなーえぇ?」

「イヤンっ!やめてぇ〜ん。そんなにお尻を叩かないで〜」

「うるせー。オレはオメーの汚ねーケツを叩くのが好きなんだよ!」

 そんな感じで夜の情事にいそしむ別の泊まり客の会話が聞こえる。こんな貧民窟の糞宿にまともな奴が泊まっている訳ないと睡眠を犠牲にして実感。

(今度は何だよ!?もう、いい加減にして)


「嫌だなんてイイながら、良がってんじゃ無いのか?この糞ビッチが!オラッ!ウラァッ!これでどうだっ!」


「アンッ!イヤンっ!ダメ〜んっ♡」


(ああ〜なんだかこんな時間にイヤラシい喘ぎ声なんか聞いてると、こっちが変に興奮しちゃうよ。でもこれもこんなボロい宿のおかげ。ちょっと得した気分。でもこんなんじゃ眠れん…)

 そんな事を思いながらムズムズしている間、隣の部屋では更に会話が続く。


「こんな壁の薄い部屋じゃエッチな声が他の部屋にも聞こえちゃう」


「なに?恥ずかしがってんじゃねーよ。あえて聞かせてんだろーが!お前だって誰かに聞かれてると思うと興奮するんじゃねーのか?」


「でも、やっぱりはずかしい〜♡」


「良く言うぜ、並のモンスターなら素手で絞め殺せる怪力のオッサンのくせによ。それに、お前のヨダレと汗で濡れた髭面と胸毛はそうは言ってないぜ!」


(えっ髭面!?胸毛!?怪力!?って、隣の奴らガチムチのオッサン同士かよ!うわっ!マジっかんべんして!)


 しかし、それからも激しいオッサン同士が絡み合う音と声が漏れ続けた。

 結果、勇者を一晩中終わり無き悪夢の様に苛み続けたのだった。



 そして、真夜中に一向に眠れないプラゴル勇者は考える。

(ゲームで宿屋に泊まるとステ全回復とか、ありゃ嘘だわ。……糞がっ!)





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