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プラゴル勇者、異世界に勃つ!

プラゴル勇者 

第一章 


 1

 暗くただよう分厚い雲。乾き吹き荒れる冷たい強風。険しい山々に囲まれた荒涼とした大地の上に城壁に囲まれた城塞があった。その中央にそびえ立つ高さ50メートルの塔の天辺で一人立つ、男は叫んだ。

「いやいやちょっと待ってよ!なんでこんなことになるのよ!」

 眼下に広がるは灰色の大地。その大地に砂塵を上げ魔王配下のゴブリン一万の軍勢がゆっくりと城塞に向けて進軍して来る。それを眺めその男(名前を木喪杉・夫太朗という)は呆然と立ち尽くす。

「我輩、一体全体何か悪いことをしたか?」

 呟いた後に一人考え込む。そして彼の脳内にかつての生活の光景が浮かんでは消えて行く。

走馬灯の様に駆け巡る過去の記憶に中年は涙を浮かべ空を仰いで叫ぶ。

「元いた場所に返してくれよー!」



 2

 鋼と魔法が支配するイーセカーイ大陸。この大陸ではかつて幾度もこの世界を滅亡の危機に陥れた魔王が存在していた。そしてその度に異世界から召還された勇者が魔王を討伐し、世界の平和と秩序を取り戻して来た歴史があった。

 しかし再びその魔王がかつて無い程の強大な力と身に付けて復活。平和なこの世界に激震を走らせた。そしてその魔王復活にあわせる様に大陸全土の魔物の行動が活発化し世界中を混乱させていった。


 最強の魔王が復活。それに対抗するベくイーセカーイの人類も再び異世界から“最強の勇者”の召還を試みるのであった。



 3

 イーセカーイ大陸の中央に位置するミッドランド地方センタール王国北部を東西に貫くケワーシ山脈。険しい山々と高い標高による寒冷で厳しい気候のその場所に異世界より勇者を召還する為の巨大な塔がそびえ立つ。その塔を囲む様に分厚い城壁に囲まれ城塞と化した、召還の塔ゲートン。

 冷たく乾いた強い風が吹く暗い空の下、城壁に二人の騎士が立っていた。

「召還の儀式はまだ始まっていないのか?」

 壮年の騎士はいらただしげに隣にいる騎士に問いかけた。

「はい。召還の儀式には入念な準備が必要とかで」

「そうか、かつての大英雄の一人、ジルジ・ズケルベ大魔導士もかなりの高齢のはず。致し方あるまい」

 壮年の騎士はため息を着き目の前に広がる荒野に視線を向ける。そのとたんその視線は遥か向こうに釘付けになる。そしてその腕をその方向に指差す。

「おい、アレを見ろ!」

 隣にいた若い騎士は言われた方向に目を向けとそこには、遥か遠く山脈の切れ目に突如多くの土煙が沸き立っていた。

「まさか!あれは魔王軍の軍勢だ!こっちに向かって来ているぞ!」



 4

 センタール王国の王都ドゥマンナカ。その中心にそびえ立つ王城キングパーレスの最上階の一室で純白のドレスを身に纏った若く美しい女性が大陸全土から寄せられる災厄に関する報告書に目を走らせていた。

 プラチナブロンドの流れる様な長い髪。明るい碧眼と透き通る様な白い肌。またエルフの特徴である先が尖った耳をしたその女性、名前はオルフェ・パイルデケェ。今は亡き先代の王とエルフの女王の間に生まれ、現センタール王国の王女である。そしてその美しさは尊敬を持って王国中に知れ渡っていた。

 彼女は報告書を読み終えると、深いため息をつき机の上傍らに置かれた本の上にそっと手を置く。

 その本はかつてこの世界に存亡の危機が訪れた時、異世界から召還された勇者がその危機を救い、その冒険の最中に出会ったエルフの姫と恋に落ち結ばれた事を綴った歴史書だった。

 彼女は静かに願う。世界の危機を救う勇者の再来を。それと同時に密かに憧れる。世界を救うべく、異世界から召還された勇者と彼女との……。



 そんな彼女の静寂のひと時が扉のノックの音で中断される。

「王女様!伝令より緊急連絡です、ケワーシ山脈向こう国境地帯にゴブリン軍が集結。その数およそ一万。敵大将はゴブリンの王、速死のザッコと思われます」

 王女の近衛騎士からその報告を聞いた王女は動揺し、席から立ち上がる。

「まさか!そこは召還の塔ゲートンと眼と鼻の先。我々の勇者召還の儀を気づかれたというの?」

 近衛騎士は片膝を着きその頭を下げるとその問いに答えた。

「敵は勇者召還の阻止、もしくは勇者そのモノが狙いだと考えられます。しかもこの度の儀式は極秘為、精鋭の騎士団を護衛に付けたとはいえ僅か500ほど。これでは……」

「この手際の良さ。もしやそのゴブリンの大軍を動かしているのは……」

「はい。おそらくは魔王。予言された、最強にして最悪の魔王の仕業だと考えられます」

「まだ復活を遂げたばかりだと聞き及んでいますが……。すでにそれほどまでの統率と支配力を発揮し始めているとは…。この世界を最後に滅ぼすと言われる魔王が……」

「しかも予言が正しければその魔王は未だかつて無い程の魔力と力を備えた最悪の存在だと言う事です」

 この王国での長である王女は右手を前に出し号令する。

「早急に救援の部隊を派遣してください。もし篭城戦で持ちこたえてくれれば間に合うかもしれません。いや、何としてもその奇跡を成し遂げなければならないのです!」

「はつ!直ちにッ!」



 5

 その頃、召還の塔の最上階。暗い直径20メートル程の広さの石造りで組まれた円形広間の召還部屋。その磨かれた石の床の中心には巨大な魔方陣が描かれ、魔法の効果によって僅かに発光し部屋をぼんやり照らしている。

 その広間の中心に灰色の大きなフードが付いた尖り帽子を被り、同じく灰色の質素なローブを纏った老人が立っていた。

 その老人はセンタール王国の宮廷魔術師筆頭。大魔法使いのジルジ・スケルベ。口元には白い長い髭を蓄え顔には老齢による深い皺が刻まれていた。しかしその目は今だ、衰えを知らない意思が見える。齢190歳を超える彼はかつて勇者と供に魔王を討ち滅ぼした英雄の一人である。

 そんな大魔法使いを持ってしても召還の儀を執り行うのは困難を極めた。

 なぜなら長い準備期間が必要な上、一度の召還で大量の魔力と体力を消費し、失敗すれば術者の命すら危険にさらされる。

 だが、時は一刻の猶予もない。大魔法使いは決意を固めると右手に持つ魔法の杖を床に打ち付け、長い魔法の呪文の詠唱を始めるのだった。

 すると床に書かれた魔方陣が眩く輝き出す。

 そして老人は長い呪文の詠唱を終えると絶叫する。

「いでよ、この世界を救いし者! 最強を極めしプラチナゴールデンなステータスを持つ真の勇者よ!」

 すると大きな轟音と共に魔方陣の中心からもはや直視できない程の光が溢れ出し、その部屋の全てを飲み込んだのだった。



 6

 厚いカーテンで窓からの光を完全に遮断した暗い六畳程の元子供部屋。辺りには飲みかけのペットボトル、ゴミ箱に入りきらなくなったペットボトルやカップラーメンやコンビニ弁当の明き容器が散乱している。

 そんな部屋の中央には何年も干されていない湿った万年床が敷かれている。その布団の隣にある小さな机の上に置かれたパソコンとゲーム機。そのモニター画面に向き合い、必至に独り言を呟き続ける男性が居た。


 彼の名前は木喪杉・夫太朗。年の頃は既に40半ばで独身。彼女無し年齢で童貞。昼夜逆転、加齢と不摂生、不衛生な生活から頭皮は薄く禿げ散らかし、異臭を伴う体臭。その身体は無職引きこもり生活による運動不足と暴飲暴食によって理想的な中年メタボリック体型を形成していた。

 そんな中年メタボなオッサンが暗い部屋の中、見つめるその画面には流れるプラチナブロンドの髪。透き通る様な白い肌、明るい碧眼。そして純白のドレスを身に纏った若く美しい女性が映し出されていた。

「定番。定番過ぎるよこの女の子。もう少しひねりが欲しいよね〜。まぁオッパイ大きいから良いけど。ムフッ!」

 臭い息を吐きながらモニター画面の女の子に講釈を垂れる中年メタボ男性。そんな中年男性の趣向を外さない画面の向こうの女の子はその目を潤ませ、指を組みその願いを言い続ける。

「恐怖の魔王がこの世界を滅ぼそうとしています。どうかお願いします。勇者様この世界をどうかお救いしてください」


 その後目の前のモニター画面には三つの選択肢が記された。

→◯任せてください。王女様の頼みとあらばどんな事でも成し遂げてみせます。   


 ◯申し訳有りません。今の私には力不足の為それは出来ません。


 ◯やっても良いけど、条件次第だ。その条件とは王女様の……


 中年メタボ男性は迷わず三番目の選択肢を選ぼうとしたその時、それを邪魔する様に部屋の外から声がした。

「夫太郎チャンご飯ができたわよ〜。たまにはこっちに来て一緒に食べましょう」

 その声に夫太郎は苛つきながら返事をする。

「うんっ。僕、今忙しいんだよね。部屋の前に置いといてくれる」

「いいの〜ご飯さめちゃうわよー」

「もうっ!今それどころじゃ、ないんだよ!」

 大声で叫んだ夫太郎チャンはそのまま画面に向かって小さな声で独り言を呟き始める。「今良い所なのに何なんだよ……」

 しばらくすると扉の向こうの声の主は小さなため息の後、「じゃあご飯ここに置いとくわよ……」と小声で言うと階段を下りていった。

 そして部屋の外が静まり帰った後しばらくして落ち着きを取り戻した彼は

「まったくもー我輩は今、世界を救わなきゃならないんだから、邪魔しないでくれる〜。さてと……」

 と、そんな感じでブツブツ独り言を言うと、迷わず三番目の選択肢をクリックした。

「解りました。世界を救う為ならばこの私が……」

 画面の向こうの王女はそう言うと恥じらいながら着ているドレスを脱ぎ始める。

「うひょー!キタコレ、やっと、フラグ立ちました!早速始めましょうか〜ww!」

 そう言いながら画面に顔を近づけ食い入る様に凝視し、右手のマウスのボタンの連打が異常な程早くなる。

 そして映し出される画面の内容が切り替わると同時に、興奮した中年メタボの男性は立ち上がると、履いているシミの付いたジャージのズボンとパンツに手をかける。

 しかし、長時間座りっぱなしの体勢だった為か両足がもつれて、大きい尻を露出したまま仰向けに倒れてしまう。

「うひょっ…… うふっ だひゅっ……焦っちゃダメ〜」

 そう意味不明なうめき声を上げながら、右手で下半身の一部、左手で準備万端とばかりにティッシュの箱を探し始める。

 その時、中年メタボ男性は周囲の異変に気づく。

「なっ、なっ、なんだこれ!」

 それは中年男性が座る万年床を中心に部屋全体が青白い光を放っていた。

「えっ、何っ? 火事?」

 突然の異常事態に男性はキョロキョロと辺りを見回す。そんな時でも右手は露出した貧相なそれを探し続ける。

 その後、溢れ出した光は眩く光る魔方陣へと姿を変え、さらに部屋全体を爆発にも似た激しい光で包み込んだ。

「たっ、助けてー、おかっ おかーちゃぁ———————ん!……あがっ!」

 最後に断末魔の絶叫を叫び、ついでに予期せぬ絶頂に達した中年男性の夫太郎チャンはその部屋から、そしてその世界から姿を消したのだった。



 7

『バガッ—————————————————————ンッ!!!! 』

 突如、耳をつんざく巨大な爆発音が塔の頂上から鳴り響く。

 あまり爆音に塔を守る騎士達全員が驚きながら音の発信源である塔の頂上を眺める。

「なにごとだ!」

 その直後、大声を上げながら騎士団の詰め所にいた騎士団長が慌てて外に出て来る。その騎士団長の名前はステレアス・イニアナーン。

 センタール王国親衛騎士団、団長であり田舎の平民出身で努力してこの地位まで出世した苦労人である。部下からの信任厚く面倒見も良い。また、謙虚で礼節を重んじる姿勢は王国を支える王族や貴族達の信頼も厚い。

 齢40を超えその心労から頭髪は薄いが、健康的な浅黒い肌。どの年齢からしても見事な身体で筋骨隆々。まさに頼れる存在である。だからこそこの召還の儀の護衛任務を任されたのだが……。彼を持ってしても今の状況は風前の灯火としか言い様がなかった。

 そんな彼と置かれた状況だが努めて冷静さを保ちつつ、近くに待機していた騎士に尋ねる。問いつめられた騎士は少し狼狽しながら答えた。

「はい!召還の塔の最上階で大きな光と共に巨大な爆発が起きたようです!」

 それを聞いた騎士団長は急ぎ塔の最上階にある召還の部屋へと向かうのだった。


 8

 塔の長い階段を上りようやく召還の部屋の入り口に辿り着いた騎士団長は召還部屋の扉を警護していた騎士二人が地面に倒れているのを確認する。

 すぐに近づき状況を聞こうとしたが二人とも気絶していて意識を失っている。

 仕方なく隊長は静かに扉を開き、中を覗き込む…。そして彼は目の前の光景に唖然としたのだった。


 そこにはまだうっすらと光る魔方陣の片隅で倒れ気を失っている大魔法使い。そして魔方陣の真ん中で醜い姿をした中年メタボの男が下半身を露出し、あらわになった尻を上げ、うつ伏せになった状態で気を失い倒れている。その貧相な逸物を握りしめながら……。


「なんだ…この状況は……。一体何があったのだ?」

 予想外の光景に騎士団長の額から脂汗がにじむ。しかし気を取り直し慎重な足取りで魔法の衝撃で壁に打ち付けられて倒れている大魔法使いに近づきそっとその身体を起こし、意識を確かめる様に声を掛ける。

「ジルジ様、一体何があったのですか?」

 僅かに意識が残っている老魔法使いは一言

「あわ…あわ…王女様……飯はまだかの……」

 老人は意味不明な一言を言うと白目を剥き意識を失った。

 そしてこの部屋に不気味な沈黙が漂う。

「まさか…。異世界からの勇者召還の儀は失敗したのでしょうか?」

 騎士団長の後ろに控えていた部下の一人が不安そうに問いかける。

 その問いに対して騎士団長は答える事無く、部下に大魔法使いの手当を指示すると、辺りを見渡した。

 そこにはこの世界を救うであろう、異世界から召還された勇者の姿は無く、下半身を露出し醜い姿を晒した中年メタボの男が居るだけだった。

 それを見た騎士団長は怒鳴り声を上げ叫ぶ。

「召還の儀式の邪魔をしたこの豚(中年メタボ)をブタ箱(地下牢)に放り込め!拷問して、誰の差し金かを吐かせてやる!」



 9

「王女ちゃん♡、捕まえた〜♡」

 澄み渡る青い空、何処までも続く青い草原。そんな草原で王女と中年メタボの二人は駆け回り、中年メタボは王女を背後から抱きしめると、二人は草原に転がり倒れ込む。

「王女ちゃん…。我輩はもう我慢……」

 横になり無防備になった王女に間近で向き合う中年メタボ。目の前にあるたわわな豊胸に性欲を刺激され、王女の胸に手を伸ばそうとする。

『バシっ!』「痛って!」

 直後、恥じらう王女に顔面ビンタを食らう。

 だがすぐに気を取り直し、頬をほんのり紅く染め、潤んだ瞳の王女に顔を近づけ熱い抱擁とキスを迫ろうとする。しかし…

『バシッィィィッン!!』「いってぇぇ——!」

 今度は一瞬意識が無くなる様な一撃を顔面に食らう。だが湧き出る性欲が辛うじて彼の意識を繋ぎ止める。多少の動揺はあるものの彼はめげずに再度王女の顔に口づけとその胸を優しく撫でようとするが

『バッゴッ——ン!』「うっごっ!」

 あまりの痛みに言葉にならない叫び声を上げる。

 その顔面に食らわせられたストレートはもはや女性の力とは思えない強烈なモノで中年メタボ男性の意識を闇の中に沈める。そして闇の中から男の声が聞こえるのだった。

「おいっ!起きろっ!豚野郎!」

「王女様、幾ら何でも我輩はそんな言葉攻めで喜ぶ程ドMじゃないでござるよ」

 眠りの中から目覚め、まだ寝ぼけている中年メタボは鼻血を垂らしながらもニヤけながら答える。

 しかし直後頭から冷たい水を浴びせられた中年男は「ひゃっう!」と声を上げながらようやく眼をさましたのだった。


 10

 そこは暗くジメジメとした冷たい石壁に囲まれた牢獄だった。

 長年引きこもっていた中年ニートにとっては突然見慣れぬ光景にとまどうばかり。しかも目の前に鬼の形相をした髭面のおっさんが(自分もオッサンだが)いるのだからなおさらである。

「貴様!あそこで何をしていた!」

 続けざまに突然怒鳴られた所で何が何だかさっぱり理解できない中年メタボ男性。 

 彼の頭にはオッパイの大きい王女ちゃんといちゃついていた夢が浮かんだが当然そんな事は言えない。

「なにって、なに? あっ、あの、なんのことでござるか?」

 とりあえず声を出して聞いてみる夫太郎チャン。彼の脳内には意味の分からない誤解を解いて早々にゲームの続きをしたい欲求だけだった。

 その危機感の無い表情と受け答えになおさら語気を荒げる騎士団長。

「ふざけているのか!お前はこの世界の危機を救う為の儀式、我々の僅かな希望を邪魔したのだぞ!この腐れ豚野郎!」

 そう中年男性に大声で罵声を浴びせると将軍は豚野郎の胸ぐらを掴んで持ち上げ、激しく揺さぶる。

 激しく揺さぶられることで中年男性の腹についた無駄な脂肪がぷるぷる揺れる。ついでに下半身丸出しの為、一仕事終えて縮こまった貧相な一物も申し訳程度に揺れる。

「ぐっ…ぐるじ…い」

 胸ぐらを締め上げられ呼吸ができず薄れ行く意識の中で夫太郎チャンは混乱する頭を必至に整理した。しかしまったくと言っていい程、現状を理解できない。

 それでも中年男はなんとか状況を理解しようとする。そして一つの答えに辿り着く。

(これはそうだ!あのばばぁがこの前テレビに特集されてた、引きこもりを強制的に外に連れ出して、更生施設と言うタコツボに放り込む業者に頼みやがったな!ちくしょー!しかもこの糞オヤジ!我輩に暴力なんて振りやがって、ぜってー訴えてやるっ!後そうだ!警察!警察にもだ!)

 普段社会との接点が無いにも係わらず、こう言う時だけ身勝手に他人や社会の組織に頼ろうとする思考の中年引きニートの男性だった。


 そんな状況の中、騎士団長に若い伝令役の騎士が慌てた様子で近づいて来る。

「将軍!大魔法使い殿の意識が戻りました!また、容態を確認した所、幸い怪我は一つもしていませんでした」

 その報告を受けた屈強な騎士は少し落ち着きを取り戻し、つり上げた中年男性を床に下し一息つきながら答える。

「そうか、それは良かった。ならば早速、私もそちらに向かおう。大魔法使い殿には今一度、召還の儀式をおこなっていただき、この世界を救う勇者を一刻も早く異世界より連れてきて頂かなければならないからな」

 しかしその言葉を聞いた騎士はうつむく。

「それが……その…」

「どうした何か問題でもあるのか?」

 伝令の騎士は申し訳無さそうに将軍から眼をそらし、その後ろにいる中年メタボに目線を向ける。

 その様子に何かを感じた騎士団長は苛つきながら後ろに振り返り、地面に横たわる中年男性を睨みつけた。

「この豚が他にもまだやらかしたのか?」

 歴戦の屈強な騎士の隊長に睨まれ、まるで猛獣に睨まれた養豚場の豚の様に中年メタボは震える。

 そしてしばしの沈黙の時間が流れた後、消え入る様な声で伝令役の若き騎士は話し出す。


「それが…。その…。そこにいる者が異世界より召還したこの世界を救う勇者だと言うのです……」






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